第20話 無事に弓を渡しました

 キースらの一軒家を出たリンドとミーは通りを歩いてさっきの旅館に再び顔を出した。中に入るとフロントにいた女性がリンドを覚えていて、帰ってきてるよと階段の上に上がってマーガレットらを呼んできてくれた。


 階段から降りてきたメンバーはフロントの前に立っているリンドと肩に乗っているミーを見つけると、


「リンド、できたの?」


「ああ、出来た。どこで渡そうか?」


 そう言うと皆で顔を合わせてここじゃまずいわねと言うと


「外のレストランに行きましょう。個室があるの」


 そうしてマーガレットのパーティ5名とリンドは市内にある1軒のレストランに入っていった。そこの個室に入って座るなり、


「ちょっと早いけど夕食にしましょう。リンドも好きなのを頼んで」


 そうして各自がオーダーをして給仕が個室から出て行くと待ちきれないのか狩人のユリアーネが


「それでどんな感じになった?」


 と聞いてきた。リンドは予備も含めて2本作ってきたよと魔法袋からロングボウを2本取り出して彼女に渡す。受け取ったユリアーネはそのうちの1本を精霊士のファビーナに渡して自分は手に持っている1本をじっくりと見る。


「すごいわね、この弓。見事に風の魔力が詰まってるわ。しかも弓だけじゃなく弦にもしっかりと魔力が詰まってる」


 先に声を出したのはファビーナだ。じっと弓を見ながらその出来栄えに驚嘆している。


「ここまで風の魔力を均一にそれもしっかりと流し込めるなんて。普通の魔道士じゃできないわよ。当然私も無理ね」


 弓とリンドを交互に視線を送りながらファビーナが言うとユリアーネも


「私も持っただけで違いがわかるもの。すごい弓を作ってくれたわね」


「気に入って貰ったのなら嬉しいね。予備の分も作ったから2本どうぞ」


 リーダーのマーガレットはやりとりを黙って聞いていたが、ユリアーネもファビーナもその弓の出来栄えに感心しているのを見てからリンドを見て


「いい弓を作ってくれたみたいね。私からもお礼を言うわ。それで報酬の件なんだけど」


「その前にちょっと待って」


 マーガレットが言いかけるのを手で制したリンドは魔法袋から杖を1本取り出して僧侶のロザリーに渡し、


「この弓を作りながら、光魔法だけ込めたら僧侶専用の杖ができるんじゃないかと思って作ってみたんだ。この杖には光魔法だけを流し込んである。そのおかげで精霊魔法の効果は落ちるけど回復、治癒などの僧侶の魔法の効果は大きくなってるんだ。1本差し上げるから使ってくれるかな?」


 リンドが差し出した杖を受け取ったロザリーはリンドの言葉を聞いてびっくりして


「僧侶専用の杖を作ったの?」


 すると隣からマーガレットが


「これはすごい杖よ。僧侶の魔法の効果がアップする杖なんて聞いたことがないもの」


「みんながヒントをくれたからね。風魔法だけを使うのなら光魔法だけも使えるだろうと思ってさ。さっきトムの武器屋に8本卸してきたけどこの1本は使ってくれて構わないよ。ただトムには内緒にしておいてね」


「ありがとう」


 杖を両手に抱える様にして持ちながら僧侶のロザリーが礼を言う。


 その後は食事をとりながらの雑談となった。マーガレットらのパーティはミディーノの街の周辺のダンジョンを攻略しているらしく


「もうすぐ最深部だと思うのよ。このままダンジョンクリアするつもりなの」


「なるほど。頑張ってくれよな」


「リンドはダンジョンを攻略したことはあるの?」


 戦士のコニーが聞いてきた。そちらに顔を向けて顔を左右に振ると


「ないんだよね。普段は住んでる森の中の家の近くにいる魔獣を倒してるだけかな」


「ランクBの賢者だっけ?ソロでランクCとかを倒してるってこと?」


 続けて聞いてくるコニーに


「うーん、ランクCよりも最近はランクBとかランクAを相手にしてることが多いかな」


 その言葉にびっくりするメンバー


「嘘でしょ?ランクBのソロでランクBとかAを倒してるの?」


 思わず前のめりになったマーガレットが声を出すと


「家の周辺にいるのがランクB、少し奥にいくとランクAがいるからね。普段はそいつらを相手にしてる。種族が決まっているから敵の攻撃パターンを覚えたら倒すのは難しくはないかな」


「でもあり得るかも」


 そう言ったのは精霊士のファビーナだ。


「あの杖に込められている魔力を見ると相当魔力が多くて強いってのがわかるもの。精霊魔法で倒してるのなら頷ける話よね」


「そうそう。精霊魔法で倒してるよ」


 ファビーナの言葉にその通りだよと大きく頷きながら答えるリンド。普通の事をやってるだけだよという表情でそこには全く自慢や誇張がない。


 聞いていたリーダーのマーガレットは目の前の賢者の男が底知れぬ実力の持ち主に違いないと確信していた。いやマーガレットだけじゃなく他のメンバーもそうだ。


 朴訥と話しをする誠実そうな賢者の男。その外見に似合わず実力はおそらく私達と同じかひょっとしたらそれ以上かも知れない。


「わかった。それでお礼だけど、ユリアーネの弓とロザリーの杖の分ね」


「いや、僧侶の杖はこっちが勝手に作ったから代金はいらないよ。トムの武器屋に卸したから次からはそっちで買ってくれればいい」


 マーガレットの言葉に弓の代金だけでいいというリンド。


「そうはいかないでしょ。あの僧侶の杖だって相当の価値のある杖よ」


 只というわけにはいかないわよとマーガレットが言うとそうよと頷く他のメンバー。


「弓を作る依頼を受けてあの僧侶の杖の作成が閃いたからね。アイデア料と杖の代金で相殺してチャラでいいよ」


 それまで黙ってリンドのお腹の上でゴロゴロしていた黒猫のミーが身体をリンドに押し付けてくる。ミーもそれでいいみたいだ。

 

 その後何度か押し問答があったがリンドが僧侶の杖の代金はいらない代わりに一つだけ約束を守ってほしいと言い、結局弓の代金だけを貰うことになった。


「店でトムも言っていたけど僕の事は言わないでもらいたいんだ。杖はトムの武器屋で手に入るということにしておいてくれるかな」


「有名になりたくないのね」


 ユリアーノネの言葉にそうそうと大きく頷く。


「もともと人付き合いが苦手でマイペースの生活をしたいから街じゃなくて森の中に一人で住んでる。ジョブもソロで活動できる賢者にしたのもマイペースで生活できるからなんだ。普段は森に住んでこの街には2ヶ月か3ヶ月に1度来るくらいなんだよ。そんな中、森の中の家に知らない人が大勢押しかけて来られるのはちょっと困るんでね。だから僕の事は黙って貰いたい。その代わりに僧侶の杖は差し上げるよ、気になるなら口止め料と思ってくれてもいい」


 マーガレットを始め4人はお互いに顔を見合わせると


「わかったわ。リンドの事は黙っておく。約束する」


「ありがとう」


 そうして弓2本分の代金を貰い食事を奢ってもらったリンド。食事が終わりかけた時に戦士のコニーが顔を上げてリンドを見た。


「リンドの住んでる森ってAランクがいるって言ってたわよね?」


 リンドはデザートを食べていた顔をコニーに向けて頷く。


「私たち今ダンジョンに挑戦しててもうすぐクリアしそうなんだけど、このダンジョンの攻略が終わったらリンドの森に行ってもいいかしら?」


 その言葉にマーガレットもそれはいいわねと言って、


「ランクAがいるって話しだし、リンドが良ければその森でランクAを討伐してみたいの」


「いいよ。このメンバーなら問題ないね。この街をベースに活動している僕と仲がいいランクAのパーティがいるんだけど、彼らも定期的に森にやってきてランクAを討伐してるしね」


 目の前のパーティの申し出を快諾するリンド。腹の上に乗っているミーも身体を押し付けてきている。


 結局2週間後にリンドが街に来て彼女らと一緒に森に行くことになった。


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