第17話 弓を作ろう
トムの店を出ていくつか日用品を買ってそろそろ帰ろうかと通りを歩いていると後ろから声をかけられる。振り返るとさっき武器屋にいたランクSの女性5人組のパーティがリンドを追いかけてきた。そのうち二人の後衛はリンドの杖を持っている。振り返ったままその場で立ち止まっていると近づいてきた5人組のリーダー格の盾ジョブのマーガレットが、
「さっきはありがとう。おかげでミディーノの街に来た甲斐があったわ」
「そりゃよかった」
「それでね、あれ程の杖を作ることができる貴方に頼みたいことがあるのよ」
リンドは何のことかわけがわからずに俺に?と首をかしげる。
「ユリアーネ、彼女の弓に魔力を込めて作ることってできるかしら?」
「どういうことかな?」
「そうね、いきなり言っても困っちゃうわよね。詳しく説明するから時間あるならちょっとレストランででも話ししない?」
肩に乗っているミーが体を押し付けてきたのでいいよと返事をして女性5人組とリンドは通りに面しているレストランに入っていった。
そこの個室に入ると飲み物を頼み、そしてマーガレットはまず自分たちのメンバーの顔を見て彼女らが頷いたのをみてからがリンドを見る。
「まだ確定しているわけじゃないんだけど、これに気づいたのは私たちのパーティくらいじゃないかしらって思ってるの」
つまり他言無用だと言っている。リンドが頷く。
説明を始めたマーガレット。
ユリアーネという狩人は王都のギルドの中でも一番の弓の使い手で遠距離攻撃においては貴重なダメージ源になっているがダンジョンボスはNM(ノートリアスモンスター)との対戦ではもっと遠くから威力のある矢を打たないと効果が出ないらしい。安全な距離から威力のある矢を撃ちたいと言う。
それで弓に魔力を注いでみたら?というマーガレットの言葉でパーティの精霊士のファビーナがユリアーネの弓の上から魔力を注いでみたら威力と飛距離が伸びたらしい。
ただファビーナ曰く、これは弓の表面に魔法を掛けただけだから一時的に弓が強くなっているだけで時間が経つと魔力が徐々に薄まって効果がなくなる。かと言って毎回戦闘の前に膨大な魔力を使うと私が戦闘中に魔法を打てなくなる。
「そんな話をしている時にこの街で魔力をたっぷりと含んでいる杖が売られているって話を聞いてやってきたの。もちろん目的はファビーナとロザリーの杖よ。でも実際に杖を見てファビーナがこの杖を作れる人ならユリアーネの弓も作れるかもしれないって言ったのよ」
そこまでマーガレットが説明すると、精霊士のファビーナがリンドを見て
「この杖を見て正直びっくりしたわ。ここまで強い魔力を均等に杖に注ぎ込めるなんて相当の魔力がないと無理だってわかったから。残念だけど私には無理なレベル。ここまではできない。もしリンドがよかったら彼女のために弓を作ってもらえないかしら」
「もちろんそれなりのお礼はするわ」
マーガレットが謝礼を出すからと言ってくる。黙って聞いていたリンドは足元にいたミーを見るとミーはジャンプしてリンドの肩にのって身体を押し付けてきた。
「わかった。ただ弓は作ったことがないんだ。だから時間をもらえるかな?それと弓の形を見たいから使っていない弓があれば1本預かりたいんだけど」
リンドの申し出は当然だ。彼女らはすぐに了解しユリアーネが魔法袋から予備の弓を取り出して
「これと同じサイズでお願い」
弓を受け取ったリンドは預かりますと言って弓を持ち、
「どれくらいこの街にいる予定?」
「弓ができるまでいるわよ。1か月でも2月でも。幸いこの街の周辺にもランクAはいるしダンジョンもある。普通にここで活動できるから期間は気にしないで」
そうしてリンドは弓を作ることを約束した。最後に彼女らがこの街で泊まっている旅館の名前を聞いて
「出来上がったら持ってくるよ」
そう言ってミーを背中に乗せて街を出ると自分の家に向かって街道を歩いていく。街道を歩きながら肩に乗せたミーに話しかける。
「弓に魔力を注ぐのってできるのかな」
「魔力を注ぐのは杖と同じね。ただ弓だから魔力は風の魔力だけにしないとね。それとエルム材じゃダメよ。もっとよくしなる木を使わないと」
「なるほど。木の選別からか」
「リンドならできるわよ」
森の家に戻った翌日、リンドは森の中に弓の材料となる木を探しに出た。珍しくケット・シーのミーもついてきた。
「リンドに木を見る目があるかどうかチェックしてあげるわ」
そう言ってついてきたミーは今はケット・シーの姿でリンドの隣を歩いている。森に入ってあちこち移動しながらそれっぽい木を見つけると手に取ってみるがどうもピンとこない。
時折出会うランクAの魔獣を倒して魔石を取りながら森の奥に進んでいくリンド。そうして探していると今までとは違う木が生えているエリアを見つけた。
「これだ!この木ならできそうだ」
リンドが叫んでミーを見ると大きく頷くミー。
「お見事。その木が大正解。イチイの木ね」
「イチイの木か。強くてしなやかだ。杖にするにはしなやかすぎるが弓ならちょうどいい感じだね」
そう言ってそこにあったイチイの木の倒木を3本程持つと自分の家に戻っていく。
「さてと、材料は手に入った。今度は加工だな」
預かっている弓を目の前に置くリンド。ロングボウと呼ばれている弓で全長は120センチもある。女性でこの弓を使うなんて大したものだと感心しながらも先ずはその弓の形をしっかりと頭に入れてイメージする。
そうしてから今度は風の魔力だけに集中してゆっくりと木を切り出して削っていく。
(うん。完全に魔力をコントロールできてるわね。上手い上手い)
リンドの作業を背後から見ているミーはリンドの魔力の使い方に満足して見ていた。
木を切り出すと弓っぽい形になっていた。今度はそれを綺麗な弓の形に削り出しながらさっきと同じ様に風の魔力をイチイの木に流し込んでいく。
ゆっくりと丁寧に時間をかけて作業をし、
「出来た」
そう言って持った弓は弦は張っていないが目の前にある弓と同じ大きさでデザインを変えている。
リンドはどう?という目で出来上がった弓を背後のミーに手渡すとそれをじっと見て
「いいんじゃない。魔力のブレもないし、弓全体に風の魔法の効果が出ているのが見えるわよ」
ミーから合格をもらったリンド。その弓に樹液を染み込ませると高級感のある深い茶色の弓ができあがった。
「弦はどうするの?」
リンドの作業を後ろからじっと見ていたミーが聞いてくる。
「うん、それについてはランクAのオークの脚の筋を使おうと思ってる。あれって弾力性があるし強いだろう?」
「悪くないわね」
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