第16話 王都からやって来たパーティ

 夕刻になると森の奥からキースらが戻ってきた。


 結局キース一行は森の中のリンドの家に5泊し、毎日奥でランクAを討伐して6日目の朝にミディーノの街に帰っていった。


「いや今回もしっかりと鍛錬できたよ。ランクAの魔石もかなり溜まった」


 コリーが満足げな表情でいう。そりゃあよかったというリンド。


「また来てもいいかな?」


「いつでも歓迎だよ。来たい時に来てくれよ」


 キースの言葉に答える。


 パーティが去ると再びケット・シーのミーと二人、いや一人と一匹の生活に戻る。


 リンドは森の奥でランクAを相手に鍛錬を繰り返し、時間ができると家の中で杖を作ったり野菜や果物を育てたりする生活を送っていた。


 そうしてしばらくすると作った杖が溜まったのでミディーノの街に行くことにする。黒猫になっているミーを肩に乗せて森を出てミディーノの街に向かっていった。


 冒険者カードを見せて市内にはいったリンドとミーはまずはギルドに顔を出しランクBのモンスター乱獲のクエストを受けるとすぐにその場でランクBの魔石をカウンターに置いてクエストを終了させる。


 受付嬢のマリーはリンドが置いた魔石を見ると


「沢山ありますね。この調子だともうすぐランクAに昇格する条件を満たしますよ」


「ランクBからAに上がる時ってクエストポイントだけなの?」


 リンドが質問すると


「いえ、ランクAになるにはクエストポイントを一定数貯めて挑戦する資格を取ってからギルドの指定するランクAの魔獣を3体倒してその魔石を持ち込む必要があります」


 スラスラと答えるマリー。リンドはその説明を聞くと、


「じゃあそのクエストを受けなければずっとランクBでいられるんだね?」


 予想もしなかった言葉に絶句する受付のマリー


「えっと、リンドさんはAランクになりたくないってこと?」


「はっきりと言っちゃうとそうなるかな。ランクAになるとギルドからのクエストを受けたりしないといけなくなるんでしょ?僕はやりたい時にやりたい事をしたい方だからマイペースでできるランクBのままでいいんだ。ギルドにもあまり顔をだしてないしね」


「は、はぁ」


 今まで昇格したくないという冒険者はいなかったのでリンドの言葉を聞いてびっくりする。


「リンドさんがそれでいいって仰るならランクAのクエストを受けなければ良い話しですし」


「じゃあそう言う事で頼むよ、ありがとう」


 そう言って肩に黒猫を乗せてギルドを出ていくリンドの後ろ姿を見ながら変わった冒険者ね、でも賢者ジョブだからそうなのかなと一人で話をして一人で納得するマリー。


「いいの?ランクAに昇格しなくて」


 ギルドを出ると耳元でミーが囁いてくる


「うん。今の生活が結構気に入ってる。マイペースで生活できるのが僕に取って一番重要なことさ」


「リンドがそれでいいならいいんだけどね」


 ミーの言葉を聞きながら通りを歩いていつものトムの武器屋に顔を出すとそこには先客がいた。見るからに高級そうな防具を身につけている女性5人組のパーティだ。店に入ってきたリンドに一斉に視線を向ける。


 現れたリンドを見て武器屋のトムが


「おっ、ちょうどいいところに来た」


 リンドは訳がわからずに店に入っていくと


「リンド、杖を持って来てくれたんだろう?」


「ああ。今日は30本持ってきたよ」


 そう言って魔法袋から杖を30本取り出してトムに渡す。それを見ている先客がリンドが魔法袋から取り出した杖を見て目の色を変える。


「この杖はあなたが作ってるの?」


 5人組の中の精霊士風の女性が声をかけてきた。リンドはトムを見ると頷いたので


「ええ、自作の杖ですよ」


 そう言うと見せてもらっていいかしらと杖を1本手に持つ。他のメンバーも全員その杖を覗き込む様に見て


「これよ。この杖。それにしてもすごい杖ね。ここまで強力な魔力を均一に込めて作れるなんて」


 杖を見て感心している5人。横からトムが


「この人たちは王都のデュロンからやってきた冒険者達だそうだ。ミディーノでものすごく良い性能の杖があるって噂を聞いてここまてやってきたらしい」


「なるほど」


 そして今度は女性の冒険者たちに顔を向けてこの杖がこいつが作っているのは内緒になっている。黙っていてくれよなというとわかったと頷く5人。そしてリーダー格の女性がリンドに顔を向けて、


「いきなり杖を見せてなんて言ってごめんなさいね」


 そう言って5人が自己紹介をする。

 

盾 マーガレット

戦士 コニー

精霊士 ファビーナ

僧侶 ロザリー

狩人 ユリアーネ


 の女性5人組でランクAのパーティらしい。


 リンドは相手が誰であってもいつも通りの対応をしている。

 彼は知らなかったがこの女性5人組は王都でも有名なランクAのパーティでその実力は国内の冒険者の中でも知れ渡っているらしい。ランクSに一番近いパーティと言われているとトムが説明してくれた。冒険者相手の商売をしている関係からトムはどのあたりの動向に詳しい。


 ミーはじっと5人組を見てその実力が森の家に来るキースのパーティ以上だと認識していた。

 

「僕はリンド。このミディーノの街のギルドに所属している冒険者でランクはB。ジョブは賢者」


 リンドが言うと賢者?と言ってくるメンバー。リンドはキースのパーティの時に説明した様に


「人は嫌いじゃないんだけど人付き合いというか団体行動が苦手でね、ソロで活動できる賢者ジョブを選択してる」


 そう言うと横から親父のトムが


「こいつはちょっと変わった奴じゃ。家もこのミディーノの街中じゃなくて街を出た森の中に一人で住んでおるしの」


「えっ?森の中に一人で住んでるの?」


 びっくりする相手に


「この黒猫のミーと一緒だけどね。森の中に住んでるのは本当だよ」


「そうなんだ」


 ミーはずっとリンドの肩に乗ったままだ。特に暴れたりしないので今のところは自分の応対に問題は無さそうだ。


「それで一人でこの杖を作ってるの?」


「そう。森の中で鍛錬をして時間があると杖を作ってこうしてトムの武器屋に持ってきてるんだ」


 そう言うとはい今回の分と言いながら30本の杖をトムに渡す。それをじっくりと1本ずつ鑑定するトム。


「相変わらず安定しとるの。全く問題のないレベルの杖だ。代金はいつも通りでいいか?」


 リンドウが頷くと奥から金貨を袋に入れて持ってきた。買取金額は目の前の冒険者には言いたくない様だ。リンドウは袋を受け取ると中身も確かめずに魔法袋に入れる。


 杖が武器屋の手に渡ると早速精霊士のファビーナと僧侶のロザリーがリンドの杖を購入した。


「買っていただいてありがとうございます」


 リンドが言う。手に入れた杖を持っているファビーナとロザリーは杖を握って


「噂以上の杖よこれ」


「気に入ってもらえてよかったよ」


 そう言うとトムにまた杖が貯まったら持ってくるよと声をかけて店を出た。

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