第14話 新しい家にキースらがやってきた

 ミーが戻ってきた翌日、リンドとミーは森を出てミディーノの街に出向いていった。ギルドに顔を出すのとトムの武器屋に杖を卸しにいくためだ。


 ギルドについて受付にいたマリーにランクBの魔石を買い取ってもらったリンドはその足でトムの武器屋に顔をだす。リンドを見ると奥から飛び出してきたトム。


「待ってたぜ、リンド」


「遅くなったかな」


「いやいや、今のは俺の独り言さ。元々納期は決めてない取引だ。お前さんの都合に任せてるから気にするな」


 リンドが魔法袋から30本の杖を取り出す。それを1本ずつじっと鑑定するトム。


「いい仕事しやがるぜ。全く問題ないな。いつもの通り1本あたり金貨35枚で買い取るよ」


 そうして杖の代金をもらうリンド。金の使い道がないので金貨は貯まる一方だ。そうしてまたいつでも来てくれよという声を背中に聞きながら店を出ると日用品の買い物をしながら通りをのんびりと歩く。


 時々冒険者とすれ違うが、彼らの何名かがリンドの杖を持っているの見るとなんだか嬉しいような恥ずかしい様な気持ちになってくる。


「リンドの杖、人気あるじゃない」


 肩に乗っているミーが耳元で話しかけてくる。


「なんか恥ずかしいな」


 そう言うとミーが体を押し付けてきた。


 キースの家に顔を出そうかと一軒家の前に来てみたが扉が閉まっていて誰もいなさそうだ。外に出ているんだろう。


 結局リンドはそのまま街を出て森の家に戻っていった。

 森の家に戻ったリンドは翌日午前の鍛錬を終えて昼食を取るとそばにいたミーに、


「午後は川向こうに行ってくるよ」


「野生動物を狩るのね」


「そう。肉の在庫が減ってきたからね」


 この森に住み出して長くなってきたリンド。森の中の野生動物や魔獣の分布についてもミーからレクチャーを受けて理解していた。住んでいる家を中心にして森の出口側はランクB、Cの魔獣の生息ゾーン、そして家の奥はランクB、A、そしてSの生息ゾーン、家の裏を流れている川の向こう側は野生動物ゾーンだ。ここにも稀にランクCクラスの魔獣がいるが数は圧倒的に少ない。


「魔素の関係よ。なぜか川の向こう側は魔素が薄いの。だから魔獣は本能的に魔素の多い川のこちら側で生活しているのよ」


 その魔素の薄い川向こうに渡って大鹿と猪を倒したリンドは血抜きをしてから皮を剥ぎ、肉の部分を家で倉庫にしている部屋の床下の保管庫に収納する。リンドが氷の魔力をたっぷりと注ぎ込んだ魔石を保管庫の床に敷き詰め、その上に肉を置き、さらにその上にもう一度魔石を綺麗に並べて蓋をする。これで保存が可能だ。リンドの今の魔力と保管庫に入れた魔石の数から見ても1ヶ月は普通に腐らずに保管できるだろう。


 魔石はランクが上がる程大きくなり、そして魔力が強くなる。以前はランクBの魔石を使っていたがこれをランクAの魔石に変えることができたおかげで生肉などの保存期間がグッと伸びた。




 キースのパーティが森にやってきた。以前より精度の上がった気配感知で彼らが近づいてくるのを知っていたリンドはミーを肩に乗せたまま庭で彼らを出迎える。


「こんちは。また世話になりにきた。いいかな?」


「もちろん。ゆっくりしていってくれよ」


 そうしてパーティメンバーを家の奥に増築した建物に案内する。


「こんなの作ったのか」


 以前には無かったがっしりとした造りの平屋の新しい建物を見てキースが言うと、


「時間はあるしね。また来るって言ってたからさ。いつも倉庫で雑魚寝じゃ申し訳ないと思って2部屋作った。男性用と女性用だ」


 そうして部屋に案内すると、それぞれの部屋は広くて、ベッドが3つずつ置かれているのを見て感激するメンバー。


「自由に使ってくれて構わないよ」


「これはいいな。ここに住んでもいいくらいだ」


「本当ね。ベッドもあるしゆっくりと休めそう」


 コリーとクリスティが話をしている。


「そうそう」

 

 そう言ってキースが魔法袋から大きな袋を取り出すと他のメンバーも同じ様に魔法袋から大きな袋を取り出して、


「食器や衣料品、薬なんかも一応持ってきた。使ってくれよ」


「いいのかい?ありがとう」


「リンドには世話になってるから気にしなくてもいいよ」


 彼らの心遣いに感謝してそれらの品物を受け取って中を出していく。


「これは助かるよ」


 新しい食器や服にタオルに毛布。それに薬一式と一人で山で暮らす上で必要な品物が入っていた。


「今回も奥でランクA討伐かい?」


「そうだ。2、3日いようかと思ってたけどさ、あの部屋を見たらもうちょっと滞在を伸ばしてもいいかなと思ってる。リンドは構わないかな?」


「こっちは全然問題ないよ。居たいだけ居てくれて構わない。もう夕方だ。食事の準備をしよう」


「俺達も手伝うよ」


「そうかい?じゃあ悪いけど倉庫、以前泊まってもらった部屋だけど、その部屋の隅にある板を上げてくれるとその中に肉を保管してある。鹿と猪の肉だ、どっちでもいいから持ってきてくれないか」


「わかった」


 男性3名が倉庫に行き、女性2名は畑で野菜と果実を取りそれを水洗いして調理を始めた。倉庫に入った3人は取っ手がついている床の板を見つけてそれを持ち上げると、


「おい!」


 板を持ち上げたコリーが声をあげる。


「見ろよ、全部ランクAの魔石だ」


 ショーンが魔石を1つ手に取ってじっと見て、


「ランクAの魔石だ、しかも氷の魔力がぎっしりと詰まってる」


 顔を見合わせる3人。


「一人でランクAを討伐してるってことだよな」


 キースの言葉に頷く2人。そして肉を取り出すと底にもぎっしりランクAの魔石が敷き詰められているのを見て驚愕する。


「一体何匹倒してるんだ」


 コリーが呟くと、ショーンが


「それよりもこの魔石に込められている魔力、半端なく強力だ。俺でもできるかどうかのレベルだ」


「そんなにか?」


「ああ、しかもこの数。この魔石全部に氷の魔力を注ぎ込んだら普通なら魔力欠乏症になってぶっ倒れてしまう」


 ショーンの言葉に再び顔を見合わせる3人。肉を取り出し魔石を戻して板で蓋をしてから、


「あのリンドって奴、ひょっとしたら俺達以上の実力があるかもしれん」


「それに持ってる魔力量も半端なさそうだ」


 以前来た時もかなりの実力があると見ていたが、それから更に成長している様だ。3人はリンドの実力に底知れぬものを感じながら肉を持ってキッチンに戻っていった。

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