第7話 例え闇に吞まれたって、貴女だけは視えていたから

「ねえねえ知ってる?」

「なになに~」

「隣のクラスの三浦さん、もう一週間学校来てないんだって」

「なにかあったのかな~」

「なんか休む直前の三浦さん、ずっとぶつぶつ言ってて、大分やばかったらしいよ」

「こわ~」


 なんてクラスの喧騒は右から左へ。

 隣のクラスの噂をするくらいなら、睦月むつきが来て人気者の座を奪われたあの男子生徒の噂はしないんだろうか、とぼんやりと思った。

 他校の女生徒が二十四時間張り付く男子生徒は、ここ最近は頬がげっそりこけて、目の焦点が合っていない。

 背後から彼を抱きしめ恍惚とする女生徒の幽霊の想いがようやく届いた――届いてしまったんだろう。

 でもそれはきっと、幽霊の世界ならありきたりなラブストーリーなんじゃないか、って思うけど。


「おはよう」

「……おはよ」


 そんな彼、或いは彼女であろう睦月が挨拶をしてくると、取り巻きの女生徒AとBが僕を睨んでいる。

 日に日に敵意が強まっているような気がするから、今度彼女達に僕に害はないと洗脳をかけてもらうよう、睦月にお願いしてみようか。

 あまり話をしたくないんだけどなぁ、と。

 窓の外を眺めてみると、空模様は黒く間延びしていて憂鬱だった。



   ☆★☆★☆



 こんこん、と自室の扉がノックされる。

 時刻は夕方の五時。

 この時間帯にノックしてくるのはさやぐらいなんだけど、さやがノックをしてくるということに嫌な予感がした。


「にーにぃ」


 扉を開いたさやの表情はどこか後ろめたくて、明らかに次の言葉を紡ぐのが億劫そうだ。

 これがどこぞの他人であればよかったけど、いかんせん妹の顔と声をしたさやだから、どうにも邪険にすることができない。


「どうした」

「んー」


 静かに部屋に入ってきて、ベッドにぽすんと座り込む。


「お金ならないぞ」

「そんなんじゃないけどさぁ」


 いつもならもっと元気よく否定して、なんならそのまま僕に反撃してくるところをそんな余裕もない。


「あの、あのね、友達のことなんだけど……」

「うん」

「クラスの友達のりぃちゃんがね、学校に来なくなっちゃって」

「旅行でも行ってるのかもな」

「でも、休む前のりぃちゃん様子がおかしくて、どうしよう、どうしようって凄く不安そうだったから……」

「なにか聞かなかったのか?」

「聞いたけど、誰が聞いても困ったような顔するだけで、教えてくれなくて……」

「だったら踏み込んでほしくない問題かもしれないだろう?」


 関わりたくないから説得を試みる。

 でも、そう言いながらも、意味がないことをしてるよな、と思う。


「でも! それでりぃちゃんになにかあったらさ……」


 さや、という人物について考える。

 三年眠っていた妹の沙羅に憑りついた幽霊。

 最初こそ妹の身体でグレるぞ、だなんて脅してきたけど、あの一回だけで、僕に危害が加われば本気で心配をし、落ち込んでしまう幽霊。

 僕が心配であれば駆けつけて、死にそうだったところを助けてくれたこともある。

 おそらく沙羅と年齢が近く、性格は似ていて、子供のように元気で、友達も多くて、根っから優しい。

 さやは沙羅じゃないけれど、沙羅と重なる部分は多い。

 だからこそ憑りつけたのかもしれないけど、問題はそこじゃなくて。


「あのな、さや。人にできることには限界があるんだよ。そしてその限界は、きっとさやが思うよりずっと下で、誰かのためになにかをしてあげるなんて、できないに等しいんだ」

「そう、かもしれないけど……」


 しょぼくれるさやを見て、心の中で大きなため息をついた。

 どうにもならないんだよなぁ、本当に。

 その顔で、その声で、友達を慮って、かつそれを話す僕にも申し訳なさそうに落ち込むさやを見て、それを拒否することなんて。


「わかった、一度行ってみるか、その子の家」


 さやは僕の言葉に、不安が晴れたかのように笑った。


 それに沙羅も、もし自分の友達が不安で、どうにもならなければ、周囲を巻き込んででも助けようと動いただろう。

 そんな沙羅のことが心配で、見ていられなくたって、だからこそ沙羅は沙羅で、僕の光だった。


 まぁ、でも……僕になにかを解決する力を求められても、困るんだけど。



   ☆★☆★☆



 その日はもう遅かったから、翌日。

 学校が終わり次第、りぃちゃんの家に向かった。

 天気が晴れていることだけが救いだろうか。

 冬の寒空から頼りない太陽の光が伸びていて、だけどりぃちゃんの家は少し様子がおかしかった。


「ここがりぃちゃんの家か?」

「う、うん」


 自信がなさそうにさやも答える。

 表札の苗字である三浦を見て、やっぱりここだ、と確信したようだった。


 窓ガラスには全て雨戸が閉まっていて、玄関先の門の取っ手のところが、何重にも針金がぐるぐると巻かれていて、立ち入りを拒んでいるのか、或いは外出を禁じているのか。


 ぴーんぽーん、とさやがインターフォンを押す。

 よく押せるな……僕はもう既に逃げ帰りたいんだが。


 はぁい、と。

 意外にもインターフォンのスピーカーからは明るい声が聞こえてくる。


「あ、あの、私りぃちゃんの友達です。りぃちゃんいますか?」

『はいはーい』


 声の感じから母親だろうか。

 暫くしてがちゃり、と重く玄関が開かれる。

 出てきたのはぐしゃぐしゃの髪でぼうっと虚ろに正面を立っているサングラスをかけた少女だった。

 首の向きはこちらに向いてはいるけど、どこか覚束ない。


「りぃちゃん!」

「あ……沙羅ちゃん?」


 りぃちゃんは一歩、一歩と確かめるように歩いている。

 門を探しているのか、手を前にぶらぶらと揺れ動かしている。


「あの子、目が悪いのか?」と小声で聞くと、さやは小さく首を横に振った。


「……りぃちゃん、大丈夫?」

「大丈夫だよ。ちょっとね。それよりどうしたの?」


 彼女の受け答えはただ友達が訪ねてきたのを普通に対応している。

 そのちぐはぐさに肩が震える。


「あ、いや、その……遊びにきたんだ!」


 さやもそのおかしさを感じ取ったのだろう。

 心配して来た、等と言っても意味がないと悟っている。


「遊び? ふふっ、いいね、遊ぼう? なにして遊ぶ?」

「りぃちゃんの部屋で遊びたいな!」

「私の部屋? うん、いいよ、おいで」


 門を固めた針金を外す。

 目が見えていなさそうなりぃちゃんを補助して、僕達は家の中へと入っていった。




 来るんじゃなかったと後悔してももう遅いから、どうすればいいのかを考えることにした。

 玄関に入った瞬間、悪臭が鼻をついた。

 廊下は一人分が歩ける道を残してゴミで固められていて、玄関も同じく、ゴミの山。

 二階に続く階段はゴミが置かれていないというだけで清潔なように思えた。


「こっち」


 家の中に入ると動きやすくなったのか、彼女に案内されて二階の部屋へ。

 ゴミに埋もれていない壁の至るところには黒のクレヨンで落書きがされていた。

 意味不明な記号が延々と続き、たまに人のようなものが描かれていてる。けれどその人の絵はぐるぐると顔を塗りつぶされていて、そんな人が五人、並んでいた。

 ただそのうちの一人は、首が取れている。



 りぃちゃんの部屋の扉が開かれて、僕とさやは目を引ん剝いた。

 中央に布団が敷かれている。

 それ以外のスペースは天井近くまでゴミで全て埋まっていた。

 慌ててさやが扉を閉める。


「どうしたの?」

 と、彼女はさやがいる方向とは微妙に違う場所へ首を動かす。

 我慢が耐えかねたのか、さやがりぃちゃんのサングラスを外しとった。


「ひっ」


 彼女の両目は糸で縫い付けられていた。

 それがどんな異常なことかと理解できないかのように、りぃちゃんは首を傾げている。


「どーしたのかしらー?」


 一階から階段を登ってくる足音がゆっくりと近づいてきた。

 扉を閉める際に大きな音が出てしまったから、母親が様子を見にきたらしい。

「あ、すみませ……」

 と、視線を移して青褪める。


 その母親は顔に真っ赤ななにかを部族のように塗りたくっていて、エプロンもまた赤く染まっていて、手に握られた包丁からそれが血だと連想することは難しくなかった。


「さや!」


 さやの手を引いて廊下の奥へと逃げる。

 さやはりぃちゃんも連れて、そして僕達の逃げ場所なんて小さな家にはあともう一部屋しかなくて、中に入った。


 気持ち悪い。

 気持ち悪い部屋しかないのか、この家は。

 りぃちゃんの部屋と違ってゴミで埋もれていなかったけど、机やテレビ、鏡が乱雑に壊されていて、壁の手が届く範囲までただひら死という文字で埋め尽くされていた。

 どれだけ健康な人が部屋に入っても死にたくなりそうな部屋だ。


 二人を中に入れて扉を閉める。


 がんっ、と激しい振動で扉が叩かれたことより、僕の頬の真横を通る生えてきた包丁に目を疑った。


「どーしたのかしらー? おほほほっ」

「さや! なにか持ってきて塞ぐぞ!」

「う、うん!」


 僕が扉を抑えている間にさやに机や椅子なんかを持ってきてもらいバリケードにする。

 暫くガンガンと扉を蹴られるような衝撃が続き、母親のわざとらしい笑い声は遠ざかっていった。

 そこまで関心があったわけじゃないのか、なんにせよありがたい。


 一息ついてようやく気付く。

 この部屋には元々誰かいたようだ。

 部屋の隅っこで壁に埋まるように体育座りをして、ぶつぶつと譫言うわごとを繰り返している女性がいた。


「りぃちゃんの、お姉、さん?」


 さやの呼びかけに反応がなく、ただぶつぶつと繰り返すだけ。

 恐怖と隔絶するために自分の世界へ引きこもっているかのような様子に、僕は安堵した。

 よかった、この家にもまともな人・・・・・がいたらしい。


「なぁ、あんた」


 ぶつぶつと繰り返すその言葉に耳を傾けて、なにを言っているのかを確認する。

 呼びかけても反応がないから、仕方なく、ほっぺたをびんたした。


 きょとん、とした目を動かして、彼女はようやく自分の部屋に妹含め、知らない人が来ていることを知ったらしい。

 りぃちゃんが姉の隣に座って甘えている。


「助けてほしいなら教えろ。なにがあったんだ、これ」


 彼女はずっと助けて、助けて、と繰り返していた。


 彼女は状況を理解できないのか視線が定まらず、けれど、途端にスイッチの押された機械のように語りだした。


「夫婦喧嘩が絶えなかったの。家に借金があったみたい。だけどいつからか喧嘩はなくなった。気づいたら家のリビングに大きな仏壇があったの。お母さんとお父さんは、喧嘩していた時間、ずっと仏壇に祈りを捧げてた。別にいいと思った。喧嘩の大声でうるさいくらいなら、宗教にハマってくれた方が平和だから。平和だと思ってたの」


 早口で彼女は語る。


「ある日お母さんが私とりさにも祈りを捧げるように言い出したの。面倒くさいから断ったら、人が変わったようにお母さんは怒鳴り始めて、恐かったから従ったの。最初は五分だった。いつの間にか、十分、三十分って伸びてって、二時間を超えた辺りでりさが言ったの。もう嫌だ。私も言った。宗教してんのは勝手だけど、巻き込まないで。そしたら」


 妹は目を縫われて、私は足の指を切り落とされた、と。

 彼女は靴下を履いていて、言われてみてみれば、指のところが確かに膨らんでいなかった。


「りさはもう、恐いのか従順になった。私も、私も従順になりたかった。だけど無理なの。恐くて恐くて無理なの。だって、だって、だって、お母さんは、私の切り落とした指や、私達を守ろうとしたおばあちゃんを、鍋で煮込んで、それで、ご飯、って」


 うえぇ、と思い出したのか彼女は吐きそうになっていた。

 けれどまともな食事をしていないのだろう。

 口から垂れるのは伸びた胃液だけだった。


「お姉ちゃん、大丈夫?」

「やめて!」


 妹が姉を案じて頭を撫でようとするも、その手は姉に振り払われる。


「さや、警察電話してくれ。早く」

「う、うん」

「無理だよ。警察なんて、呼べない。私、私だって、呼ぼうとした」

「にーに……圏外になってる」

「え? ……僕もだ」


 電磁波を遮断するなにかでも置いているのか。或いは人外の力なのか。

 ただ宗教に狂っただけにしては、どうにも異様な空気が濁るこの家だから。

 

「私も食べられちゃうんだ。鍋でことこと煮込まれて。ブイヤベースで味付けされて。塩コショウを振りかけられて。にんじんと、ジャガイモと、キノコで風味を誤魔化されて。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ」


 ぶつぶつと譫言うわごとを繰り返すようになった女性からさやに一瞬目を見やる。

 さやはりぃちゃんの手を繋ぎながら、僕に助けを求めていた。


 ……どう考えたって、この人を放っておいて逃げた方がいいんだけど。

 幸い、玄関の外に出ればいいだけだ。

 階段を降りてすぐそこに。


「……行くぞ」


 さやよりも重い女性をおぶって、扉から母親が離れている今がチャンスだった。


 扉を開けて確認すると、母親はちゃんといなくなってくれていた。

 彼女をおぶっていてどうしても遅くなってしまうので、さやに先導してもらって階段を降りていく。

 ゆっくり、ゆっくりと、可能な限り静かに。


 階段の一歩一歩が恐ろしく遠く感じる。

 おぶっているから転げ落ちないように気をつけて、心臓に悪い階段を降りていく。

 降り切って、さやが廊下側に母親がいないことを確認してくれる。

 よかった、何事もなく逃げられそうだ。


 玄関の扉を開けて靴を履く。

 僕はおぶっていてちゃんと履けないから、かかとの部分を踏んで履いた。


 冬なこともあって、外は暗くなるのが早い。

 陽が落ちかけていて、けれどまだ夕暮れな時間にほっとする。


「帰るのー? これ、持っていきなさいなー」


 今となっては不気味な母親の声に背筋がぞっとする。

 恐る恐る首を向けると、彼女の手は髪を掴んでいて、髪に垂れた先には老婆の顔があった。


「っ!」


 慌てて逃げ出そうとすると、靴をちゃんと履けていなかった弊害でもつれて倒れてしまった。


「待ってぇぇぇえええ! おほほほほほほほほっ」

「っぁぁぁぁあああああ!」


 背負う彼女の悲鳴があがる。

 彼女の背中には母親が持っていた包丁が、突き刺さっていた。


 逃げようと彼女を抱きかかえるも、母親が老婆の頭を投げつけてきた。

 その頭蓋は思った以上に重く、硬く、大きな石をぶつけられたかのように痛いが、それよりもずっと気持ちが悪いものだった。


 よろけて体勢が立て直せない。

 母親が娘に刺した包丁を抜いて、上品に下品に笑いあげる。


「悪い子には、お仕置きねぇぇぇええええ!」


 母親が包丁を振り上げる。

 その矛先に、きっと娘も僕も区別はなくて。








「お姉ちゃん」






 りぃちゃんが彼女と母親の間に立って、姉に向かって微笑んでいた。

 姉の手を取って、にっこりと微笑み、けれど、口から血をこぽこぽと垂れ流しながら。


「お姉ちゃん、だいすきだよ」


 まるでそこは日常のように。

 誕生日会に想いを込めてプレゼントをする妹のように。

 背中を母親に刺されたことも気づかず、りぃちゃんは彼女に微笑んでいた。


「りさ……っ」


 そして、少女は母親へ向き直り、その手を取って家の中へ戻っていく。


「りぃちゃん!」


 さやの声も届いてはいない。

 きっと誰の声も届くことはない。


 玄関の扉は重く閉められる。

 僕達は病院へ姉を連れて行こうと門を出る。門の外はスマホが電波を受け取ったので、すぐさま救急車を呼んだ。

 気づけば家からもくもくと煙が立ち始めた。


 そして炎は異様なほどあっという間に家を包み、ごうごうと燃える。

 救急車を待つ間、狂気に包まれた家が燃えていくのを、僕達は呆然と眺めていた。








   ☆★☆★☆



「にーに、ごめ」

 謝りかけたさやの口を指で抑える。


 姉を救急車に乗せて帰宅した僕達は、自室でぼんやりと気持ちを整理していた。

 後日警察に呼ばれることになるかもしれないけど、話せることは多くない。


「気にするな」


 思ったよりもずっと危険な目にあったことを謝りたいんだろうけど、僕としては本当にどうでもいい。

 僕にとっては面倒くさいことは全て大差ないし、それに、どれだけ面倒だろうと、さやに頼まれたら断れないだろうし。

 いや、沙羅の顔と声だから、だけど。


「宗教って、あんな風になっちゃうのかな……」

「ああはならんだろ」


 実際に人生を滅ぼすことはあるだろうけど。

 あれはもう、人としての枠組みが壊れてしまっていた。

 あれが宗教の力だというのなら驚きだ。


「じゃあやっぱり、そういうの、いたの?」

「さあな」


 いたかもしれないしいなかったかもしれない。

 いや、そんなことはどうでもいいだろう。

 幽霊がいたかいなかったとか、現実に起こってしまったことに言及しても仕方ない。


 それに、そんなことは野暮だろう。

 りぃちゃんが最期に姉を守って、彼女はりぃちゃんと打ち解けることができているように見えた。

 彼女がこの先どんな人生を送るのか。まともな人生を送れたら本当にラッキーなことだけど、どうなるかは彼女次第だ。




「にーに」

「ん?」

「今日、一緒に寝ちゃ、だめ?」


 ……?


 もしこれが沙羅に言われたことなら間髪入れずにイエスなんだが、目の前にいるのは沙羅じゃなくてさやだ。

 それは他人と一緒に寝ることになるんじゃないのか? と考えると、どうにも複雑な想いが湧いてくる。

 沙羅の体が操られている状態で僕が沙羅と寝たことを沙羅が知ったら、沙羅は僕を軽蔑するだろうか。はたまた、私だからしかたないね~なんて、鼻で笑ってくれるだろうか。


「おねがい」

「……う、うん」


 ただ、質問されたにも関わらず僕の返答にはあまり意味がないようだった。

 まぁさやも恐くてどうにもならないんだろう。

 助けたいと思った友達があんな目にあってしまって、悲しいのか苦しいのか、心がかき乱されてしまっているんだろう。

 たとえ幽霊だからといっても、こうして現実で生きている彼女だから。


 だとして、僕が一緒に寝てあげる義理はないんだけど、拒否するほどさやが嫌いかと言われればそうじゃない。

 それは多分に妹の外見フィルターがかかっているとしても。


 ご飯を済まして、お風呂に入り、眠る時間。

 三年振りに一緒に寝る沙羅の体はもう子供のように小さくはない。

 かといって僕が欲情するようなことは流石にありえない。


 ただ、不思議だったのは。

 さやが横で眠って、眠りながらも甘えるように僕に寄ってきて。

 ドキドキとするわけでもなく、不快に思うわけでもなく、沙羅を思い出して寂しい気持ちになってしまうわけでもなく。

 どこか安心してしまって、晴れやかなままに眠れていったこと。


 そんな僕達を誰かが見た時、仲のいい兄妹だと言われるんだろうか。




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