通り道回り道

影神

休日



「今日。休みます、、」



まだ温もりのある暖かい布団。


いつもならもう、車で向かっているはずの時間。


登校する学生の声や、カラスの声が窓の外から聞こえてくる。



手を伸ばし。頭上にあるはずの携帯を探す。


「んっ。。


んっぅ、、???



はぁ、、」


冷たい空気が布団に入り込みながら、結局身体を起こすと、


何故か違う場所に置いてあった携帯の履歴から、電話を掛ける。


プルルルルル、、



「どうした。


体調不良か??」


直属の上司は、いつもと変わらない様に話す。


「いいえ。


今日。休みます、、」


上司「担当の分は終わってるんだろう?」


「はい。」


上司「どっか行くのか??」


「いえ。。」


上司「そうか。


まあ、忘年会も近いんだ。


あまり休むと、その時に社長に言われるぞ。」


「はい、、


すいません。」


上司「明日は来るんだろ??」


「はい。」


上司「じゃあ、ゆっくり。羽を伸ばしてくれ。


社長には、伝えとくから。」


「すいません。」


上司「また明日。」


「失礼します。」



前までの会社ならば。


ダラダラと説教をされ。


嫌味ったらしく、後でぐちぐちと言われていた事だろう。。



現代人は働き過ぎだ。


更に。それを他人に押し付けようとまでしてくる不始末。


「毎日。


お疲れさん。。」



働いて。税金や、保険。公共料金や、家賃。


生きていくのに必要なモノだけを差し引いて。


手元に残るのは、僅かな金額。


そんな中でも物価は上がり続けるおかしな世界。



「さみぃ、、」


冷えきった身体で湯を沸かし。


食パンをトースターにセットする。


「食べる物があるだけ。


有難いけどね、、」



ピッ、、


「今朝□時頃。


○○線で、人身事故がありました。


その影響で、○○線は運行が遅れています。」


付けたテレビからは、暗いニュースが流れた。



「何の為に。。


生きて来たのか、、」



チン、、


出来上がったトーストと。熱いコーヒー。


「いただきます。」



彼女無し。


貯金も無し。


独り暮らしに慣れた男は、


独り言も多かった。


「うるせえよ、、」



死はいつも近くにある。


死のうと思えば。


今からでも死ねる。。



一度壊れてしまった心は、


過ぎてゆく時間と、絶え間ない愛。で癒える。


誰かに傷付けられてしまったのか。


それとも、磨り減っていってしまったのか、、



人間とは、弱く。儚い者だ、、



口にまだ入ったまま。


カーテンを開け、窓を開ける。


「ふぁふぃ、、!」


もう直ぐ。今年が終わる。



何だかんだで。


人生はあっという間である。



辛い時期も幸せな時も。


いずれも。終わりが来る。



命を絶ってしまった人には。


これから訪れるハズだった幸福は、2度と訪れない。


いや。もしかしたら、


今頃。とても幸せな顔をしているのかもしれない、、



他人の失った命に。他人が。あえて口を出すことも無いだろう、


当事者の辛さ等。他人に理解する事は出来ないのだから。



「さて、、何をしよう。」


ゴミをまとめ、ゴミを出しに行く。


大体のルーティンは決まっている。



「あらっ。


今日はお休み??」


「おはようございます。


いえ、今日は用があるので。」


同じアパートのおばさん。


お節介と言うか、話のタネを探しに。


ゴミをチェックしに。


わざわざタイミングを計らって、出てくる。



さぞ。たまたまを装って。


おばさん「あら、そうっ?


風邪引かない様にね??」


「ありがとうございます。


でわ、、」



ガチャッ、


「引っ越そうかなあ、。」


気持ちを切り替えて洗濯機に洗い物を放り込む。


ピッ、、


後は電動お掃除屋さん達に、仕事を任せる。


ウゥイイイン。。



「さて、どうしたものか、、」


1日。ゴロゴロするのも悪くは無い。


だが。。それも勿体ない。



久しぶりに奥から出した自転車の埃をタオルで拭き取り。


タイヤに新しい空気を入れる。


「よしっ!」


今年の年末の大掃除も大変そうだ。



携帯の天気予報は、雨を予測していなかった。


久しぶりに、サイクリングへと向かった。



「さみい、、」



寒いのは、嫌いじゃない。


むしろ暑い方のが大嫌いだ。



ゆっくりとこぐペダルで、


自転車は音を立てながら前へと進む。


顔と指先に当たる風はとても冷たく。


今にも感覚が無くなりそうだった。



目的地は無かった。


今日会社を休んだのも、気分だ。



こうやって、心と、社会のバランスを。


上手くやっていくのが"生きる"と言う事、


なのではないだろうか。?



ガン!!


「イテッ!」



踏み外したペダルは一周して。


少し上の脛へら辺に直撃したのであった。


どうやら生きると言う事が違っていた様だ。



少し遠い公園。


1度だけ来た事がある。。



今、こうして。


サボり魔だという事が。


疑いから確信へと変わったのだろう、、



自動販売機で、温かい飲み物を買い。


空いているベンチへと腰をかける。


「、、冷た!」


温かい缶コーヒーの温もりを惜しみながらも。


指を掛けながら飲み口を開ける。



温かい液体が体内へと流れる感覚が。


ゆっくりと。じんわりと、伝わる。



遠くでは子どもの元気な声が聞こえる。


携帯のディスプレイを見ると既に昼近くだった。


「夕飯、どうすっかなぁ、。」



雲の隙間から見える僅かな青い空を見上げ。


明日は仕事である事が頭を過る。


「働きたくねえなぁ、、」



直ぐに冷えきったコーヒーを飲み終えると。


ゴミ箱へと空き缶を入れる。



そしてまた自転車をこぎ出す。



気の向くまま。出来るだけ行った事の無い方へと。。


新しい景色や匂いを確める様に、進む。



「こんな所に、店があったのか。。」


新しい発見に。いつの間にか変わっていた、


嘗ての自分が知っていた場所。



「夕飯何しようかなぁ、、


早めに帰らなきゃなあ、、」



そんな事を考えながら。


ゆらゆらと。


ぶらぶらと。



自転車のタイヤを動かして時を過ごす。 



「、、ここ。何処だ??」


すっかり色の変わった空。


振り返れば、日は沈もうとしていた。



「はえええな!」


時間はまだ夕方。


それなのに、ゆっくりと。


辺りは急ぐように暗くなってゆく。



いつも過ごしている時間も。


場所や環境が変われば。


新たな見方や、感じる事がある。



そこはまるで違う世界に居るのかの様。


でも、これはいつもと同じ世界。。



「さっき通った弁当屋にするかな?」



今日休んだ理由。


「何にしますか?」


「えーと。


じゃあ、唐揚げ弁当で!」



きっとこの弁当屋の唐揚げ弁当を買って、


家でビールを呑みながら、ただ食う為。


だったのだろう。



生きる理由。逃げる理由なんてモノは。



そんなモノで充分なんだ。



「絶対家着く頃には冷めてるよな。


弁当屋の店員さん綺麗だったな、、



あれっ、ビールあったっけな??


一応。買って行くか。」



のんだら、のらないっ!!



寒い日がまだまだ続きますが。


体調には、くれぐれもお気をつけて。



心のケアを大切に。



ね??




















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