第30話 〝竜の血の争い〟

 魔王フレアベルゼとアイゼンたちが戦う一方で、シスとマグナス、それに奴隷騎士団は竜王国魔導騎士団に囲まれていた。実力は、五分五分と言いたいところだが、竜王国魔導騎士団が圧倒的に有利だ。その背後には魔導士たちも控えている。


「マグナス・ジオ・ロンドニキア……ここが死に場所と見つけた」

「そう言って、長刀を持つとは、投降せず討ち死にをお望みか?」

「ただの長刀ではないぞ。〝竜王の長刀〟――――〝ドラググレイヴ〟だ」


 老魔導士が目を瞬かせて、驚き口を開いた。


「いにしえの竜人が使っていた竜魔法が使える伝説の武器?!」


 マグナスとその後ろに控えているシスの前に奴隷騎士団が立ちはだかる。


「マグナス殿下は俺たち貧民を救ってくれたお方だ」

「この命、新しい竜王陛下に捧げる」

「さあ、撃ってこい魔導士共、マグナス様は守り抜く」


 魔導士たちに動揺が走る。密かに命じられていたのは、マグナス王子の捕縛だけだ。貧民の殺戮など命令にはない。そこに空気になっていたブリジットが声をかける。


「マグナスは相手を殺したくないのよね?」

「そうだ。家臣に手出しはできない」

「ならアタシの出番ね」

「ブリジット・レイラ・アリントン……何か策があるのか?」


 まあ見てなさいよ、とブリジットは〝魔王の傘〟を構える。そして発砲。倒れる魔導士。


「おい、殺せとは一言も命令していないぞ」


 ブリジットは首を少々傾げる。ブリジットが打ったのは魔力を最小限に抑えた魔導砲だった。故に気絶や怪我をするとはいえ、制圧能力はこの場においてもっとも優位だ。


「アンタらのハートをバーンッよ♪」


 魔導士たちは、恐慌状態になりながら魔法を詠唱しようとする。だが、ブリジットは詠唱を終えようとする者などを優先度をつけて、〝魔王の傘〟で撃ち抜いていく。バーンッバーンッバーンッと際限なく打ち続ける。魔導士たちはバタバタと倒れていった。


 そんな中、歴戦の魔導士が無理矢理魔法を詠唱する。


「理を紐解く我が命ずる――――――天を支配する王よ――――――我が眼前の敵を汝が雷槍に寄りて――――――撃ち滅ぼしたまえ――――――ライトニングスピアー‼」


 夜天から凄まじい数の雷の槍が降り注ぐ。だが、ブリジットは全く慌てない。


「〝魔王の傘〟よ――――――ミンナを守って‼」


 傘が開くと半球状にシスやマグナスを覆う分厚い五重の魔法障壁が張られた。

 一〇〇〇を超える雷槍は一つの魔法障壁も壊すことが叶わず、暫くして収まる。


「化け物が……ならば、魔導士の一斉砲撃ならどうかな?」

「もう残ってるのはアンタひとりじゃない?」


 歴戦の魔導士は高速詠唱を開始する。


「理を紐解く我が命ずる――――――虚ろなる心、ものを言わぬ口――――――我が人形たちよ、踊り狂え――――――ファンタズマガイスト‼」


 倒れていた魔導士たちが幽鬼のように静かに立ち上がった。それを見てブリジットは狼狽し始める。〝ブックマン〟と呼ばれたシスがそれを見て、大声を張り上げた。


「ブリジット、〝魔王の傘〟でみんなを守れ‼」

「アタシに命令とか……アンタバカにしているの?」

「手遅れになるから‼」


 ブリジットは、ふんと言いながら、魔王の傘を広げる。


「〝魔王の傘〟よ――――――ミンナを守って‼」


 そこからは虚ろな目をした魔導士たちの魔法のオンパレードだった。あと数秒遅れていたら、みんな死んでいただろう。シスの判断は正しかった。安心したのも束の間、第一障壁が破壊されつつある。赤い魔力を宿す魔法障壁にひびが入っていく。


「ブリジット……――頑張ってくれ‼」

「シスは無駄口叩かないの‼」


 シスとブリジットが話している間に、マグナスは、奴隷騎士団に鎧を外させた。


「マグナス陛下……――何を?」

「魔法が終わったら……全員で速攻をかける」

「あの魔導士にですか?」

「いや、今一番手薄なのは父グレンとお前の妹の周りだ。百舌ベルガモットをどうにかすれば、好機はる」


 シスは、〝魔王の書〟を持ち、集団に加わった。〝魔王の傘〟の魔力障壁は残り三枚まで削られている。虚ろな瞳をして、ただ魔法を使う人形とかした。魔導士たちは次々に倒れていく。急に魔力消費の激しい魔法を使わされたからだ。


「クソ、マインドダウンだと……こうなったら自爆魔法を使ってやる」


 毒づく魔導士に魔法による攻撃を巧みに躱し、マグナスが近づく。


「王子が……くそ……ファイア……ッ⁈」


 マグナスは、〝ドラググレイヴ〟の刃の腹で、歴戦の魔導士の頭を叩き気絶させた。

 心配するのは奴隷騎士団の面々だ。王子が最も強いと言っても死なれては困る。


「今はそれより父グレンの――――狂王の首を取るぞ」


 オオーッと力強い声が響く。シスは、マグナスの求心力に好感を改めて抱いた。


「ではいくぞ、倒れた仲間は見捨てろ‼ 狂王の首を狙え‼」


 うおおおぉぉぉおおお、という奴隷騎士団の声が上がり、竜王グレンと百舌ベルガモット、そして祭壇に横たわるフィオを守る竜王国の魔導騎士団が剣を抜く。援護射撃とばかりに、ブリジットが〝魔王の傘〟による砲撃を繰り返した。


「ブリジット……援護ありがとう」

「別にアンタの為じゃないんだからね。あくまで魔王候補を潰す為の同盟よ」

「そういうことにしておくよ」


 シスが前方を見ると、マグナスが〝ドラグスレイヴ〟を持ちながら疾駆。大跳躍を果たし、竜王国魔導騎士団の列を超えて、現竜王グレンの前に躍り出た。


「父上……民草の為、その首貰い受けます」

「バカ息子よ……世界に危機が訪れようとしているのに、お前は目の前のことを優先するのか?」

「民の転ばぬ先の杖たれと言ったのは父上あなたでしょう?」

「ッッ⁈」


 竜王グレンは無言になった〝魔王の眼鏡〟を片目に付けて、〝竜王の剣〟――――〝ドラグブラット〟を引き抜く。第一王子マグナスが持つドラググレイヴと同じく刃に印が彫られている。


「私を止めたくば、実力で超えてみせよ‼」

「全盛期ならばともかく老いたあなたを倒せない俺じゃない」

「口だけは達者に育ったようだな。だが負けるわけにはいかぬ」


 長刀で、グレンの首を薙ごうとするマグナス。それを予知したかのように首を反らせて、剣の突きを繰り出すグレン。グレンは盾でそれをギリギリ弾く。が、楯が裂けて使い物にならなくなったのでグレン目掛けて投げる。壊れた盾を一刀両断にするグレンに空中からリーチを生かして斬撃を繰り出す。


「ふっ……はははは」

「何がおかしい? 狂王グレン」

「人生にやり残したことがないことが分かって嬉しいのだ」

「やり残したことだと?」

「次代の王者を作れたことが我が最上の喜びだ」


 ザンッという音がして、マグナスの髪が切れる。驚いてたたらを踏むマグナス。そこに〝ドラグブラット〟――――〝竜王の剣〟で何度も突きを喰らわせる。抜群の反射神経でギリギリ逃れるマグナス、


 シスの目から見て二人の実力は天地の差。〝魔王の眼鏡〟の予知で、動きを予め分かった上で駆け引きをしていると思った。


 竜の血が流れた親子の激闘は続く。シスはその均衡を――――――破る術を知らなかった。

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