第27話 格差社会ランチ

 ──晴明せいめい会長が帰ってきた日の昼休み。


 俺はいつものメンバーと机を寄せ合って弁当をつついていた。

 俺とちゅう子の弁当は自作。透花と白姫は使用人が作った弁当だ。


「帰国の予定を早めるなんて、清明先輩、何かあったのか?」


 綾崎家直伝だし巻き卵を飲み込んでから、俺は透花に質問する。


「ううん、分からない。それどころか兄さんが帰って来てること、わたしもさっき知ったんだよ。酷いよね、連絡くらい欲しかったなー」


 透花は兄への不満を漏らしながら、オマール海老と野菜のテリーヌをその可愛らしい口に放り込んだ。

 透花も聞いていないとは、本当に急な帰国だったのかもしれない。


「ふーん、でもあの清明先輩が、何の理由もなく予定を変更するとは思えないけど……」

「あら? ティアさんって清明会長のことをご存じなんですか?」


 白菜のすり流しに口を付けつつ、白姫が疑問を口にする。


「へ? い、いやー、し、知らないよ~ そ、そう、いつものアレ。清明会長の話は総一郎から聞いてたからね、ね!」

 

 あぶねーあぶねー。つい清明先輩を知っている風に話してしまった。

 それにしても、最近は何でもかんでも総一郎から聞いたことにしてるな。助かるわ、総一郎。

 いや俺だけれども。


「さすがはせいめー、我が見込んだ男よ。もぐもぐ。奴も気付いたに違いない。もぐもぐ。そう遠くない未来、もぐもぐ。この学校で聖戦が起こるという事実に……ふはははは」

「食べながらお話するのは、お行儀悪いですよ?」


 きんぴらごぼうをモグモグしながら中二発言を繰り返すちゅう子を、白姫がメッと叱る。

 つーか聖戦って何よ。今朝は魔界大戦とか言ってなかったっけ?


 と、それはさておき、清明先輩のことも気にはなるが、俺としてはさっきからずっと別のことが気になっていた。

 というか、このメンバーで昼食をとることになってからというもの、俺は毎日そのことが気になって仕方がなかった。

 お喋りしながら、仲良し女子高生が一緒にお弁当を囲む風景は、とても素敵だとは思うのだが……。


 キャビアとホタテのポワレを口に運ぶ透花。

 黒毛和牛のてまり寿司を食し、上品に笑う白姫。

 大根の煮つけをパクリと食べるちゅう子。

 そら豆のビシソワーズは透花。松茸ご飯は白姫。ひじきの煮つけはちゅう子。

 ローストビーフの透花、金目鯛の湯葉包みの白姫。梅干しのちゅう子。

…………。

……。


「何という格差社会っ!?」


 思わずツッコんでしまうほどの経済格差が目の前にあった。


「学校で食べる弁当に、何で【本日のお品書き】が添えてあるの!?」


 それって、ちょっといい旅館の食事についてくるやつだよね?

 ちゅう子が、今どき婆ちゃんでも作らないだろっていう茶色い弁当食べてる目の前で、よくもまあ平気な顔して高級フルコースみたいな弁当食ってられるな!


「普通は友達に気を使って、庶民的な弁当持って来たりしない? 『そんな豪華なお弁当恥かしいからやめて。普通のお弁当にして』とかシェフにお願いしたりしない!?」


 ちゅう子もよく平然とこの格差ランチを乗り越えられるな。正直俺は辛いぞ。

 料理には多少の自信はあるが、さすがにこの二人の弁当と比べられると厳しいものがある。


「――格差社会、それは資本主義が生んだいびつ。でも、それは仕方のないこと……」

「どうした透花? 急に何を始めた?」


 いきなり立ちあがり、舞台女優のように語り始める透花さん。

「なぜなら私たちはお金持ち。ちゅう子ちゃんは庶民。生活のレベルは一緒にできないしする必要もない。でも私たちは大の親友。それは絶対変わらない――――以上です」


 と、座る透花。

 ――え? 何、今の?


「それだけ!? わざわざ立ちあがって、それだけ!? 大した中身なくない!?」


 いや……逆に深いのか? それともやっぱり適当に喋っただけか? 

 分からん……ってか、改めて思うが透花ってこんな変な子だったのか。ああ、でも可愛いな、くそ!


「透花さんは、親友だからこそ、無理して相手に合わせる必要は無いと言っているんですよ」


 と、白姫が補足説明する。


「心さえ通じていれば無理して合わせる必要はないってことか? 三人とも、何だか凄いな」


 そう言われると、格差にこだわってた自分が恥ずかしくなる。

 透花に釣り合う男になるために必死に努力してきた俺とは、違う形の絆がそこにはある気がした。


「何も凄いことなんて無いよ。わたしたちは好きな友達と好きなように過ごしてるだけだもん。それにちゅう子ちゃんも、気にしてないみたいだしねー」


 透花の言葉に、ちゅう子の様子を見てみる。

 そこには、すっごい幸せそうな顔で、からあげを頬張っているちゅう子がいた。


「良い子過ぎるだろ、お前!」

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