第12話 俺は、幼馴染と一緒に…

 今、生徒会長はいない。


 この場所にはおらず、二階の案内した部屋で作業しているのである。


 須々木真理すすき/まりは、学校が終わっても業務と真剣に向き合っているのは凄い。


 そんな先輩が自宅にいるのに、幼馴染とこっそりイチャイチャすることに、多少なり、後ろめたさを感じていた。


 疚しさが入り混じった心境である。




「隼人、早く、何かしよ」

「ちょっと待って。さっき食事が終わったばかりだし。休ませてくれないか?」

「えー、でも、今日は残り時間が少ないよ。隼人と一緒に、もっとしたいのに」


 幼馴染は不満げに言う。


 崎上隼人さきがみ/はやとはソファで横になっていた。


 そのソファの前に遊子菜乃葉ゆず/なのはが佇んでいるのだ。


 見下ろされている感じであり、まじまじと見られることに気恥ずかしさを感じてしまう。


 なかなか、気が休まらなかった。




「ねえ、隼人、これから何をしたい?」

「何って……」


 幼馴染とやってみたいことは山ほどある。

 けど、状態が状態なだけに、うまく体を動かせなかった。




 両親が不在の今、一週間だけ幼馴染と二人っきりの生活ができる予定だった。


 生徒会長の存在により、それができていないことは事実。


 でも、生徒会長として、学校のために貢献している彼女を追いだすことなんてできなかった。


 菜乃葉と普通に関われるのは、菜乃葉が先輩との勝負に勝った時である。


 明日、幼馴染が勝つという保証はないのだ。


 ソファに背をつけていた隼人は、気合を入れ、状態を起こす。


「隼人、ようやく起きた感じ? 体の方は大丈夫?」

「ああ」


 隼人はソファ上で座り直すと、彼女の方を向く。


 すると、菜乃葉が顔を近づけていたことがわかる。


 近いって……。


 幼馴染はソファ前でしゃがみ、まじまじと隼人の顔を見ているのだ。


 恋愛的な距離感であり、食事での疲れが一気に吹き飛ぶほどだった。




「隼人って、これからどうするつもりだったの?」

「特に何も考えていなかったというか。普通にいつも通りにできればいいというか……」


 本音は、菜乃葉とイチャイチャしたい。

 けど、そんな恥ずかしいこと。口にできなかった。


「ねえ、何したい?」


 幼馴染が、隼人の隣のソファに座ると距離を詰めてくる。


 そのたびに、胸焼けするほどに興奮してばかりだった。




「俺は……ちょっとさ。会話したいっていうか」

「会話? 普通にしてるじゃん」

「そういうことじゃなくてさ。もう少し、恋愛的なことというか」

「恋愛的? 隼人の方から、そんなことを言ってくれるなんて」


 菜乃葉は頬を染め、恥ずかしそうにしていた。


「ねえ、恋愛的ってどういうこと?」

「デート先とか、そういう話だよ」

「デート?」

「うん。互いにさ。両想いってことなら、そろそろ、そういうことをさ」

「……隼人って、なんか、積極的ね」


 彼女は口ごもった話し方をする。


「でも、隼人からそういう話をしてくれて嬉しい♡」


 幼馴染からは好評だった。


「私、できれば、雰囲気のいいところに行きたいかな?」


 彼女が提案してくる。


「雰囲気のいい場所?」

「うん」


 では、どういうところがいいだろうか?


 水族館とか?


 デートスポットというなら、そこが一番雰囲気のいいところだと思う。




「水族館とかは?」

「いいね。私、そこがいい♡」


 菜乃葉は隼人の腕を抱きしめてくる。


 その瞬間に、彼女のおっぱいが当たるのだ。


 フワッとした温もりが、隼人の心を包み込むようだった。


 須々木先輩と比べると、小さい方だと思う。


 でも、普通サイズだったとしても、その中に優しさがあるのだ。


 やはり、付き合い続けるなら菜乃葉の方がいい。


 そう感じる。


 先輩を彼女にするのは難しいかもしれない。


 実際のところ、先輩にはパシリのように扱われているだけである。


 先輩も、隼人のことを恋愛対象としては見ていないだろう。


「隼人、水族館って、今週中に行く?」

「うん」


 隼人は、須々木先輩のことについて考えていて、少々反応が鈍くなっていた。




「じゃあ、決まりね」

「約束ってことで」

「……これで、隼人と一緒に思い出が作れるね」


 菜乃葉は嬉しそうに一人で楽し気なトーンで呟いていた。


 幼馴染とは高校に入ってから、あまり関わりがなかったのだ。


 中学時代までと違い、忙しくなっている。


 両親のいない、今回の一週間が唯一、幼馴染と二人っきりで遊べるタイミングだった。


 その僅かな期間。

 色々な幼馴染の姿を見たい。


 水族館という場所で、もっと、幼馴染との大切な思い出を作りたいのだ。


 内心、隣に座っている幼馴染を見、そう決心を固めるのだった。




 幼馴染は昔からの仲で、どんな時でも一緒に過ごしてきた。


 昔と比べ、幼馴染は成長しているのだ。


 あの幼い頃のような関係性ではいけないと思う。


 隼人はもっと、今の菜乃葉のことを知りたかった。




 一緒に――


 隼人は何を血迷ったのか、変なことを口にしてしまった。


 そのセリフを聞いていた幼馴染は、ドキッとした態度を見せ、頬を真っ赤に染めていたのだ。


 どう考えても、女の子に対して言う言葉じゃない。


 菜乃葉は驚いてはいたものの、現状を理解したのち、承諾してくれたのだ。


 そして、二人はリビングの電気を消し、別の部屋へ移動するのだった。






「でも、やっぱり、恥ずかしいよ」

「お、俺も……」


 隼人から提案したこと。


 菜乃葉が羞恥心を覚えるのは普通のことだが、発言者である隼人も、ちょっとばかし後悔しているのは不自然である。


「もう、隼人、こっち見ないでよ」

「でも、この前は、一緒にお風呂に入ろうって」

「そ、それは……そういう決心があったからよ。でも、今はまだ、心が定まっていないし……」


 菜乃葉はボソッと言う。


 今、背後を振り向けば、彼女の全裸姿が拝める。


 隼人も今になって思えば、失言だったと思う。


 でも、一応、菜乃葉も、今日一緒にお風呂に入るということで了承してくれたのだ。


 布面積が少なくなっていくに連れ、菜乃葉の声も小さくなっていく。


 普段は明るい口調が魅力的なのに、女の子らしく、お淑やかさが目立ってきていた。




「どうする?」

「どうするって……は、入るんでしょ……」


 やはり、菜乃葉の声は小さい。


「でも、無理なら、断ってもいいから……」

「……で、でも、入るよ」


 背後から今にも消えそうな声が聞こえてくる。


 菜乃葉は頑張っている方だと思う。


 彼女の震えた声が、耳に届くたびに隼人の胸の内は熱くなるのだった。


「隼人……いいよ。でも、電気を消してならいいよ」

「うん」


 隼人は、脱衣所の電気を消した。


 そして、二人は――

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