K/D

ヨコノタンボ

第1話 起動

「なーんにもないよ」


地平線の先まで続くのは真っ直ぐに伸びた道路とどこまでも青い雲一つない空。

今はこの青天がとてつもなく憎たらしい。


「黙って走る!」


「だってもう6時間は走ってるけど石ころしか見てないよ。」


それは私も同じ気持ちだ。

前の町を出る時親切そうなホテルのフロントに朝に出れば昼には着くと聞いていたのに。


「騙された」


「どっかで燃料を入れないとガス欠しちゃうよ?」


それもわかってる。でも彼女が言った通り「なーにもない」のだ


「ちょっと休憩する?」


「いや、あの丘を変えたら町かも知れない!」


私達以外は何もない道だ。

常に全開で走ってる。

気持ちがいいのは肌をかけるこの風くらいなものだ。

もう少しで丘の上まで辿り着く、まだ見えない向こう側への希望が増していく。そして


「「あっ!!!」」


走り続けた結果が身を結ぶ時が訪れた。

どう見ても誰かが住んでるであろう建物。

新鮮な野菜が摂れるであろう広大な畑。

加工すれば大変美味しいお肉になってくれるであろう動物たち。

何故か火が付いている建物。

逃げ惑うそれ、そして飛び交う沢山の怒号。


「あの町なんだか大変そうじゃない?」


「でもあそこにあるかも知れないよ命令が」


せっかく辿り着いた町は何かが起きてる様子だ。


「突発的なお祭りかなにかやってるだけかもしれないしもっと近づいてみよう。それにもしかしたら今日は色々タダで手に入るかもしれないよ」


多分、とても悪い顔をしながらニヤニヤしているのが分かる。

そして町に近づいていくにつれそれがお祭りではない事がよく分かる。


「もう動かない?」


この町の門番だったであろう物の頭に大きな穴があいている。勿体無い燃料が流れ出ている。


「じゃーこれで入国の審査はパスかな」


確かに余計な時間を取られないで済むのはありがたい。

門をくぐると大変面白くなさそうなお祭りが行われていた。


「うわっ!見てよあれ、美味しそうなケーキ屋さんの看板が凄い燃えてる。こっちは安そうな宿屋の窓が全部割れてるよ!この町での楽しみが減っていくー!!」


6時間走り続けて辿り着いた結果がこんなことになってる町だなんてそうそう納得のいくものではないが。


「もうしょうがないし使えそうなものと燃料だけ貰って行こうか。すいませーん!そこの今にも撃とうとしてる人!」


いかにもな風貌の男がこちらを向きながら引き金を引いた。渇いた音と物の倒れる音が遅れて聞こえてくる。


「あのーこの町から奪った燃料があるなら下さい」


男はこちらに銃の先端をむけながら


「燃料?なんだコイツどっか壊れておかしくなったか?まーとりあえず死んど」


男の最期の言葉は途中で終わってしまった。と言うか終わらせた。


「燃料は貴方に流れてるもので結構」


ドクドクと流れるそれはドス黒い色をしている。


「ここにいるのは全部おかしくなったやつかな?」


「そうだね自分を大昔にいた生命体だと思って行動している、良いことも悪いこともマネしながら。」


そう言って私は動かなくなった男を切り裂いた腕に付いた燃料を拭う。

少し粘り気がありそれは驚くほどに冷たい。


「じゃー私は引っ込むね戦闘向きじゃないし、後は任せたよ、キル!」


「全部片付け終わったら貴方に身体を変わるねおやすみ、デス」

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