魔王と再会

「聖女様、お疲れ様でした」


あれからというもの評判が評判を呼び、私に施術して欲しいという人はひっきりなしに城へ訪れてきた。


このままでは色々と支障をきたすとアルフレードに言われてしまったので、週に三度街へ行き施術する日を設けた。


因みに魔法の方だが、アルフレードの指導が良かったのか、元より私のセンスがあったのか二日でしっかり基礎を取得することに成功した。


杖爺はその成果に驚いたが、これで魔王と対峙しても生き延びれる事ができると安堵していた。

まあ、まだ会うには力が足りないなんて言われてるから週二で魔法の練習を引き続きアルフレードの指導の元頑張っている。


そんな訳で、今日は施術の日。

今日も今日とて始まる前から5~6人の列が出来ている。

大きな絵柄になると何日か通ってもらわなければならない為、大体の人は小さなものを入れてその日の内に終わらせていく。

何日も痛い思いしたくないもんね。


二人目の施術が終わった所で休憩。

休憩中思うことは、魔王の事。

何人もの人に施術したが、やっぱり私は魔王に施術してみたい。

もう何回、何十回とあの肌を思い出し、その衝動に駆られている。

もはや病気レベル。


「はぁ~……早く会いたいな……」


そんな事を思いつつ、次の人を呼んだ。


次の人は外套姿の大柄の男性。

フードを深く被っているせいで顔は見えない。


「こんにちは。貴方はどこに入れます?」


無言でスッと腕が出された。

どうやら腕に彫ってらしいのだが、一言も喋らないとなると何を彫っていいのか分からない。

無言という事は、私に任せるという事だとは思うが、後々文句を言われたらたまったものじゃない。


溜息を吐きながら肌質を確かめるために腕に触れると、驚いた。


(この肌質……)


忘れもしない。この肌質を……


(けど、まさか、そんなはず……)


高鳴る胸を抑えつつ、ゆっくりと腕を出している人を見上げた。

そして、告げた。


「……魔王……?」


目の前の人はまさか気づかれるとは思っていなかったのだろう。慌てて腕を引こうとしたが、私がそれを許さない。


「離せ!!」

「ちょっと、なんで逃げようとするのよ!!施術しに来たんでしょ!?」

「違う!!そんな訳では……ただ、お前が……ごにょごにょ……」


この人は本当に魔王か?と思ってしまうほど、目の前の人物はうじうじと何やら呟いている。


「えぇ-、申し訳ありません聖女様。この約立たずの主に代わりに私が代弁致します」


魔王の足元の影からこれまた綺麗な男の人が出てきた。


「シャル!?」

「まったく、貴方は何をしているんですか?聖女様が困っているじゃありませんか。あっ、わたくし魔王様の部下であり宰相を務めておりますシャルと申します。以後お見知りおきを」


ニッコリ微笑みながら軽い握手を交わした。


「聖女様、単刀直入に言わせていただきます。我が主である魔王様はどうやら貴方様をお気に召し、貴方が街で人々の肌に何やら施していると聞きつけ、お近付きになろうと企みここまでやってきたはいいものの、貴方を目にしたら会話が出来なくなってしまった。と言うことらしいんです。本当に情けない……」

「おま、おま、お前──!!!」


シャルに全てを暴露された魔王は顔を真っ赤にして怒っていた。

真っ赤になっているのは魔王だけでは無い。

私も同様に顔に熱が篭っている。


正直、恋だの愛だのとは無縁な人生を送っていた私は刺激が強い。

それに、そんな事を聞かされた今、魔王の顔をまともに見れない。


「おや?おやおやおやおや?これはこれは……」


シャルが何やらニタニタしながら私と魔王を交互に見て「魔王様、私は先に城へ帰りますね」と言って、魔王の影に消えていった。


間接的にであるが告白まがいのことを言われて、今更「じゃあ、施術しますね」なんて言えるはずがない!!


目の前の魔王は下向いて黙ったまま何も話さない。

二人の間に長い沈黙が……


「……お、おい!!」

「は、はい!?」


沈黙に耐えれなくなったのであろう魔王が先に口を開いた。


「ま、魔法は上達したのか……?」

「──えっ?……あ、あぁ~……アル先生は厳しいし、杖爺にはこんなんではまだまだだ!!って言われてる」


アル先生の単語を出し時に魔王の眉が上がったような気がした。


「……………てやる」

「はい?」

「……俺が……教えてやる……」

「え?」


あれ?私の耳がおかしくなったのかな?

討伐されるべき魔王が敵である聖女に魔法を教える?


「あの生意気な小僧より私の方が魔法は熟知しているからな。……それに、ほら、俺の肌に柄を描くのだろう……?」


耳まで真っ赤にして、恥ずかしそうに伝えてくる魔王が子犬の様に思えて無意識に頭を撫でていた。

当然狼狽えていたが、満更でもなさそうな姿にクスクス笑みがこぼれた。


「そうか、じゃあ、魔王様に先生になってもらおうかな?」


首を傾げながら伝えると「……勝手にすればいい」と素直じゃない姿が妙に可愛らしかった。



◇◆◇◆



その後、気分よく魔王は帰って行き、私は杖爺とアルフレードに報告の為城へと戻った。

私の話を聞いた杖爺は「……お主のような聖女は初めてじゃ……もう、儂は何が起きても驚かん」と怒号が飛ぶのを覚悟していたのだが、呆れてものも言えなかったらしい。

アルフレードも同様、空いた口が塞がらず呆れていた。


魔王は次の日から早速私の元を訪れて来た。

杖爺とアルフレードとは馬が合わず、顔を見れば睨み合うか嫌味を言い合っている。


その魔王だが、私がこの国にいる間は人々から魔力を奪わないと約束してくれた。

それなら私聖女でいる意味無くね?って思っていたのだが、聖女の任が解かれてしまうと杖爺との会話が出来なくなると分かって、そのまま聖女を続行中。

杖爺と話せなくなったら悲しいもん。


そして、今日も……


「聖女、来たぞ」

「いらっしゃい。ってか、そろそろ聖女ってやめない?」

「……る、ルイ……」

「はい」


私の名前を呼ぶだけで耳まで真っ赤になる魔王をからかいながら、魔王の肌に愛情を込めて胡蝶蘭を彫っていく。

花言葉は「あなたを愛してる」









あとがき


最後まで読んでいただきありがとうございました。

自分の中でもいまいちな終わりですが、これで一旦完結とさせて頂きます。

時間を見つけて手直ししていく予定ではあります。


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彫り師が異世界に聖女として召喚されたが、何よりも魔王が気になって仕方がない。 甘寧 @kannei07

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