フクロウの正体は

(俺とした事が油断した)


俺は宣言通り、聖女に会いに城へとやってきた。……フクロウの姿で。


俺が魔王城を出る時、シャルに呼び止められ、魔力を抑える指輪を渡された。


「このままではすぐに魔王様だとバレてしまいます。この指輪で魔力を抑えてください」

「分かった」

「あと一点。そのままのお姿ではモロバレです。魔力を押えて行く意味がありません。なので姿を変えて行ってください」

「この姿でなければ聖女に分からんであろう!!」

「──本当に貴方様は……」


大きな溜息と共に呆れた顔で俺を見てきた。


「いいですか?聖女様がいる場所は王城です。そこには小賢しい王子小僧がいるんですよ?聖女様に会う前に追い返されては本末転倒でしょう」


そう言われて俺は納得した。

あそこの第一王子は騎士団長でもある。その腕前は俺も買っている。

俺がこの姿で現れたら真っ先に奴が来ることは必然。

しかも、俺は指輪で魔力を抑えている状態だ。奴からしたら鴨がネギを背負って来たようなものだろう。


「……仕方ない」


そうして、フクロウに化けて城へとやって来たのだ。


城へ着いてすぐに聖女の魔力を感じ、その場所へと移動した。

あと少し、という所で頭に衝撃を受け気を失ってしまった。


そして、意識が戻ると目の前には聖女の顔があった。


──俺は捕まったのだ。


そう思った。

まさかこんなにも早く正体がバレ攻撃を仕掛けてくるとは思いもしなかった。完全に油断していた。


俺は覚悟を決め、暴れることもせず聖女の顔をじっと見た。


すると聖女は俺の目が綺麗だと、魔王のようだと言っていた。

その言葉を聞いて体がビクッと震えたが、王子の小僧もただのフクロウだと思っているようで「魔王な訳がない」と。

その言葉を聞いて、ようやく正体がバレていない事を察した。


優しくフクロウを撫でる聖女の手の温もりに気持ちよく体を預けていると、足に付けていた指輪に気がついた。

聖女はフクロウをペットだと思い込んでいた。

更に、飼い主がいなければ自分が飼うとまで言っていたのだ。


その瞬間、俺はこのままフクロウでもいいんではないか?と血迷った事を考えてしまった。

こんな事、グルルに知られれば何を言われるか分かったものでは無い。

それに、出来ることならフクロウの姿の俺ではなく、魔王としての俺を見て欲しい……そう思ってしまった。


今までの聖女に持ったことの無い感情が沸き起こり俺は困惑した。


(な、なんだ、この感情は……)


困惑してい俺に聖女は「一晩泊まらない?」と言ってきたのだ。

一瞬で全身の血が沸騰したように熱くなった。


(と、ととととと泊まるだと!?)


いや、落ち着け、今の俺はフクロウだ。

聖女こいつはフクロウに言ったのだ。


それに、一緒にいればこいつの事が分かるかもしれない……


(ち、違う違う!!弱点を探る為だ!!!)


俺はゆっくり頷いた。

聖女は微笑みながら「一晩よろしくね」と口にした。



◇◆◇◆



その晩、聖女が寝息を立てているのを確認してから、俺はフクロウの姿を解いた。

ベッドに横になり規則正しい寝息を立てている聖女を見ると、自然と笑みがこぼれた。


ソッと聖女の頬に触れようとした時……


『──寝込みを襲うとは、魔族の風上にもおけませんね』


聞き覚えのある声に驚き、サッと手を引いた。

どうやら、魔力制御の指輪に細工されていたらしく、映像通信が出来るようになっていた。


「しゃ、シャル、お前……!!襲ってなどないぞ!!触れようとしただけだ!!」


宰相であるシャルの蔑むような目に、慌てて誤解だと反論した。


『静かに!!聖女様が起きてしまいますよ!!』


シャルに言われ、慌てて口をつむみ聖女の方を見るが俺の心配をよそにスヤスヤと眠っているのを確認し、ホッと安堵した。


「──で?お前がわざわざ連絡をしてくるってことは、何かあったのか?」


シャルは口と態度は悪いがデキる男だ。一日適度俺が居なくてもシャルなら上手いこと魔族みなを纏められる。そのシャルがわざわざ連絡を寄越したとなると緊急に違いない。


『いえ、むしろスムーズに仕事がはかどり久々に定時上がりで皆喜んでおりました』

「……まるで俺がいると仕事がはかどらんような言い草だな」

『まあ、その通りです』


よし、この宰相はクビにしよう。


『──冗談はさておき、私は貴方様が心配でこうして連絡をしたのです』

「なに?」


口では散々好き勝手言っているが、主人の心配をするなど中々可愛いところもあるじゃないか。……そう思っていたのに……


『やはり映像通信を搭載しといて良かった……あと一歩遅ければ聖女様の身が穢れる所でした』

「……お前、魔族の味方なのか?聖女の味方なのか?」

『私は女性の味方です』


こうもハッキリ言われると逆に清々しい。


『──という訳で、魔王様。未婚の女性の部屋に泊まるなどもってのほかです。今すぐ帰城して下さい』


『それに、もう十分聖女様と一緒に過ごされて満足したでしょ?』と付け加えられたが、正直、名残惜しい。


ソッと聖女の頬に手をやると、ピクッと動き俺の手に擦り寄ってきたでは無いか。

その仕草が愛らしく、微笑みながら手を委ねていると後ろが『魔王様!!それ以上はいけませんよ!!早く離れてください!!』などと煩いので、仕方なく戻ることにした。


手を離す時、俺は自然と聖女の額に口付けていた。

当然、後ろのシャルからは『公然わいせつ!!』『不純!!破廉恥!!』などと暴言を言われたがな……


俺は窓に足をかけ、もう一度最後に聖女の顔を見ながら


「……おやすみ。またな」


と呟き、城を後にした。

















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