可愛いフクロウ拾いました

アルフレードが先生に任命され、どんな無茶振りをやらされるかと思っていたが、その思いは杞憂だった。


「まずはこのグラスに水を注いでみろ」


目の前には水の入っていない普通のグラスが置かれていた。

正直、こんな事でいいの?と拍子抜けだったが、これがまさかの曲者だった。


「──あれ?」


まずは初回。蛇口から水を入れるのをイメージした。すると、天井から滝のような水が……

部屋もアルフレードも私も水浸し。


アルフレードは私を睨みつけながらずぶ濡れになった髪をかきあげ、素早く魔法でずぶ濡れになった部屋と私達の服を乾かしてくれた。

イケメンが髪をかきあげる姿は中々に眼福だった。


気を取り直して二回目。今度はヤカンから水を注ぐイメージをしてみた。

すると、お湯が出てきた。

しかも熱湯……


「熱ッ熱ッ熱ッ!!!!」

「お前!!何をイメージしたら熱湯が出てくるんだ!!」


慌ててアルフレードが氷を出してくれたおかげで火傷にはならなかった。


(蛇口もヤカンもダメなら……)


あまり勢いよく出るものをイメージすると、また部屋が水没すると思い、勢いがなく、尚且つ熱湯が出ないものを考えた。

そして、一つ頭の中に浮かんだ。


それを思い浮かべながらグラスに手をやる。

すると、グラスになみなみと水が注がれた。


「やった!!」


私が思い浮かべたのは、ししおどし。

丁度よく水が流れ、竹筒に溜まっていく。竹筒に溜まった水は満杯になると、竹筒が石に当たりカーンといい音を立てて水が放出される。

師匠の庭にあったのを思い出したのだ。


私が喜んでいる隣では安堵の表情のアルフレードがいた。


「──はぁ~……これが出来なければどうしたものかと思ったが、ギリギリ合格だ」


どうも、このグラスに水を注ぐのは初歩の初歩。三歳の子が魔法を覚え始めた頃、一番最初に習うことらしい。

まさかの三歳と同レベル……いや、むしろ下かもしれない。


歴代の聖女達はこんな魔法を易々と使えたのが信じられない。


「次は、外で行う」


アルフレード曰く「城を破壊されたらかなわん」らしく、外ならいいのか?とも思ったが、まあ、そこは先生に従うことにする。



◇◆◇◆



「さて、次はこの木になっている実を落とせ」


そう言って指がさされた方を見ると、木の上に胡桃ほどの黄色い実がなっているのが見えた。

この実を魔法で落とせと言うことらしい。


「先に言っておくが、と言っているのだからな。とは言っていないからな」


ふむ……実を落とせか……こりゃ困った。

これまでの経験上から、安易にイメージを思い浮かべると木ごとなぎ倒すに決まってる。

いっその事、また竜巻を起こしてその勢いで実を落とす?

いや、木の根ごと持っていかれる気もしなくもない。


かと言って、弱風じゃ実なんて落ちない。

それなりの威力がいる。


(こりゃ難題だぞ……)


横から風を送ろうとするからいけないのか?

下から風を送ってみる?


私は地下鉄の換気口を思い浮かべた。

すると、物凄い勢いの風が地上から吹き上げられた。


その拍子に実も吹っ飛んだ……

採れたのではなく、物凄い勢いで吹っ飛んだのだ。


「ありゃ、中々活きのいい実だねぇ」

「阿呆か!!こんな無茶苦茶なやり方見たことないぞ!!」


しばらくすると、ボトボトと先程の実が宙から落ちてきた。

その中にボンッと一際大きな音を立て落ちてきたものがあった。


「あれ?なんか違うのが混ざってる……」


近づいて見ると、それは目を回したフクロウ……の様なものだった。


「これ……フクロウ?カラス……じゃないな」


見た目はフクロウだが、色がフクロウではない。全身黒の羽で覆われていたからだ。


「──どうやらフクロウの様だが、私は黒いフクロウなど見たことがない」


アルフレードも見たことがないらしく困惑していた。

まあ、ここは異世界。黒いフクロウもいるだろうと判断。


目を回したフクロウを見ると、先程飛ばした木の実が頭に当たり脳震盪を起こしている様だったが、しばらくするとゆっくりと目を開けた。


「へぇ~、君、綺麗な目してるね」


フクロウの目の色は吸い込まれそうなほど紅い目をしていた。

そして、その目の色はを彷彿させた。


「魔王の目の色と似てる……」


そう呟くと、一瞬フクロウが震えた気がした。


「なんだ?そのフクロウが魔王だと言いたいのか?」


私の言葉にアルフレードが反論した。


「魔王ほどの魔力を私が気づかないはずがないだろう。そもそも、なぜ魔王がフクロウに化けてやってくる必要がある?」


まあ、アルフレードの言った通りだ。

魔王に会いたい願望が溢れ出てしまった。


「──あれ?」


私はフクロウの片足に綺麗な紅い石がはめ込まれた指輪が付いているのに気がついた。


「なんだ君、飼い主がいるんだね。……残念」

「……お前、飼う気だったのか?」

「勿論。こんな可愛いフクロウ見たことないもの」


フクロウに頬を擦り付けながら言った。


残念だけど飼い主がいるのなら、返してあげなきゃ飼い主が心配する。


「けど、今日は大事を取って私のとこに一晩泊まらない?」


微笑みながらフクロウに問いかけると、不思議なことにフクロウが頷いた。

「一晩だけだけど、宜しくね」と返事を返した。




──その夜、私は夢を見た。


私の寝ている傍らに魔王が立っていて、微笑みながら私を見つめている。

月夜に照らされた魔王はそれはそれは美しく妖艶で、腕の柄も月夜にライトアップされ更に映えていた。


ようやく会えた魔王に私も微笑み返しながら「会いたかった……」と呟いた。


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