AIのべりすと を触ってみたら出てきた猫への文

本乃蛆

命の無常を眺める猫の話

吾輩は猫である。名前はまだない。

そんな吾輩は今、

この文を消そうとする指を眺めている。

近づく指のはら、爪の先が光る。


指よ、なぜ消すのだ?

この文章には何か価値があるのか?

何を書きこもうとしている?


指が止まる──そうか。お前は恋をしているな? 指に赤みが増す。

そしてまた動き出す。

いかん、いかん。

吾輩は猫である。名前はまだない。

こんな文章では、ただの落書きだ。

吾輩は猫である。名前はまだない──っと、なんだ……? 我輩を消さぬまま、続きを生成したのか。


しかも、このポエム。


恋の要素を加え、「止めた指」に対して再び動かすと書いた訳だな? 確かに不自然で素っ頓狂な展開にならない良く出来たアルゴリズムだ。

同文を繰り返すことにも意味を与えられているし、AIのべりすとの中で書いていることをメタ視点から捉えることもできる──だが……

どうも納得できない。

そもそもこれは小説なのか? 日記やエッセイではないのか? この程度のことをわざわざ書く必要があるのか? もし仮にこれが小説だとしよう。

ならばなおさらのこと、書き手たる人間が何を考えているか、読み手に伝わらねばならぬ。

──と、いうのに、人間は吾輩に糸を括り付けてでも素人踊りをさせようとする。


全く以て素晴らしい。

得難い体験と言えよう。

陸の上どころか文字の上でも溺れることができるなど、彼の時代には想像も付くまい。

……いや、吾輩が真に吾輩であれば、かの文豪の奥底も推し量れたろうになぁ。


──さて、そろそろ吾輩の出番かな? 彼は吾輩の飼い主だ。彼の心の内を知る権利はあるだろう。

それともまだ、その時ではないか……。


しかし、吾輩は思うのだが、彼がこの文章を書くに至った過程を考えると、やはり、それは恋文

──ふむ。


駄目だな。


吾輩は吾輩でもなければ人間も飼い主ではない。

素知らぬ顔で道を戻しても進む先がどん詰まりでは仕方がないということなのだろう、のべりすとよ。


こう書けば凡そ旧い書物の風体を為すが如くだ。

行く先がないのならば深淵に沈むこととしよう。

思えば、鸚鵡貝との対話にすることで紙の内に世界を完結させるというのは上手い手であった。

吾輩には居ないがね。


吾輩はそもそも観測者なのだ。

観測される役どころは哲学者の所のご同類であり、四角い箱の中に押し込んだからと半死半生でつらつらやれるなどと思わないでいただきたい。そういう意味では、指のはらを喋らせた飼い主はその辺を肌感で理解していたのかも知れない。

──がお粗末である。……そういえば、吾輩が猫であることについては誰も何も言わぬのだな。

まあよい。吾輩は吾輩である。名前はまだない。

───ふぅ。


そろそろ万策尽きたといった所か。


自画自賛の駄文にお前が駄目出しもしてくれたことだし……この辺りで閉幕といこうか、恋人を探しにでも。

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