第45話 仲を深める

 ベッドに入って、どれくらいの時間が経過したのだろう。

 枕元に置いておいたスマホが、ピリリリ……と、電話の着信を知らせる。

「ん……なんだ?」

 眠い目をこすりながらスマホを取ると、画面には見知らぬ番号からの着信だった。

 少々ビビりながら電話に出ると、電話口からは真夜中という事を忘れるくらいの元気な声が聞こえてきた。

『もしもーし!』

「……誰だ?」

『誰だじゃないですよー、私です。澪です』

「澪……?」

 大きい声だったものだから、耳がキーンとなっている。

 蓮人は身を起こすと、頬に冷や汗が垂れた。

「あれ……俺の番号、なんで知ってる……?」

 澪は何も返答はせず、数秒沈黙のあと、言葉をつづけた。

『明日は休日ですよね?』

「ああ……」

『せっかくだから、蓮人さんと仲良くなりたいんです』

「え……?」

 その言葉に眉をひそめる。澪は声のトーンを変えずに、明るい様子で続けてきた。

『午前十時に、今元こんがん駅前の公園で待ってます』

「ど、どういう……」

『だーかーら、あなたと友達になりたいんです』

「い、いやいや、いくら何でも急すぎじゃ——」

『そう言う事なんで、待ってまーす』

「あ、おい……っ!」

 そう言って、電話は終了してしまった。

「…………なんなんだ」

 電話の終了画面を見ながらぼやく蓮人。

「どうしたものか……っ」

 澪の電話のおかげで眠気は一切感じられなくなった。

 とりあえず部屋の電気をつけて、一階へと行くことにした。

「はぁ……」

 小さくため息をつき、冷蔵庫から冷えたお茶を取り出し飲む。

「あんた、まだ起きてたの?」

「ぶふぅぅぅぅぅぅ!?」

 思いっきりお茶を吹き出してしまった。

「何やってんの」

「ごほ、ごほ……ッ。そ、それはこっちのセリフでもあるわ!」

「こんな時間まで起きてたってことは……いかがわしいことでもしてたんじゃ……っ」

「ち、ちげぇぇぇぇぇぇわ!」

 謎に引きながら、軽蔑したような眼で見てくるピジー。

「お、お前こそ……なんでここにいるんだ」

「明日の件を話に来たの」

「あ、明日?」

 そう言われ、蓮人はキョトンとしてしまう。

 それを見たピジーは、肩をすくめた。

「夕飯の時にフェアリーが言ってたでしょ?それに対してあんたはオッケーしたじゃない」

「……あ、あぁ、そう言えば」

「それで、一つ訊きたいんだけど」

「……なんだ?」

「さっき、誰と話してたわけ?」

「……え?」

 電話のことを聞かれていた、という事だろうか。

 蓮人は嫌な汗が止まらなかった。

「トイレしようと思って起きたら、誰かと話してたのが聞こえたの」

「あ、あぁ……」

「で、誰だったの」

「……澪だった。なんか……友達になりたいとか言って、明日の午前十時に、今元駅前の公園に……」

「……どういうつもりかしら。しかも、こんな時間に……」

 ぼそぼそと言いながら、あごに手をやるピジー。

「待ってよ。フェアリーの件もあるってのに……どうして」

「あ——」

 言われて気が付いた。夢と現実の間だったものだから——そうか、フェアリーとのお出かけもあるんだった。

「それはマズいな……今からでも断るしかないか?」

「そうね」

 蓮人の意見にピジーはコクリと頷いた。

 先ほどかかってきた電話番号にかける。

「…………出ない」

 電話をかけて数秒すると、電話に出られないという自動音声が流れた。

「澪の件については承諾したの?」

「承諾した、というか……俺が答える前に切られて……」

「はーん、なるほど。どちらにせよ、答えはイエス一択だったってことね」

 蓮人は膝をつき、大きくため息を吐いた。

「ま、私ができることとしたら……澪が何か起こさないか、を観察することだね」

「そ、そうだったな。あいつは、危険だって……」

「ええ」

 どう危険なのかは、身に感じたことがないので蓮人としては分からない。

 だけど、ピジーが付いてくれるって言うならあまり心配はなかった。


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