第36話 知られる存在

 ——お昼休みの図書室。

「あ、来たんだね」

 図書室の扉を開けると、椅子に座り静かに本を読んでいる小柄な少女が目に入った。

 こちらの存在を確認すると、本をパタリと閉じた。

「来たもなにも、そっちが呼んだんだろ?」

「そう、だね。……あれ、あなたも来たの?」

「一応、よ」

「そんなに心配しなくても大丈夫なのに。ただ、お話したいだけ」

「……ふん。どうだか」

 微笑みながら、対面の椅子を指さす少女。どうやら、そこに座れという事らしい。

 蓮人は素直に対面の椅子に座った。

「……ピジー?」

「なに?」

「座らないのか?」

「…………」

 が、しかし。ビシーに至っては、なぜか椅子に座ろうとする素振りは見せなかった。

「はぁ……いいよ。座りたくないなら、無理に座らなくて」

「……どうも」

「…………」

 このやり取りに、なぜか違和感を感じた蓮人。 

 この二人が知り合いのように見えるのはなぜだろうか?……ただの気のせいかもしれない。

 ピジーは椅子には座らず、近くの本棚に寄りかかるような感じで立っていた。

「さてと——じゃあ、もう一度自己紹介するね」

 そして、その少女が口を開く。

「紫原澪。玲華の、中学校からの友達だよ。趣味は読書で特に恋愛モノかな。詳しくは玲華から聞いてね」

 ——紫原澪。玲華やリリーよりも小柄で、茶目茶髪のポニーテール。

「お、俺は日暮蓮人。まあ、玲華との幼馴染だよ」

「うん、玲華からある程度は聞いてるよ。そっちがピジーね」

「…………ふんっ」

 名前を言われ、なぜか不機嫌そうに腕を組むピジー。

「……えっと、二人は知り合い?」

 蓮人がそんな質問をすると、視線はピジーの方を向いたまま澪が小さな口を開く。

「まあ、ちょっとあって」

 と思ったら、澪が言葉を濁した。

「いい気はしないわ。まさか、ここに入ってあなたを見るなんてね」

 やはり、前にも会ったことがあるかのような発言だった。

 次いでピジーが口を開く。

「私と、同じ——<ブロッサム>でしょ?」

「ははっ、覚えてくれてんだ」

「な……ッ!?」

 もちろん、その言葉を聞いて蓮人は驚愕した。

「ぶ、ブロッサムなのか……?」

「うん。いろんな事情があって、ブロッサムとして生きてる」

 衝撃的な事実を知ってしまった。

 まさか、リリー、ピジー以外にもブロッサムがいたなんて……。

「私が話したかったのはそのことじゃないの」

「あら、違うの?」

「そうだよ。……この学校——というよりも、この世界に<ベスティア>が現れたからさ。その話をしたかったの」

「私以外にも、リリーっていう新たなブロッサムがいたから、何とかしてる途中」

「具体的には?」

「……出てきたら殺してるわ」

「ああ。典型的なやり方か」

 そう言葉を切って、澪は本を持って席を立つ。

「……ほかにやり方があるって言うのかよ」

 澪の言葉に、ポツリと独り言を漏らしたピジー。

「いろいろと訊きたいことがあると思うけど、もう時間だし」

 そう言われ、二人は壁掛け時計に目をやる。

 時刻は、昼休みが終了する五分前となっていた。

「蓮人さん、また会おうね」

 澪はそう言って、手を振りながら図書室を去っていった。

「な、なぁ、澪とはどんな関係——」

「うるさい」

「は、はい……」

 


 





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