第20話 リリー・グレイの生活

「——はーい、玲華様が到着しましたよー!」

「…………お前、そんなキャラじゃないだろ」

「えへっ」


 玄関の扉を開けると、そこにはいつもの玲華が立っていた。

 明るい薄手のパーカーに少々短い気がするスカート。そして左手には鞄。

「蓮人から連絡くれるなんて珍しいね」

「まぁ、ちょっとな」

「なになに、私を家に呼んで……あんなことや、こんなことしようだなんて考えてた?」

 軽く笑みを浮かべ、そんなことを言ってくる玲華。

 だが、蓮人はもう慣れたのか、そんなことに一切反応せず適当に返す。

「バカじゃねぇの。そんな気は一切ありません」

「ははっ、冗談だよー」

「……とりあえずどうぞ」

「はーい」

 蓮人にそう言われ、奇麗に靴を並べるとリビングへと向かった。


 リビングにはソファに座るピジーの姿があった。

 玲華はそれに一瞬戸惑いを見せたが、ピジーが対面のソファに指をさしたので、玲華はそこに座った。

「単刀直入に聞くけど、リリーの家って知ってる?」

「ええと……うん、一応どこにあるかは知ってるよ」

「ああ、良かった……」

「ね、ねえ蓮人?」

 ちょうどお茶を持ってきた蓮人に、玲華は耳打ちをしてくる。

「この子、だれ?」

「ああ……ええと、長くなるから簡潔に言うと、妖精」

「よ、妖精!?」

 びっくりして玲華が大きな声をあげると、ピジーが肩を震わせた。

「な、なんで!?」

「えーと……そ、そういうもんだって思っててよ。話すとマジで長くなるから」

「あ、あぁ……うーん、せめてなんでここにいるかだけでも」

「ごめん。それも長くなる」

「…………」

 

「それなら、私が話しましょうか?」


「えっ、この子も妖精?」

「はいそうです」

 どこからやってきたのか、気が付くとフェアリーもリビングいた。

「蓮人さんとピジーは、リリーさんの安全を確かめに行ってください。私は、玲華さんに、なぜ私たちがここにいるのかを話しておきますので」

「そ、そうか。ならよろしく。じゃあ、まずはどこにリリーがいるか教えてくれ」

「う、うん」



「ここで合ってるよな……」

 玲華の教えられた道を行くと、アパートが立ち並ぶ住宅街が見えてきた。

 そこで少し階の高いアパートにリリーが住んでいると言っていた。

「……こんにちはー」

 階段を上り、奥から3番目のインターホンを鳴らしてみる。

「……無音ね」

「もしかして出かけてるとか?」

 もう一度インターホンを鳴らしてみる。

「……ダメか」

 何も物音はしない。これは完全に出かけているんだろうなと思い、諦めて帰ろうとすると。

「あ、ちょっと待って」

 ガチャリ、とドアが開いた。

「鍵、かかってないんだけど」

「えっ?」

「鍵かけずに外出はあり得ないよね」

「そうだけど……というか、外出中じゃなくても鍵はかけるだろ」

「……はいはい」

「あ、ちょっと……!」

 ピジーはなんのためらいもなく、薄暗い部屋の中へと入っていく。

 慌てて蓮人もリリー宅にお邪魔することに。


 薄暗くて間取りはあまり分からないが、それなりに広い家だということは分かった。

 果たしてリリーはどこにいるのだろう。

「あ、なんか聞こえる」

「…………?」

 ある部屋の扉を前にして、ピジーが立ち止まった。

 蓮人は壁に耳を近づけてみる。


「んぅぅ……」


「……もしかして、まだ寝てる?」

「いや、10時まで寝てたあんたが言えるセリフじゃないでしょ」

「…………」

 どうやらリリーは寝ていたらしい。という事は、ここがリリーの寝室らしい。

「えーと……とうする?」

 横で同じく耳を立てているピジーに蓮人が訊く。

「はぁ……こうなったら起こすしかないようね」

「えっ、いや、無理に起こさなくても……」

「このままリリーが起きるまで、外で待ってるって言うの?」

「そ、それもアリなのでは……?」

「…………」

 寝ている人を無理に起こす必要はない。

 だが、ピジーはそうではなく、今にでも叩き起こしたいという雰囲気が出ている。

「……なんで、そこまでして起こしたいの?」

「だって……リリーがブロッサムになったんだから、大丈夫なのかなって心配で……」

「ああ……」

 確かにそれは、蓮人も心配である。

 だけど、やっぱり寝ている人を無理に起こしてもいいことなんか一つもない。

「………分かったよ。リリーが起きるまで待とう」

 そのことがピジーにも伝わったのか、しぶしぶではあるが首を縦に振った。





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