第12話 魔法少女

「——手短に話しますと、今私たちの世界である妖精界が、<ベスティア>という怪物に襲われているんです。それで何とか私たちの世界を救ってくれないかと思い、ここ人間界に来たわけです」

「へー!あなたたち、本物の妖精?」

「えっ、まあ、そうですけど……」

「すごい、妖精さんってこんな可愛いんだー!」

「あ、ちょっ……あんまり触らないでください!くすぐったいですからっ!」

「おいおい……」

 

 ジャージ姿へと変わったリリーは、目の前にいる妖精フェアリーの隣に座ると、髪や顔など物珍しそうに触る。

 触られて少し嫌がるフェアリー。触って楽しんでいるリリー。それを見て苦笑いをする蓮人……。

「……いい加減にして!」

 そんな光景をフェアリーの隣で見ていたピジーがしびれを切らし、バン!っとテーブルを叩いた。

「「ご、ごめんなさい……」」

 大きな音にびっくりし、二人とも少し顔を引きつらせて小さく返した。

「……それで、今の妖精界は大変なの。分かった?」

「あ、う、うん。ある程度は分かったよ」

「……なら、良いけど」

「はぁ……とにかく、なんやかんやで俺の家で寝泊まりしてもらってたんだ」

「なるほどねー。私てっきり、彼女さんがいるのかと思っちゃった」

「違います」

 あははと笑うリリーに対し、蓮人は真顔でそう返した。

「あ、ちょっと待ってください。……これは、もしかして」

 フェアリーは何を思ったのか、突然リリーの右手を掴む。

「あ、えっ?」

「まさか……」

 フェアリーはゆっくりと顔を上げると、リリーの顔を凝視した。


「……魔法少女」


 リリーの右手を掴みながら、ポツリと——その言葉を発する。

「は?嘘でしょ。そんな簡単に見つかるわけ——」

「いいから触ってみてよ!」

「……………た、たしかに」

 次いでピジーも、リリーの右手を触る。

「えっと……どうしたの?」

 もちろん、当の本人は何をされているのかさっぱりである。

「あ、あなたは……魔法少女です」

「ま、魔法少女?」

「そう。私たちが求めていた人材。リリーなら、<ベスティア>さえも倒せる」

「あなたは、魔力に対して適性が高い……これ以上ない存在です!」

「な、何のことか分かんないけど……そんなにすごいんだ?」

「はい!」

 目をキラキラと輝かせているフェアリー。何のことかさっぱりなリリー。

「とにかく、適性が高いってことは分かったから、アレ出しなよ」

「ああ、そうだったね」

 そしてフェアリーとピジーは、朝蓮人が見た「花の結晶」と言われる、見た目は完全に石ころのようなものを机の上に広げた。

「あれ、なんか色がある気が……?」

「そうです。朝、蓮人さんに見せたのは魔力を持たない結晶でした。だけど、日光に当てることによって——魔力を持つようになったんです」

 蓮人が見た花の結晶は、全てが色を持たない「真っ黒」のものだった。しかし、今机の上に広げられている花の結晶は、赤や青などといった、何とも奇麗な色をしているのが分かる。

「日光?」

「そう。まさかとは思ったけど、人間界の太陽で、魔力が生成できるなんてね」

「なるほど……」

 日光と魔力には何らかの関係がある、と言えるらしい。

「まあ、そういうわけで、何とか魔力を回復することができました。それではリリーさん。これを」

「えっ、ああ……」

 少し戸惑いながらも、リリーはフェアリー、ピジーから数個の花の結晶を受け取った。

「まだベスティアは人間界に来ていないと思うので、魔法少女——すなわち、ブロッサムとして戦うのはまだ先です」

「…………あの黒い物は、違うのか?」


 学校案内中に一瞬だけ見えた、黒い獣のようなもの。アレは、<ベスティア>なのかは分からない。

 もしそうだとしたら―—。



 

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