第8話 転校生

「リリー・グレイです」


 黒板の前に立った転校生は、自分の名前を発した。その瞬間、ざわついていた園江そのえ高校一年二組の教室が、シンと静まり返った。

 全員が全員、同じ顔をして口を閉じたわけではない。

 もっとも多いのが、転校生の容姿である。彼女の容姿は、金髪碧眼という、高校生にはほとんど見られない髪色をしていたからである。

「先生から少し紹介すると、リリーさんは元々イギリスに住んでいて、お母さんの事情で日本にやってきたみたいです。あ、日本語はほとんど喋れるらしいので、みなさん仲良くしてくださいねー」

「はい。よろしくお願いします」

 リリーはそう言って、ペコリと律儀にお辞儀をした。

「それじゃあ……蓮人くんの隣に座ってもらおうかな」

「あ、はい」

 先生の指示により、リリーは蓮人の左隣に座ることになった。ちょうどそこの席が空いていたためである。

 ゆっくりと蓮人のところに迫ってくる。

 そして席に着くと、ほのかにミルクのような香りが、蓮人の鼻をくすぐった。

「えっと、連絡事項としては……今日は移動教室が多いので、遅れないように行動してね。それくらいかな……はい、じゃあ終わりましょう」



「蓮人くん、って言ったっけ?」

「あ、ああ、うん」

「よろしく。私のことは、リリーって呼んで」

「わ、分かった。俺は、日暮蓮人。こちらこそ、よろしく」

「うん」

 ホームルーム終了後、蓮人は隣に来た転校生、リリー・グレイと軽く挨拶を交わした。

 遠くて分かりづらかったが、こうして見るとかなりの美少女であることが確認できた。

 ふわふわの髪は少し薄い金色。柔らかそうな唇はほのかに桜色。まるでフランス人形のように奇麗な少女だった。

「ねぇ、蓮人くんが良かったら、いろいろ教えて欲しいな」

「い、いろいろ?」

「うん。例えばこの学校の事とか、勉強の事とか」

「ああ……勉強に関しては、俺の幼馴染から聞いた方が分かると思うけど……」

 成績優秀な人といえば、蓮人の幼馴染である立花玲華だった。

 勉強に関しては、玲華から聞いた方が身のためになるだろう。

「とりあえず、分かんないことがあったら聞いてよ。できる限りのことは教えるから」

 女の子から頼られることが嬉しかったのか、少し男前のようなところを見せる蓮人。

「えへへ、ありがと」

 リリーはそういう蓮人に対して、笑顔で答えた。





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