第2話

修正というより書き直しなんだが。

これ100話分やらなきゃいけないってマジ?


ではどーぞ...

―――――――――――――――――




父、エイトール・スペンサーは、剣の名家であるスペンサー侯爵家の先代当主とメイドの不義によって出来た子だった。


スペンサー家は、皆父や俺と同じように剣に全てを捧げていると言っても過言ではないのだ。だから、子を成す時は必ず母体として優秀な女性を選ぶ。

より体力を持つ女性、より器用な女性、より胆力のある女性。ともかく、剣を振るう上で重要な用をを持ち合わせる女性にのみ、スペンサー家は種を残す。


だが、その時は違った。


血迷ったのか何なのかは分からないが、当時のスペンサー家の当主――俺からすれば祖父に当たる――は、只のメイドに手を出した。

色に迷うような人となりではなく、愚直ともいえる程剣に誠実だった男が、である。


だからだろう、皆そんな男が自らメイドに手を出したとは考えなかった。


いや、考えたくなかった、と言うのが正しいだろう。

エイトール家の当主は常に剣聖を務めており、つまり国家の最高戦力の一角なのだ。そんな人間が色気に迷ったなど国民は認めたくはなかった。


そうして、非難の矛先はそのメイドへと行った。

剣聖を惑わせた魔女、と。身も蓋もない話だ。

今のライトに事実を確認する術は持たないし、そもそも彼女は既に故人だ。今更死んだ祖母の事など知ろうとも思えなかったので、何も断定出来るような情報などないのだが、それでも祖母が――父を育てた人間が魔女のような人物であったはずがない。


ともかく、剣聖の母は魔女として非難され、その息子である俺の父親にもまた世間の目は厳しかった。


しかし、それでも父が正式な嫡子を押しのけてスペンサー家の当主となれたのは、ひとえにその剣の才能ゆえだろう。厳しい生まれから、実力だけで成り上がった父に対する民からの信頼は厚い。


そしてそれは、その息子である俺に対する期待の大きさの原因でもある。俺が、劣等感を抱く羽目になったのはコイツのせいなのだ。


と、思案の海に沈んでいた所に、父親の声が聞こえて来る。


「鍛錬か」


何となく、何も答えたくない気分だった。

今の自分が不機嫌な事くらいは自覚しているが、しかし、父親を持ているとどうしても劣等感と憧れが反転した自己嫌悪は消えない。


「ハア…無視したら何も始まらんだろう。何か言ったらどうなんだ。」


なおも無視を続ける俺に対し、父は呆れたように再び口を開く。


「まあいい。それより、今日もウィリアムに負けたそうじゃないか。」

「...ッ!」


「安心しろ」


そう言って父が一度言葉を切る。

そして、再び口を開いたとき出てきた言葉は―――


「俺はお前に、それほど期待していない」


そう言うなり、父は屋敷のほうへと去って行った。


「は?」




...ふざけるな、ふざけるなよ。

俺がどれほど努力してきたと思っている?あんたの背中だけを追い続け、必死に、必死に研鑽し続けたんだ。

それを“期待していない”だと?俺を馬鹿にするのもいい加減にしろ...!


しかし、そう言葉に出してぶつける相手は、もうそこにいなかった。


「チッ...クソが」


苛立ちをぶつけるように頭を掻き、舌打ちをする。

もう寝よう。自棄になって自分を追い込んでする訓練は身にならないし、今日は散々剣を振ったんだ。そう結論付けた俺は、しかし消える事のない苛立ちを抱えながら自室へと足を向けたのだった。









翌朝。

いつもより早く寝たのと、空腹のせいでいつもより早く起きてしまった俺は鍛錬の準備を始めていた。だが、その動きもどこか緩慢で元気がない。

それも仕方ないことだ、とライトは溜息を付く。

何せ、ずっと憧れていた人物に「期待していない」などと言われたのだ。


しかし、だからと言って鍛錬をサボるつもりはない。

最早剣を振るのが習慣と化して数年。やらないという選択肢自体が自分の頭から抜け落ちる程剣に努力を捧げて来たのだ。


「...よし、やるか」


朝の鍛錬でするのは、素振りと走り込みだ。

こんな朝っぱらから人を鍛錬に付き合わせる訳にはいかないからな。この時間は一人で出来る事をやっていくしかない。

走り込みの方は結構好きだ。最初は面倒くさがっていたが、朝の澄んだ空気の中、静かな町を走ると心が切り替えられる。今では欠かせない習慣だった。


...けど、素振りは嫌いだ。その遅さが、キレのなさが嫌いだ。

これでは、魔術を斬る事すら出来ないから。


この世界には魔術という物がある。

何もないところに火や水を出現させたり、岩や木の杭を飛ばしたり...ともかく、神の奇跡の様な技だ。無論それは戦場でも使われるもので、これに対抗できる何らかの手段を持たなければ使い物にならない。


つまり、今の俺では何の戦力にもならないのだ。

魔術のリーチを活かして一方的に攻撃されると、ヘタすれば近づけもしない。


しかしそれは、スキルさえあれば話は変わってくるのだ。


―――この世界には特別な力がある。

魔術もなかなか理解が及ばない事もあるが、あれは一応理論的に説明可能なものだ。しかし、その力はそうではない。

圧倒的な魔力だったり、身体能力だったり、物を生み出す力だったり。突然使えるようになるその特別な力は、魔術でも、人間が生み出した技術でもない。突然使えるようになって、その使い方も不思議と分かる物だと言う。


――そしてそれは、“スキル”と呼ばれている。


スキルが発現するのは、人口のおよそ1%にも満たないとされている。存在自体が希少だし、その特性にも法則がない。だから“特別な力”なのだ。


実際、父親やウィリアムはスキルを持っている。父親のスキルは剣を使った戦闘時、その身体能力が強化されるというシンプルなもの。そして、父親はその強化された剣の圧倒的な速さで、魔術すらも切り捨てる事が出来る。

無論、ウィリアムも。昨日俺が押し負けたのはそれが原因だ。

だから俺とは違い、スキルを持つ彼らは戦闘に役に立つ。いくら剣術の腕が良かろうとも、今の戦場ではそれだけでは通用しないのだから。


今年で俺は16歳になる。

父さんが初めて魔法を使ったのは、同じく16歳。だから俺は、それまでに証を得て、周りを見返してやりたい。



証は鍛錬によって身に付くものではないらしい。

が、だからと言って鍛錬をしない訳にはいかない。

努力は必ず報われることを信じて、俺は鍛錬を続けるのだった。







学園に着くと、何故か教室が騒がしかった。

何だ何だ、と周りを観察してみると、全員の視線が一か所に集まっている。

俺もそちらへと視線を向けてみる。


「...何だ、アイツ?」


――そこには、の少年が居た。

自信と誇りを持ち合わせてそうな、俺の嫌いなタイプの人間だった。


「あれ誰?」


その顔を見ているとやけに胸騒ぎがしたので、近くに居た同級生にそう声を掛ける。俺が人に話し掛ける事がないからか、ソイツは少し驚いたような表情をしていた。


「...っ、あぁ、転校生...?かな?よく分からん」


「...ふーん」


何だ、お前も知らないのかよ、と少し失望した。

いや、コイツも俺と大して状況は変わらないのだろう。そんなやつに情報を求めるのも理不尽な話かと心の中で呟いた。


にしても、得体の知れない奴だ。


話し掛けた同級生から目を逸らし、その黒髪黒目に再び目を向ける。そして、それは自然と相手の手に移った。


それを見て一人納得する。あぁ、先程からする胸騒ぎはこれが原因か、と。

ソイツの手には、剣ダコがあったのだ。

とは言え剣だけがそいつの武器ではないのだろう。筋肉の付き方や、タコの出来方から見るに、本職は剣士ではないのだと察する事が出来る。

しかし、だからこそ不自然だと思った。剣と魔術の両方を扱うなど非効率極まりない。剣を実戦レベルで扱えるならそれを極めれ良いし、そうでないなら魔術士としてやっていけばいいのだから。

前線が突破されて白兵戦になってしまった時の為に剣を使えるようにした、というには不自然なレベルで、ソイツの手には剣を振ってきた証があった。




「...ッ!?」



目が合った。

そいつは何故か驚愕したような表情を浮かべる。そして、その表情のまま立ち上がって歩き出した。


「君、前に会ったことある?」


何処か呆然とした表情のままそう告げるそいつに、俺もまた困惑していた。

俺はこんな特徴的な奴など見た事もないのだから。


「いや、ないと思うけど」


俺がそう言うと、そいつは失望したような顔をした。

だがやがて先程の様な自信に満ち溢れたような雰囲気を取り戻し、再び口を開く。



「じゃあ俺と戦ってくれない?」


「...はぁ?」








その日の午後、総合戦闘技能の授業で、俺はそいつと対峙することになる。


何でも、転校生と馬鹿にされたくないから実力を示しておきたいらしい。


...舐めるなよ。これでも剣にてを捧げてきたんだ。実力試し如きで俺を倒せると思わないことだ!





――――――――――――――――――

それフラグぅ!!

ではまた


※2023年9月25日 修正

※2024年1月25日 再び修正

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