第3話『全裸ですが異世界バトル』

 荒くれ者たちが村を襲撃する三時間前───


 水辺、地面に押しつけられ首元にはナイフが添えられる。

 タオルで水気を取る間もなく濡れた全身、肌を伝う水滴は地面を染めていく。ミッチは今、丸裸であった。

「ホントに災難だな」

 ミッチはただ待った。二人っきりだと確信できる状況を。

 周りにヤツ以外の存在がしん、と消えるその時を。



「イ゛ダッ!!!」

 欠かさずミッチは脚をジタバタさせてセッコの鳩尾を偶然にも捉え深く蹴り入れた。これには思わず姿勢を崩しこれもまた偶然に湿った地面に足を取られ尻もちを。見逃さずミッチは距離を離す。


「っぐぁ……んの糞ガキがぁああ!!手を噛みやがったな!!イッテェエエ!!」

「すぅぅ、いますぐ走って皆に伝えてっっ!!!!」


 心臓が熱く呼応する。

 耳から脳へと。彼の声は酷く怯える少年の震える脚を動かしては!!恐怖から陰への執着する背中を押しては!!妖精エルフの少年は森のなか駆けてゆく。


「───もう一人、居たのか」

「はぁはぁ……これでもう終わりだ。死んでも追わせない!」


「まぁお前を殺してから追うよ」

 その冷たさは肺を直で握られたかのような息苦しさと吐き気、肉体を離れる思考状態をもたらした。圧倒的な実力差はただ発せられた殺気に全開の生存本能で応える。

 自然と構える。以前触れた今際の際でとった行動にうつるため。

 逃げ


 脳が巡る21年間。思考が書き出す家族、友人、ペット、知り合い、アパートの隣人……への遺す言葉。次々と写し出される走馬灯の中、不思議と直近異世界でのカナの言葉を思い出した。


 "目的を果たすまで死ねるかっ"


 異世界を目指した目的。当分遠い目標、夢に近いのかもしれない。だからカナの言葉の深意が分からなかった

 ただ今は理解出来る、気がする


 今は、今はただ……シェヴィくんを村の皆さんの平穏を守りたい。危機を知っているのが僕たち二人だけなのかもしれない。シェヴィくんが間に合わないかもしれない

 死ぬときは後悔なんてしたくない


 引いた腰を丸め拳を握り締め前に。

 逃走するための構えをファイティングポーズに。

 闘争心を滾らせてミッチは目的を切り替えた。こいつだけは止めてみせる、と。

「へぇやるんだ」


 喉を震わせ声を荒げる。自信を漲らせ相手を怯ませる、そんな獣の常套手段。声を上げては素人臭い右の拳を振りかざし向かっていく。

 ぶおんっ!軽々しく躱され大振りは空を切る。勢いあまりミッチは盛大にずっこけてしまう。

「ってぇ……まだだ」

 ピリッ、痺れに振り向きざま息を漏らす。確かに感じる腹部の温かさにそっと視線を移した。

 一本線。その切れ目からプツプツと血が溢れ出る。どうやら躱されたあの瞬間、セッコの持つナイフで斬られていたようだ。

「あ」

「安心しろよ薄皮一枚だ。すぐには死なない、殺さない。後悔させてやるよ」


 ミッチはただ判断を誤った。



「はぁはぁはぁ」

 一心不乱に雑木林を走り抜ける。

 時には木の根に足を取られ転んでも気づかず枝で額を切り剥いても、シェヴィは走る。

 走って走って走って………森を抜けたそこでは荒くれ者たちと鉢合わせてしまった。

「え」


「うおっ!?ビックリしたぁ」

「───ってこのガキ、エルフだぞ!!」

「んだよそれ!さっきからさぁ」


 迫る影、伸びる手を掻い潜り再び森へと飛び込んだ。

「待てゴラァア!!!」

 響く怒号に恐怖を覚えながら涙を浮かべ駆けてゆく。命懸けの鬼ごっこ。ひとりの少年を複数人の武装した大男たちが後を追う。

 呼吸が痛々しい、鼓動で頭が破裂しそう。履いた皮のブーツのつま先には血が滲む。地面を踏む度につん、と刺す痛み。爪が剥がれ足を傷つける。


 心休まらない。広範囲へと発せられる怒号は雑木林を反響しシェヴィのすぐそばでの事と勘違いさせるほど。立ち止まれない。見つかれば捕まれば、どうなるなんて想像に容易い。

 走った。息が切れようとも膝が赤黒く腫れ引っ掻けた腕の傷から生々しい血肉が見えようとも、ひたすらに走った。

 そして気づいた。声が聞こえなくなったことに。


「はぁはぁはぁ」

 まずい。まさか追うことを諦めた?

「………ゲボッ!ェエ!!ゲホッゲホッ……けほっ」

 ぎりぎりで持ちこたえていた膝はついに崩れ受け身も取れず前屈みに倒れてしまう。ぐるぐると稼働する脳みそに堪えきれず嘔吐。途端に悪寒が全身を駆け巡る。

 慟哭。吐いたことでシェヴィの抱えていたせきが切れた。


 一通り吐き出し後で少年はそっと立ち上がる。

「いかなきゃ」

 シェヴィを動かすのは異様な使命感。ふらふらと一歩、また一歩と歩みを進める。

 痛みはずっとひどい。しかし心なしか身体が軽い。引き摺る足を無理に上げては地面を深く踏みつけ加速する。


 目指す目的地は同じゆえ二度目の遭遇。

 ボロボロで今にも壊れてしまいそうな妖精エルフの少年。そんな容姿を見せては荒くれ者たちの自尊心を刺激した。一度、見逃したという地雷を確かに踏み抜いたのだ。

 陽が次第に傾いていく。



「立てよ。立てるだろ?脚は斬り裂いていないからな」

「う、ぐ………!」

 地肌に数々の裂傷。痛みからうずくまる。あれから時間が経ち弄ばれ開いた傷口から溢れた血が凝血しては流血しを繰り返す。貧血からまともに視点すら定まらない。


 手のひらでナイフを転がしては遠くの夕陽を眺めて深くため息。

「遊びすぎた。はぁ絶対叱られる………あの子供も結局追えずじまいだ」

「…………っ」

「もう糞も捻り出せないか?じゃあそろそろ終わりにしよう。腹をかっ捌く」


 ゆっくりと距離を詰める。

 だらりと伸ばした手には幾度もミッチを裂いたナイフ。返り血を浴びた腕から柄、刃へと伝い点点と血痕を残していく。

「ひとつ、お前医者だろ?立ち居振る舞いが似通っている。ふたつ、お前が逃がしたあの子供は俺の仲間と接触したぞ」

「!!?」

「死人に口なしってな。俺の扱う魔力は感知型、範囲内の生物をまるで地図マップに印されているかのように感知することが可能だ。もちろん制限があるがそこは薬である程度ハズしている。やけに落ち着いてんのはそれ理由」

 ミッチは深く動揺した。もちろんシェヴィのこともあるがそれ以上に『医者』という単語、隠していたつもりは毛ほどもないが唐突に問われ思いもよらず息を漏らす。

「まぁお前の出自なんてどうでもいいが」


「…………そうだよな。どうでもいいよな」

 突然の返答。セッコは顔をしかめ歩みを止める。

 さっきまで痛みでうずくまっていた男は震える膝を抑えては腰を落として立ち上がった。そしてセッコに生尻を向けてはひとつ、叩き───

「かかってこい!!」


「何々、知らない琴線にでも触れた?でもやるってんなら一太刀付き合う……あ?」

 尻を叩き一喝、してはミッチは自身で身体を抱えながら森へと飛び込む。

「ステージチェンジね。死に場所は選ばせてやるよ」


「おいおい、医者なんだろぉ!失血で死ぬぜ?」

「げほっ……専攻だコノヤロウ。医師家系で小さい頃から触れてきただけだ」

「質問の意図がすれ違っているぜ。いよいよ限界か」


「あの湖からまた遠くまで来たもんだ。おっ抜け道か?洞窟入っていくんだな」

「はぁはぁ」

「いいねぇ。逃げ道はこのルートを通るか、って俺をこの洞窟の先、バケモノとぶつけるつもりだったか?残念」

 肩に掛けた黒いマントに隠した小刀を軽く投げてはミッチの太ももに突き刺さる。「ぎゃあっ!!」暗く冷えた洞窟内を反響、そのまま転び岩で身体を傷つける。


感知て分かるよ。恐ろしく強い。問答無用で即死レベルか」

「ぐぅ……ぐあっ」

「自暴自棄?暗くなれば逃げられると思っていたよなっ。俺の力の詳細、聞かなければ生きられると本気で思っていたよなぁ!ざぁんねぇんでぇしたぁあ!!あはははは!!」


 狭い洞窟の中、振りかざしたナイフが岩を削ってはその火花で二人を照らす。

 そして三つの時間が交わってゆく。


「無理に矢を引き抜くな!出血がより酷くなる」

「それ以前にひどい傷。早く手当てをしないと!!」

 ボウガンで射貫かれたシェヴィの元に村人たちが集まる。布を当て強く圧迫、子供が血を流し倒れている状況に村人たちはその元凶を鋭く睨む。


「あっ無視?とりま知ってそうな偉い奴探すか」

「ここにいるので全員か?あの奥のでかい家でも漁るか」


「その前にあのガキを殺させろ……!!」

「ロード落ち着け、んな事したらより畏縮するだろ。時間はねぇんだよ」

 仲間のひとりがなだめても額は赤黒く染まり血管を浮かべる。今にも蛮行を起こしかねないその様子を見かねてか村人のひとりが荒くれ者たちの前に立ち非難の声を上げた。

「子供を傷つけて!こんなことをして……間違っで」


 ───ゴロ…リ……

 凶刃がその男の首を捉えては一太刀。血飛沫を撒き散らしながらボールみたく生首が跳ね転がる。頭を失った肉体は姿勢を崩しまるで立てられた布のように無造作に倒れた。

 数秒遅れて悲鳴が上がる。次第に恐怖は伝播し集団で軽いパニック状態。それを鎮めたのは倒れた遺体に突き立てたブロードソード、そして荒くれ者たちのリーダーらしき大男のひと言だった。


「仲間が失礼した。安心してくれ、もう無作為には殺さない。もちろん『賢者の石』の在りかを教えてくれれば、な」

「………こちらも考えが甘かった。ひどく後悔しているよ」

「誰?」

「この村の長を任されている者だ」


「あんなに簡単に……。本当に何もしないのか!?」

「村長から隠れていてくれ。と言われただろ?俺たちの出る幕はない。余計ややこしくなる」

 ケイゴとフータローは村長宅で背を低くし窓から外の様子を注視する。


「へぇ村長さんね。じゃあ教えてくれるの?」

「ああ、わたししか知らない。………そしてこちらの要求を飲んでもらいたい」

 毅然とした態度で凛と佇むその姿勢に多少面をくらいながらもリーダーは手を村長へと向け話の続きを求めた。

「わたしだけを残し他の村人は皆解放してほしい」


 再び緊迫した空気で場が張り詰める。無言が続き松明で揺れる影だけがこの瞬間が静止していないことを告げる。

「構わないかな」

 まるで無限にも感じたこの時間もリーダーひとりの発言で終わりが見えたかのように

「内容は虐殺でないしな。無駄に互いを削り合う必要はない」

「夜もふけていく。早めにケリつけようぜ」


「だな……他の奴らは勝手に失せろ。だがそこのガキは置いていけ」

「!!!!」


 心臓が強く反応。欠かさず村長は荒くれ者たちへと反論する。

「話が違う!!」

「だよな。おいロード執着するのはもういいだろ?放っておいても勝手に死ぬぜアレ」

「いや、俺がしっかりと頚をはねてやる。でないとこの腹の虫は治まらねぇ」

「………はぁ。こいつの性格上、梃子でも動かん。時間は有限だって言ってんのによ」

「とのことだ村長。悪いがその要求は飲めなかった。かわりにあんたとそこで倒れてるガキを残せば他は解放してやるよ」


「そ、そんなことは」

「おい言葉は選べ?二択だ」

 声が詰まる。顔が小刻みに痙攣し喉を絞められているかのような息苦しさ、今にも崩れてしまいそうな足場の感覚。意識も絶え絶えの中、導きだした選択は───


「無理だ」

「はいはいはーい!じゃあこの取り引きはなかったことに、話は振り出しだ。元に戻そう……ではどこにある?」

 今までの時間がまるで無意味だったかのように嘲り小気味良く手を叩く。その拍手が嫌に脳を刺激して。「すまない」そう言い残し村長は戦意喪失、身体だけでなく精神すらもカゴの中へと囚われてしまった。


 ギィィィィィ……ギィィィィィ……

 風で無理に開閉し蝶番が軋む扉の音。ただそのような吹きすさぶ風を感じない。

 ギィィィィィ……ギィィィィィ……

「?」

 音の元に視線を向ける。囲われた柵の中に彼らにとって見たこともない生き物が不気味な声で鳴いている。それゆえか建物の影から駆け迫る存在を意識外の攻撃を回避することはできなかった。

「うぇりゃああああ!!!!」

 振り抜かれたチタンの棒はリーダーの頸椎をしかと捉え、喰らった首はあらぬ角度へ曲がりよたよたと千鳥足に混濁し膝をつく。完全に村人たち、謎の生物(カシマ様)へと意識を割いては周りの異変は思考の外側、荒くれ者たちは状況整理に固まってしまう。

「今の内!!逃げるよ!!」

「逃がさねぇよ」

 そばで聴こえた馴染みのない声に一瞬で反応しては手に持つ棒を振る、おうとしたがぴくりとも動かせない。

「容赦ないな。おかげで仕込んでいた防衛術が無駄になった、で誰?」

「は、離せ!離せ!!」

「気の強い女だ。人間……あの湖にいたガキの連れか?」

 わずかな詳細でも連想してしまう。安否を想う間もなく握られた棒は簡単にひしゃげおもむろに引き寄せられては距離を詰め余った腕を身体へと伸ばし抱き締められる寸前、

 ───ガンッ

「うっ」

 遠くから投げられ弧を描いた鉄鍋が頭へ直撃、思わず視線を揺らし気づけば次々とリーダーを的として投擲。その中で青年のひとりは槍や弓矢、武器になり得そうな物を抱えては中央に集められた村人たちへと近づき荷下ろした。


「カナ今だ!そいつから離れろ!!」

 となりのカゴ一杯の硬めな小物をせっせと投げ続ける。

 カナは手に持った棒を手放しては距離を取った。所有者は変わり軽くなった棒をリーダーは構えては投手めがけて放り投げるが軌道は外れ投手横、カゴを破壊する。

「うわぁあ!?」


「チィッ!外した。ったく、ぞろぞろと」

「こういう時のセッコだろ?アイツいつまで遊んでやがる!!」


「っぶねぇ~私死んでたじゃんね!?」

「勝手に突っ走るなよカナ!!何事もなかったから良かったもんで」

「なんで私叱られてんの!?全部あいつらのせい!!」


「そんなことよりあいつら、ミッチを!!」

 カナは指摘に向けた指を急いで胸元へと引き戻した。まるで触れてはいけない何かに触ってしまったかのように。距離は十分、相手に動きはない。だがその周りの空気に肌が触れ、ただ指した手指が触れ一瞬にして防衛反応。爪先から悪寒が全身に。

 フータローは村人、大人たちに武器を配り終え逃走を促したが村人たちの異変に気がついた、時にはもう井の中の蛙。同様に屈んだ体勢のまま子ウサギのように身がすくんでしまう。


 放たれた凶兆オーラは考えうる最悪を含み仲間すら触れるのを躊躇するほどの殺気に満ち溢れていた。沙汰を握られている、指を動かせば腕を足を震わせれば脚を、息をすれば喉を。村人たちはおろか三人すらも微動だにリーダーの一挙手一投足を見逃せない。

 気がつけば滝のような汗、目に見えて衣類や髪が水気を帯びる。水分を放出しきった肌は乾きひび割れる。

 荒くれ者たちも同様に熱から苛立ち、今にも行為に及びかねない衝動にかられる。そう、他の誰でもない。先に異変に気づいたのは汗を拭い確かめるリーダー。周囲を充たす異常な熱気、熱さ、暑い、アツい?

「………してやられた。ガキ共め!時間稼ぎを……手先だったのか!?」


 与えられた恩寵は『太陽』───。

 身体から発する魔力は日のように熱を放ち、世界を焼き尽くすほどのエネルギーを有していた。生まれながらのその能力は彼女自身を苦しめ孤立、孤独すらも与えてしまった。

 そこで出逢ったのが剣の道。傷つけるのではなく護るための力の行使に彼女は救われ今、こうして見参する。


 彼女の名はクレナ=バーディネリ。この領土全体の責任者であり石の本来の所有者。領主。

 彼女はまた、別の異名で畏れられていた。【紅髪の戦乙女】と。握る翼竜を模したロングソードを片手にその長髪をたなびかせる。

 姿を現した彼女に続き数人の配下。連なる部下たちもこれといって体躯の良い者たちではない、がしかし圧倒的な存在感。すっかり荒くれ者たちは威勢を失い先ほどまでのいざこざなど忘れ自身の防衛に意識を集中させる。

「すまなかった。もっと速く駆けつけるべきだった」

 そっと奥に転がる亡骸に視線を移しては胸に手を当て深々と頭を下げる。

「カイゼル、あなたが造るブローチは本当に素晴らしい。配下の家族たちにも好評、惜しい人を亡くした。シェヴィ耐えるのよ、いま終わらせるから」

 配下の眼前、頭を下げるクレナへと斬りかかる荒くれのひとり。ただ誰も動こうとしない。振り下ろされた刃は寸分狂いなくクレナを襲った、かのように見えた。

「うぎゃあぁぁああっっ!!??」

「バカが!真正面から敵うわけないだろう!?」


「悪さをしたのはこの腕ね、脚も悪い子かな?……一言一句、吐いてもらうわ」

「この糞女がぁぁああ!!!」

「また考えなしにィ!!」

 血気盛んに迫る大男たち、軽く剣で受けては膝を蹴り弾き倒れる隙に肘を入れる。ひとり。

 大振りの斧の一撃を切っ先で止め怯む男の腹に一撃、彼女よりも大きな図体は簡単に浮き上がり間髪入れず追撃する剣は腕を切り落とす。ふたり。

 二人がかりで襲おうとも華麗に舞われては捕捉すらできずに片足を切断、体勢を維持できず崩れる。さん。よん。

「あなたは来ないの?」

「舐めるなよ姫騎士さんよぉ。このための奥の手だ!!」

 懐から取り出す小瓶。中には青色の錠剤、それを瓶ごと噛み砕く。身体を纏う魔力の絶対量が跳ね上がる。刺突の構え、剣に魔力を付与しては目にも留まらぬ速度での剣技。


「うぐぐ……あり得ない!?ハズして得た加速力からなる攻撃だぞ!!」

 なぜ防がれる?なぜ俺の方が余裕を失う?……しかも平然そうに!!

「誇って良いわ。思わず使用してしまった」

「!!!!」

「そう驚くなよ。質量が違う」

 傍らに寄せる刃。その佇まいは筆舌に尽くし難いほどの美しさ。

 構えるロングソードは熱を纏い虹色に輝く。夜も更け一帯を染めた暗闇は晴れ周囲を曇りなく照らす。


「〈プロミネンス・ショック〉」

「…………!!!!」

 断末魔もなく剣撃に乗り放たれた一撃はリーダーを名乗る男を塵芥と化した。

 いとも容易く行われたクレナの進撃はわずか10分を要して決着。『賢者の石』を狙った妖精エルフの村襲撃事件はひとりの犠牲者を払い事態を収拾、一方洞窟内での出来事は───


「どうして君は裸なんだい?」

「あっえっ?」

 瞬きの対峙。あれほどまでに手も足も出なかった相手に圧倒的なまでの力量差で勝利、騎士のようなその男はミッチに気づいてはしゃがみこんで手を差し伸べる。

 男の名は───

「僕の名前はフレデリック=イナバー。ここで会ったのも何かの縁だ、親しみでフレディと呼んでくれ。それでいて裸の君、どうしてそのような格好でこのような場所に?」

「あ」

「…っと、気絶してしまった。まぁ酷い傷だからな。………クレナの領土でねぇ」


 そのフレディを名乗る騎士はミッチと斬り殺された荒くれ者を抱えては洞窟を通りかつて逃げ込んだ『異世界サークル』とは違い、逆走しては岩山を挟んだ反対の森に出る。そして処理した怪獣の遺骸の横を歩んでは森の奥へと進んでいく。















































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