第14話
「それはそっちだろ! 俺が来るのわかってて待ち伏せやがって!」
「そんなの知るわけないでしょ! 来るのわかってたら来ないわよバカ!」
「てんめぇ……」
ぱんぱん。
飛び散った火花を収めるように耳に響く、けれど穏やかな音が鼓膜に届いた。
それは先輩が手を叩いた音だった。
それをきっかけに少しだけ落ち着いた俺はあえて静川からとんでもなく離れた席に座った。
「君たちは友達みたいだね。すごく仲が良さそうだ」
「なに言ってんすか……」
目狂ってるのか? この人は。
目以前に、少し性格に難ありな感じは今朝話した段階でなんとなく察してたけど……。
俺の嫌そうな態度を気にも留めず続ける。
「いろいろ話す前にまずこちらのことを話さないと始まらない。私はこの名ばかりのコンピューター部の部長の
「
息ぴったりと言った感じで井浦先輩からバトンを受け継いだ好青年が山田先輩というらしい。
髪は最近流行りのセンターパートですごくサラサラそうだ。
顔も爽やかイケメンって感じで、程よく引き締まった体を見るにそこそこ運動もしていそうだなと思った。
もしかしたら拓実と同じくらい身長も高いかもしれない。
そしてその山田先輩が、目を向けたのは小さい少女。この学校の中で見なければ中学生かと思うような見た目な彼女もこちらを見た。
「わ、私は
髪をいじりながら出すあまりにも弱々しい声からきっと喋るのはあまり得意じゃないのだろう。
身長はきっと140くらいで、それ以外も全体的に小さい印象だ。髪はちょうど肩の下くらいまで伸びていて、くるくると巻いている。
そんな小泉さんの頭をくしゃっと山田先輩が撫でた。
「沙耶香は俺の幼なじみなんだけどさ、見ての通りシャイだから仲良くしてやってくれ」
「やっ、やめてくださいっ!」
「なんで敬語になってんだよ」
軽く笑いながら、小泉さんから手を離した山田先輩。小泉さんが顔をほんのり赤らめていることには気づいていないみたいだ。
あぁ……そういうことね。
なんとなくどういう関係か察した俺は小泉さんのためにも話題を変えた。
「それで僕たちが呼ばれたのは部員補充のためですか?」
「そゆこと。とりあえず最低5人必要みたいでさ、とりあえず暇そうな沙耶香を誘って残りの2人は円華に探してもらってたってわけ」
なるほど、それでゲームもそんなにやったことなさそうな小泉さんがいるのか。
「呼ばれた理由はわかりました。でも、なんで急に? 去年もそんな心配をしていたんですか?」
もし、毎年人員不足に追われていれば去年だって勧誘なりをしている様子が見えたはずだ。
でも、コンピューター部がそんな熱心にやっているところを見たことはない。
「いいや、去年までは部員こそ足りなかったがちゃんと活動実績を残していた」
俺の質問に答えたのは井浦先輩だ。
なぜか憎たらしさ全開の顔をしながら続ける。
「以前から存続は怪しかったが、ちゃんとした実績を残していたから部活動としてギリギリ認められていた。あのバカな先輩のおかげでな」
「バカ……?」
俺が聞き返すと、急に声と表情に熱がこもって思い切り机を叩きつけた。
「そうバカなんだよ! 私たち含めて3人しか部員はいなくてそのうちの2人はゲーム部のつもりでここに来ているのに、1人だけコンピューター部の役割を全うしようとしていた」
それってバカなのは2人なのでは……?
俺はそんな気持ちを押し殺して話を聞く。
「そんなバカが卒業したから、うちは実績も部員もいない部活になったってわけだ。それで、とりあえず顧問に部員を集めないと廃部って脅されているわけだ」
「それで必死に探していたと」
「そうだ。どうせなら全員がゲームに興味がある人で固めたかったからな。コンピューターに興味ありそうな奴は追い返した」
マジで頭おかしいぞこの人……。
コンピューター部に興味があって来ても、追い返されるとか部活の存在意義ないだろ。
つまりコンピューター部という場所を守るために、とりあえずゲームが好きそうな人で部員を集めようとしていたということか。
それで、コンピューター室が使えるゲーム部にしようと思ったわけだ。
「でも、ゲームなら家で出来ますよね? ここのコンピューターは制限あるしゲームできるスペックもないと思うんですけど」
いったい先輩たちがどんなゲームをしているのかわからないけれど、モバイルゲームにしたってWi-Fiは家の方が環境がいいだろうしその他の家庭用ゲーム機やパソコンでやるにしても、家の方がいい。
ここまで部活に固執する必要が感じられない。
そんな俺の疑問に、井浦先輩は鼻をふんと鳴らして得意げに答えた。
「ゲームをやっているだけで部活動に入るならこれ以上得することもないだろ? 履歴書に書けるんだぞ」
「……はい」
ダメだ。この人いろいろぶっ飛んでるからまともに理解しようとするのはよくない。
こういう人だというふうに、呑み込まないと。
「さっきから、コンピューター部とかゲーム部とか話してますけど、私は何を言われても入るつもりはありません」
俺がやっと疑問を解消したところで、静川が棘のある声で言った。
「なぜだい? 今朝は結構乗り気だったじゃないか」
「確かにゲーム部には興味ありましたけど、あのストーカーがいるなら話が変わって来ます」
「あんなに仲良さそうになのにかい?」
「気のせいです。私たちはどう頑張っても仲良くなれないです」
「それだけは同意です」
確かに俺もゲーム部なんて言葉に惹かれてここまで足を運んだけれど、結局のところ静川がいるなら入りたいとは思わない。
それにこの人たちも悪い人ではなさそうだけど、ちょっとついていけそうにない雰囲気がある。
具体的には井浦先輩。見た目は綺麗な美人って感じなのに考えがいちいちぶっ飛んでる。
きっとそれを上手い具合に制御しているのが山田先輩なんだろう。
ゲームしているだけで、履歴書に書けるのは魅力的だがここは辞退しておこう。
そう思って席を立った。
「誘っていただいたところ申し訳ないですけど、入部は遠慮しておきます」
そう告げて返事を聞くまでもなく、入って来た扉から出ようとすると「待て」と声をかけられた。
「なんですか?」
「君がやっているゲームはなんだい?」
俺はそう聞かれて素直に答えた。
静川と同じゲームをやっていることにはなるけれど、隠すことでもないし今大人気のゲームだ。不思議ではないだろう。
「やっぱり。では、こうしよう。今から2対2で勝負をして私たちが勝ったら君たちは入部。逆に君たちが勝ったらもう二度と話しかけないと誓おう」
「それ僕たちが乗るメリットなくないですか。それに仲悪い2人と息があってる2人では優劣がついてると思うんですけど」
俺と静川は言うまでもなく、最悪の仲。対して井浦先輩と山田先輩は息があっているし、付き合いも長そうだからその時点でこちらが圧倒的不利だ。
こんな話は乗らないほうが得策、そう思って扉に手をかけた。
「有利不利の問題でもないだろう。君は自信がないのか?」
「…………はい?」
ドアノブにかけていた手はいつの間にか離れていて、体が勝手に振り返っていた。
口元を歪めている井浦先輩はわざとらしくため息をついて続けた。
「だから夜更かししてまでゲームをやって、暇な時間をほとんどゲームに割いているのに私たちに勝てる自信がないのかって聞いてるんだよ」
「いや、勝てますけど」
「じゃあ勝てばいい。文句はないだろう?」
「わかりました。その勝負受けます」
これはプライドの問題だ。
俺はこのゲームに人生を賭けているわけではない。ただ、楽しくやる中でも勝てないと楽しくはないと思うタイプで、そのために強くなろうと頑張って来た。
しーたん……静川とやっている間も楽しみながらもどうやったら撃ち勝てるか、どんな立ち回りがいいかを考えながらやってきた。
その時間をバカにされて黙っていられるわけがない。
相手もそれなりに自信があるようだし、一筋縄では行かないかもしれないけどいつも通りやれば勝てると思う。
こう見えて結構上手いほうなんだ。
「ちょっと!」
俺が準備をしようとカバンを机に置くと、血相を変えた静川が来た。
「なんだよ」
「なんで勝手に受けるのよ! 私はやるなんか言ってない!」
「勝てばいいだけだろ」
「そんな簡単に勝てるかわからないじゃない!」
確かに勝負はやらないとわからない。
けれど、俺だってこいつに証明できることはある。
「でも、知ってるだろ? 一応俺がまぁまぁ強いのは」
俺が言うと、静川は心底不満気そうに頷いた。
「………………まぁ」
認めたくはないが俺と一番あのゲームをやっているのは紛れもなく静川だからな。
「じゃあさっさと終わらせるぞ。勝てばいいだけだからな。これから一緒にならないための協力だ」
こうして、初めて秋元悠雅と静川藍花は協力することになった。
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