俺の大好きなネット彼女は、隣の席の大嫌いなクラスメイトでした。
零
プロローグ
『うわぁ♡ やっぱりゆーくん強いね♡』
「そんなことないよ。今のもしーたんが当ててたから倒せたんだし」
液晶画面の向こう、敵を倒した俺はイヤホンから聞こえてくる甘い声を聞きながら敵の物資を漁っている。
『強いゆーくん好きだよ』
「うるさい」
『あ! 今照れたでしょ!』
「うるさい!」
こんなやりとりをほぼ毎日やっているのが俺たちの日常だ。
イヤホン越しに聞こえる彼女の声は、甘くて綺麗でいつまでも聞いていたくなるような声。
ちょっとあざといな、なんて思う時もあるけど他の人も入れてやる時はこんな一面を出さないからきっとこれは俺だけが知っているしーたんだ。
そう思うだけで幸せだし、そんなことで幸せになれる自分も頭がお花畑だなと思う。
けど、このくらいで幸せなくらいがちょうど良いんだろうと言い聞かせている。
今の時代こんなことをしているのは俺たちだけじゃない。
俺は物資漁り終えて車に乗ると、しーたんを迎えに行く。
すると、なぜかキャラクター越しにもわかるくらい嬉しそうに車に乗ってきた。ずっとクルクルしてるのだ。
『ねぇ、もうそろそろだね』
やっぱり嬉しそうな声を出している。
「え、なにが?」
『えぇ……! もう忘れたの? やっぱり会いに行くのやめようかなぁ。楽しみにしてたのにぃ……』
しまった。やらかした。
「あぁ! ごめんごめん! 別に忘れてたわけじゃないんだって! まだ実感が湧かないっていうか」
『ふふっ。そんなに慌てなくてもいいよ。ちょっとからかっただけだし』
「意地悪だな……」
『だって焦ってるゆーくん可愛いもん』
「しーたんの方が可愛いって」
『もう! ゆーくんったらぁ』
こんなことを言うだけで喜んでくれるんだから幸せだ。
俺たちはゲームで知り合った関係だ。最初は共通のフレンドを通じて一緒にやることが増えた。
それから2人でゲームをすることが増えて、そのうちを好意を抱くようになった今の関係に至る。
そんなしーたんは少し前まで北海道に住んでいたのだが、この春から親の都合で俺の住んでいる東京に引っ越すことになったらしい。
つまり、距離がグッと縮まったということだ。
まぁ心の距離はもうずっと前から縮まっているけど。
そして、引っ越しして色々落ち着いたということで、会う約束をしていたのだ。それが来週末でそのことをしーたんは言っていたのだ。
今まで会いに行こうとしたことはあったけど、高校生だし親にはなんで言えば良いかわからないしで行くことができていなかった。
画面の向こうでは俺たちが車に乗りながら敵を探している。
『ゆーくんがどんな人なのか気になるなぁ』
「前から言ってるけど、多分すごい普通だから期待しないでよ」
『えぇ〜そんなこと言って本当はかっこよかったり』
「まぁ来週わかるよ。俺もしーたんがどんくらい可愛いのか気になるなぁ」
『もうっ! 可愛いの前提で話すのやめてよ! ハードル高くなっちゃう』
「ごめんて」
俺たちは2人で笑いながらゲームを進める。
俺もしーたんもまだお互いのLINEも顔も知らない。
しーたんの容姿がどんな感じでも好きであることには変わらない自信が俺にはある。けれど、逆はそうではないかもしれない。
つまり、しーたんが俺を見て残念がる可能性があるということだ。
もちろんしーたんに限ってそんなことはないんだけど、それでも不安なことに変わりはない。
それはしーたんも同じで、だから会うまでLINEとかは交換しないと約束しているのだ。
『そういえば今日はまだ聞いてないよ』
「え、なにを?」
『ねぇ、それわざとやってるでしょ』
「だって恥ずかしいじゃん」
『でも、言ってくれた方が嬉しいもん』
「もうわかったって……」
俺は喉の調子を整えてから、いつも通りの調子でイヤホンのマイクに口元を近づける。
『好きだよ。しーたん』
これが俺たちの毎日だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます