緋東結紀と異質のアリス⑱
どこから出てきたのか分からない紅茶が力の手によって目の前に置かれた。
紅茶をいれた素振りもなかったのにどこから紅茶が現れたのかと結紀は首を傾げる。
「あ、それ飲んでも害はないから」
「わかった」
飲んでも害はないと言われても、出処不明の飲み物を飲める程の勇気は結紀にはない。
力には悪いがこの紅茶は残させてもらおう。
紅茶にも心の中で謝っておく。
何も動かない結紀に変わって力が言葉を発する。
「じゃあさっさと手紙読んで、話しをまとめようぜ」
テーブルの上に手紙と銀色の卵を置いてメモ帳を開く。
【鍵を探せ】と書かれていたページには【カプセルの中の鍵】と書かれていた。
目的の鍵自体は手に入ったが、この手紙は一体何が書かれているのか気になって仕方がない。
そもそもここにはなんのために連れてこられたのだろうか。
「結紀くん、僕達の目的覚えている?」
目的とは、不思議の国のだろうか。
それならこのシミュレーションが始まった時に遥日が言っていた。
「情報を集めてアリス世界を破壊するように説得する、でしたっけ?」
「そうだね。
でも、世界を破壊するにはアリスを説得する必要がある。
今まで集めて来た情報は、アリスを発見することと、アリスを説得するために使うんだよ」
遥日は薔薇の匂いがするピンク色の紅茶を一口飲んでから言葉を続ける。
「情報を得た今、あと必要なのはアリスをどうやって説得するかなんだけど」
先程の顔色の悪さが嘘だったかのように、紅茶を飲んですぐ遥日の顔色が良くなっている。
紅茶にはなにか力があるのだろうか。
遥日はいつもの笑顔とは違う、期待を込めたような笑みを浮かべた。
「君なら直接アリスと話せるかもしれない」
説得と言われて、アリスと直接話すのだと思っていた結紀はその言葉に驚いてしまった。
どうやら遥日達は直接アリスとは話さないらしい。
「普段はどうやってやるんですか?」
「能力で解決かな」
「なんでも能力ですね」
「能力が必要なかったら今頃、みんな治療してるよ?」
それもそうかと頷けば力が手紙へと手を伸ばしていた。
「これ随分重さに違いあんな」
「気持ちの重さが違うんだよ」
「いや、重さ違いすぎでしょ」
どういうことなのか分からずに結紀も手紙に手を伸ばす。
触れてみてやっとよく分かったが、紙の重さがかなり違う。
片方は一枚程度の重みだが、もう一つは何枚書いているんだというぐらいの重さだった。
手紙の見た目に差異がないのは、真由がこの重みを普通だと思っているからだろう。
「これって未来の自分へ対してだよね?」
「タイムカプセルなら……友人に書いたりもあります」
未来の自分ではなく、友人に対して書いたのならば重すぎる程の分量だ。
慎重に封を切って中を開くと、数枚の明るい色をした手紙が出てきた。
軽く目を通しただけでもかなりの重さだ。
結紀は思わずげんなりしてしまう。
それに気がついた遥日が結紀に頼み事をする。
「結紀くん、読み上げてもらってもいい?」
「分かりました」
『拝啓 未来の私。
友達のことは大切にしていると思います、彼氏は居なくてもいいかな。
最近は、みんながある先輩のことを好きになっています。
私もその人を好きになればみんなと同じになれるかな。
…………
最近、友達が冷たいです。
理由はきっと分かってる。
友達の好きな人を取ろうとしたから。
でも、私、同じになろうとしただけなのに』
つらつらと書かれている文字は真由の後悔がほとんどだった。
明るい話題などは全くなく、最近起こっている自分の環境の変化が書かれていた。
他には友人への気持ちと、先輩に告白したことが最大の過ちであったと書かれている。
似たようなことが書かれている手紙を読み上げて、机の上に置いた。
そして手紙から分かったことをぽつりと呟いた。
「真由は先輩に告白したのを後悔している」
メモ帳は勝手に開くと結紀が言ったことをメモしている。
もう一枚別にあった手紙、友達が書いた方に手を伸ばしてこちらも先程と同じように声に出して読む。
『私の好きな人を本気でもないのに取ろうとしないで』
「……あれ、一行だけ?」
他にも何か書かれていないかひっくり返してみるが、何も書かれていなかった。
これが友達から真由へと向けた言葉なら、最近真由がグループからハブられていた原因がよく分かる。
「タイムカプセルってこういうことを書くんだっけ?」
「おれの知っている限りは違いますね」
未来の自分へ後悔や、友達に対しての腹立ちを書くものでは無い。
もっと希望に満ち溢れたことを書くのがタイムカプセルというものだろう。
まあ結樹のような在庫処分のための人もいるから一概には言えないが。
「なら、このタイムカプセルはアリスの後悔の詰め合わせなのかもしれないね」
「後悔の詰め合わせ……」
タイムカプセルにまで入れてしまっておきたい程の後悔。
アリス世界に持ち込むほどの強烈な後悔。
もしかするとこの世界は全てをやり直した世界なのかもしれない。
文房具屋で見た真由は楽しそうだったが、このタイムカプセルを入れるまでの間に何か起こったのだろうか。
「じゃあそろそろまとめようか」
まとめる。
まとめるとはきっと、真由を説得するために何をするべきかの答えを出すということなのだろう。
ゆっくり目線を下に下ろして、メモ帳を見ると、【本当はどうしたかったのか答えを出せ】と書かれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます