緋東結紀と異質のアリス⑧
結紀達の通う咲良高等学校は農業の分野に力を入れていることで有名だ。
咲良高等学校に通う人の大半は農家の跡継ぎだ。
結紀自身は農家でもなけれは農業にも興味がなく、とりあえず入れる所で選んだのであまり思い入れがない。
咲良高等学校自体は偏差値が高くないので簡単に突破ができる。
あまり良くない結紀の頭でもだ。
咲良高等学校と書かれた茶色い柱が目に入って、柱の前で足を止める。
柱に隠れて見た所、結紀の知っている学校と変わりはないようだ。
結紀から見ると柱の後ろ側、つまり校門の少し後ろに警備室が立っている。
「ここ、制服着てない人は入れないきまりだったよね?」
遥日に問いかけられて結紀はそうですと頷いた。
結紀も力も制服は来ていないので、校舎の中へ入ることが出来ない。
ここに来て足止めを食らうとは思っていなかったので、結紀はため息をついた。
「まあ、何とかなるよ」
警備室に視線を動かしてから、真っ直ぐに警備室へと向かう遥日を見送る。
何をするつもりなのかは分からないが、遥日に任せることにして二人で話をする。
「制服着てなかったら入れないって不便すぎね?」
「うーん……まあそうだよね。遥日さんは何しに行ったの?」
「まあ気にすんなって」
アリス世界の住民との会話を基本的に避けているはずの遥日が、唯一話ができる結紀に任せずに警備室に向かった理由が気になって問いかける。
力はなんでもないように笑うと結紀の背中を叩いた。
どうやらはぐらかされてしまったようだ。
「俺たち無事に入れるのかな?」
「まあ、大丈夫だろ。
遥日さんなら脅すか、跪かせるか……今のなし。
聞かなかったことにしろ」
力が慌てて否定するが結紀はしっかり聞いてしまった。
脅すか、跪かせるとはどちらも物騒極まりない。
遥日がそんなことをする人のように思えずに結紀は首を傾げる。
そういえば遥日の能力とはどんなものなのだろうか。
力や透は自ら話してくれたが遥日だけは何も言われていない。
先程力が言っていたのが遥日の能力なのだろうか。
考えていると力から声をかけられる。
「結紀はここの学科の……普通科だっけ? 所属だよな」
「所属って……、そうだよ。
普通科。
農業科でもなく至って一般の普通科」
咲良高等学校は普通科、農業科、アリス科の三つの分野に分かれている。
大抵の生徒は農業科に入るが、結紀のように何もしたくない人は普通科に入る。
学科は分かれているが、そこまで人数の多い学校では無いのでクラスは全部の学科を混ぜて作られている。
授業やカリキュラムの違いはあるが、各自で自分の受ける学科のカリキュラムに合わせて授業を受けるので、通常科目以外でクラスメイトと授業を一緒に受けることは無い。
表向きでは様々な学科と交流することでスキルアップを図ると書いているが、実際の所、体育祭や文化祭などのイベントのためだけにクラスというものが作られた。
イベントのためだけのクラスなので、あまり仲良くはない。
「結紀もアリス科に変わるんだろな」
「なんで?」
「なんでって、そりゃあ、不思議の国の連中はみんなアリス科だぜ?
治療に関わる勉強もしなきゃなんないしな。
それに担任が
九鼠息吹なんて教師いただろうか。
疑問に思いながらも力の言葉を待つ。
今いる学科に対して思い入れも興味もない結紀からすれば学科が変わることはどうでもいい。
それよりも、九鼠息吹という人物の方が気になる。
「結紀も息吹とは合ってるぜ?」
「え、いつ?」
「ついさっき」
ついさっきと力は言うがそんな名前の人には会っていない。
ここまで来る間に起こったことを遡りながら考えたところで、一人名前の分からない人物がいることに思い当たった。
眠そうな顔をした青年。
一言も会話をしていないので挨拶をしていない。
結紀が知らないということはその人物が九鼠息吹かもしれないということが有り得る。
しかしそんな眠そうな教師が働けるのだろうか。
様々な疑問が浮かび上がってきて問いかけようとするが、結紀はそれを言えずに終わった。
「あ、遥日さん戻ってきた」
力の言葉に顔を上げるとこちらに向かって手を振っている遥日が見えた。
力は話をそこで切るとその先を話すのを辞めてしまった。
結局、九鼠息吹とは誰なのか分からないままだ。
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