第四話 魔法というようなもの
「行って来まーす!」
「気を付けてね、遠くに行っちゃダメよ? お兄ちゃん達も居ないんだし。ママもお洗濯が終わったら行くからね」
「分かってる」
五歳になってはや数か月。
今までは両親かブラザーズに連れられてしか屋敷を出てはいけなかったけど、五歳になった誕生日プレゼント代わりに一人で外に出る許可を貰い、天気のいい日は外に出るようになった。
屋敷で本を読むのも悪くないんだけど、その読んだ本の内容を試すなら外でしかできないからだ。
――実践するもの……それは魔法。
魔法は母さんが教えてくれることになっているけど、危ないからと火を出したりといったようなことは教えてくれず、もっぱら『使い方』のレクチャーのみだから実践させてもらったことが無かったりする。
「ま、五歳児が使うのは過保護気味な母さん的には許しがたいって感じなんだろうな」
火・水・土・風というゲームでよく見る四大元素は一歩間違えれば家を大惨事にしたりすることもあるしね。
後は光と属性とは関係ない雑多な魔法があるんだけど、この辺はまだ話を聞いたことがない。
「だけど本は読めるから自分で練習するのもアリだよね、と」
屋敷は小高い丘の上にあり、近くには林。
さらに少し歩くと池がある原っぱのような場所があるのを散歩のときに知った。
ここなら火事が起こってもなんとか消化できる……はずだ。念のため木桶も持ってきているし準備は万端。
「さて、なにを試そうかな……」
僕はとりあえず池のほとりに座って書物をめくる。
赤ちゃんの頃は母さんに背負われて過ごしていたんだけど軽やかに魔法を使っていたのが格好良かったのをよく覚えている。
「えーと『魔法はイメージを形にするものだと言えば伝わりやすい。例えば紙を燃やす火と魔物を倒す炎では威力に差を持たせる必要があるだろう。その差を埋めるためにはどういう形で発動するのかを考えなければならないということだ。
コップに水を溜めるのと桶に溜めるのとではやはり違う。それを魔力でどれだけ出せるか? それが『イメージ』というものなのだ』か」
要するに適当に『火よ出ろ!』とか言ってもイメージしていないと『どんな火なのか』分からないため発動しない。適切なイメージして初めて『魔法』という『形』になるんだ。
他には詠唱は自由であるとか書かれていて『我が呼びかけに答えよ!』みたいになんでもいいみたいだ。なんというか『行くぞ……行くぞ……!』という覚悟のようなものなのだろう。
「よし」
僕は本を閉じてから立ち上がると池に向かって手を翳して魔法を撃つ態勢を取り、詠唱とやらを口にする。
「『火の輝きよ!』」
瞬間、僕の手に熱が感じられて『これは……!』となり、そのままよくある矢をイメージして撃ち出してみる!!
「おお……!」
その瞬間、手からミミズみたいな火がチョロっと出て池の中に落ちて消えた。
「おお……」
期待したほどのモノが出ずに落胆する僕。
まあ、そんなにすぐ出来るようになるとは思ってなかったけどこういう時ってパッとやれそうだなと勝手に思い込んでいたのでがっかりだ。
「ふうむ……?」
僕は立ったまま本を開いてなにか秘密でもあるのかと目を通してみると、魔力というのは使い倒して底上げをしていく必要があるらしい。
操作にしても威力にしてもとにかく数をこなすことが前提なのだとか。
「あー……。ならもっと小さいころからやっておけば良かったな。物心はずっとついていたんだからやろうと思えばできたはずだ」
今更だから悔やんでも仕方がないかと本を置いてまた練習に戻る。
とにかく出しまくれば上手くなるということなら今日からやり続ければいいだけの話だ。
「よーし、そうと決まれば! 『火の輝きよ』!」
僕は嬉々として魔法を使い続ける――
◆ ◇ ◆
「――ちゃん」
んあ……?
なんか呼ばれたような……。
「カちゃ……」
これは母さんの声?
あれ、なんで遠くから聞こえてくるんだ?
「ウルカちゃん!」
「あ、れ……? 母さん?」
「そうよママよ! 追いかけてきたら倒れているからびっくりしたわ!」
「あ、ごめんなさい……」
酷く焦燥した顔で僕を抱きかかえいた母さんは強く抱きしめてくれた。少し陽が動いているけどいいところ2時間程度倒れていた感じかな?
「ウルカちゃんは魔法を使ったのね?」
「うん」
「あのね、魔法を使うのはいいのだけどあまり使いすぎると魔力が枯渇して倒れちゃうの。走って息切れしたりするみたいにね」
「そうなんだ……」
どうやら魔力にも個人の総量というものがあるらしく、限界を越えるとぶっ倒れてしまうようだ。
母さんが僕を膝に乗せ、僕が読んでいた箇所から続きにそう記述があった。
「ママの子だから魔力はその辺の子より高いと思うけど、無理はしちゃダメよ?」
「はーい!」
「なるべくママが一緒にいるから。さ、今日はここでお昼を食べて戻りましょ」
そういってサンドイッチと僕の好きなオレンジジュースを差し出してくれ、それを食べてから家へ戻ろうということになった。
「美味しいよお母さん」
「ふふ、良かったわ。……ねえ、ママって呼んでくれないの?」
「ママは……ちょっと恥ずかしいかな……」
「うう……女の子も欲しかったかも……」
一応、兄ちゃん達が『恥ずかしい』という理由でそう呼ばないので僕もそれに倣う形だけどやはり十七歳でママは口にできない。
「……ん?」
「どうかした? ママって呼んでくれるの?」
「言わないけど……」
「がーん」
……今、誰かに見られていたような気が?
だけど周囲を見渡しても特に人影があるといったことは無かったので気のせいのようだ。どちらかといえば僕を抱きしめてしくしく泣いている母さんをなんとかしないとね。
【……】
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