第25話 トーシャ村へ
旅行途中の車の中とはこんなに苦しい物なのかと俺は思った。
旅行に行った記憶は高校の修学旅行くらいしかないが、
あの時はもう少し楽しかった気がする。
ガタガタ……
トーシャ村行きの馬車に乗って三十分程、
この車体が揺れる音も聞き慣れてきた。
音だけならまだ良いのだが、揺れる度に荷台を改装した客車に乗っている
俺の身体もガタガタ揺れて、内臓や神経が揺さぶられる。
おまけに窓が無いので暗い上に景色を楽しむ事も出来ない。
暗いから寝ようと思うと馬車の揺れで起こされる。
……正直、安かったとは言え馬車に乗る選択は間違いだったかも知れない。
「御者さん!トーシャ村とかで噂になってる事ってあります?」
「噂かぁ……強いて言うなら新手の盗賊団が生まれたくらいだなぁ……
もし出くわしたら何とかしてくれよ!制服を見るに学園の生徒さんだろ?」
「私は隠れますけど、そこのノーティスさんが何とかします!」
カイは環境に振り回されないタイプのようで、
馬車を運転している御者と雑談をしている。
何でも良いから早くトーシャ村に着いてくれないかな……
ガタッガタ……ゴトゴト……
*
「うーん!新鮮な森の空気が美味しいですねー!」
「……あぁ、そうだな」
長かった片道一時間の馬車の旅が終わり、トーシャ村に着いた。
カイの言う通り森独特の新鮮な空気が村全体に満ちている。
「いつつ……」
「大丈夫ですか?」
長時間同じ姿勢でいたせいか、節々が痛む。
「心配してくれてありがと……」
身体をさすりながら歩きだす。
「トーシャ村、歓迎」と書いてある看板の横を過ぎると、
それなりに活気のある村があった。
点々とそれなりの作りの家があって、村の奥を見れば大きな屋敷があった。
「あらァーよく来たわね〜」
知らない人間がいるのは稀なようで、
すぐに村の主婦らしきエプロンを着けた女性に声をかけられた。
「おっとちょうど良い、ライトさんの家ってどこか分かります?」
「ライトくん?あいつならちょうど昨日学園に行っちまったよ」
ちょうど入れ違いになってしまったらしい。
よく考えれば俺達がこの村に来れたんだから
主人公の彼も学園に行けるようになってるよな。
早速目的の一つを失ってしまった。
「そうですか……ありがとうございます」
主婦に礼を言って、振り返る。
……カイがいない。
「あれ?アイツどこ行った?」
「ピンク髪の娘ならあのお屋敷に向かって走っていったわよ?」
「ありがとうございます!」
主婦が目ざとく見てくれていたようで、再び礼を言って俺も屋敷の方に向かう。
*
洋風の屋敷に近づく。
カイは屋敷に続く道のど真ん中に無言で立っていた。
「カイ!一人でどっか行くなよ!」
「あ、ノーティスさん。いや、すいません、
こんなに大きな家見たの久しぶりでテンションあがっちゃって……」
(子供か!)
テンションのままに突き進むのは良い事なのか悪い事なのか。
俺には判断出来ないが、同行者を置いていくのはやめて欲しい。
「で、なんで道のど真ん中で止まってるんだよ?」
「……アレ見てください」
カイが指差す方向には屋敷の鉄門があった。
そして、その鉄門の前で下を向いて落ち込んでいる人物が居る。
アイツは……
「……ん?マロン?」
「ええ、なんか私ですら話しかけるのためらっちゃうレベルで
暗い雰囲気で……」
いったい何があったのだろうか……
俺はためらいより心配が勝ったので声を掛けに行った。
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