本小説の絶筆宣言

 書こうと思っていたことが別なかたちで現実になりそうで、もう書いても仕方なくなりました。あまりにも近い将来のSFを書くのは小説としてどうかという感じもしましたが……。


 読んでいただいた方々、申し訳ありません。おそらく、ロシアは現在の形で存続できそうもなく、また、欧州で議論が盛んなエネルギー問題では環境派が矛盾を抱え込んでしまうことでしょう。


 現実的にロシアはプーチンの思惑と正反対にことが運びそうです。これまで、ソ連加入国であったチェチェンなどでやってきたように容易にウクライナも打ち崩せるだろうと考えたのが間違いのはじまりでした。ゼレンスキーがただのコメディアンから、本物の指導者に変貌を遂げるとは思いもしなかったのでしょう。


 また、本小説で問題にしようとしたエネルギー問題で言えばドイツは今まで唱えてきた環境主義を引っ込めざるを得ず、エネルギー安保で危機に瀕しています。現在のドイツは批判してきた石炭火力により、原発とLNGの肩代わりをして凌いでいます。


 四月になり、ドイツは自国の原発を約束どおり全廃しましたが、原発大国のフランスからはいつでも電力を輸入することができます。フランスの原発は発電量の上下が可能で需要に応じてドイツに供給することも可能です。日本では危険だという理由でやりませんが(キセノン・オーバーライドをwikipediaで調べてください)。


 また、最近では原発を小型化して自然対流で再循環ポンプ不要とする炉心が開発されています。原発が全電源喪失に陥ると、ポンプが作動しなくなり、超ウラン元素の崩壊熱で炉心溶融を起こすからです。福島の事故はこの例です。しかし改良型の小型炉でも、冷却水はじょじょに蒸発するため、水の供給が必要です。なので、ポンプ車が必要ないように地下に炉心を設置します。高レベル廃棄物は従来通り生成され、水の供給も必要なので、根本解決にはなっていません。


 一方、原潜は事故を起こしたからと言って大騒ぎにはなりません。なぜなら、海水で冷却されてすべてが沈んでしまうからです。稼働中に沈没した原潜はこれまでに何例か報告されていますが、とりたてて大きな騒ぎにはなっていません。周囲の海水が汚染されてることは疑いようがありませんが、大量の海水にまぎれてしまえば、「知らないよ」で済まされてしまいます。


 ドイツでは緑の党が参政しているかぎり、国内での原発は無理です。だから、こっそり電力を輸入するかたわら、バッテリーEVを引っ込めてe-fuel(合成石油)とか言ってるわけです。


 この合成石油は石油資源のないナチス・ドイツが戦時中に多用したもので、ほぼ製造技術は確立されています。極端な話、コストさえ無視すれば赤熱した石炭に水蒸気を吹き付けるだけで原料が作れてしまいます。作られた原料は水性ガスと呼ばれる一酸化炭素と水素の混合物です。これを触媒で重合させ石油を作ります。ナチス・ドイツの空軍(ルフトヴァッフェ)は、ほぼこの燃料を使って戦闘機を稼働させていました。


 実は、日本の都市ガスもながいこと、この方法で作られてきました。ガス自殺で有名な一酸化炭素を含むため、現在ではLNGになっています。檀ふみの父、檀一雄の著書では、酔っぱらった太宰治が冗談半分で「死のう」といい、ガス栓を開け、寝込んでしまいあわてて栓を閉めたと書いています。


 むろん、このような石油製造法ではカーボンニュートラルにはなりません。なので、わざわざ電気を風力で作って、水を電気分解して水素を炭素と反応させるという面倒な手段を提唱しています。風なんて、毎年必ず一定量、吹くわけないのにね。天候まかせのエネルギー安保なんてありえないでしょう。


 グレタさんのような存在は豊かなエネルギー資源を持つ北欧は許すかもしれません。しかし、彼女は各国の資本家たちに共産主義者とみなされ、すでにCOPにすらよばれません。報道にも登場することも少なくなりました。かわいそうな女性だと思います。現実とはそういうものでしょう。


 また、イギリスはエネルギー価格および諸物価の高騰と、ブレグジットによる経済圏の縮小で供給が足りません。英領内の北海油田は枯渇しつつあります。現在はスタグフレーションの危機にありTPP加入で経済圏の拡大を画策しています。


 米国の抜けたTPPでは日本がほぼ宗主国です。中国と韓国はTPPに加入を表明してますが、日本にその選択権はゆだねられています。韓国は政変により、前政権と正反対の日本懐柔策に出ています。また、中国は半導体規制などもあり、成長の限界を迎えています。そして、肝心な米国はインフレ抑制と景気後退のはざまで金利調整に躍起です。


 おそらくですが、日本は幸いな地理的情勢とこれまでの外交によって復活を遂げるでしょう。中国や中国が敵視する台湾に近い日本は、米国が最重視しなければならない国家です。すでにバイデン大統領は岸田政権になってから、三度も日本を訪れています。G7があったからとはいえ、広島の平和公園にさえいっています。選挙もなしになりました。なぜかは分かりますね。その意味を、岸田政権や官僚が理解しているかはわかりませんが。


 日本が中東でのエネルギー調達に他国ほどの大きな苦労もせず、積極的に開発した技術をつかった優れた輸出製品で豊かになれたのは、出光佐三、本田宗一郎、盛田昭夫など戦後に活躍した起業家の知恵と尽力のおかげです。


 松下幸之助は百年先を考えて、といいました。しかし彼らはみな亡くなり、今はサラリーマン経営者が四半期ごとの業績発表を争いあっています。手元キャッシュを増やして投資はしない経営スタイルが良いとさえ思っているわけです。投資をせずもうけたいのです。


 ROIというのをご存じでしょうか。投下資本利益率という略語です。資本をいかに投下せずにカネもうけするか、というのが流行ってるのです。投資をしない製造業なんてありえないから、製造業が沈滞してるわけです。有能な経営者はこの間違いに気づいて修整を図っています。すでにインテルは二兆円の投資を決めています。インテルの経営者は、投資しないかぎりはジリ貧で台湾等に負けるということが分かっているからです。しかし、投資をしたからといって勝てる保証はありません。ですが、経営者たるもの、負けるだけの道を選ぶことはありえないと思います。


 エネルギー問題に話をもどしましょう。日本は中東に石油を頼っています。それは、中東の信用があるからです。しかし、石油はともかくLNGは中東だけでなく、各国から分散調達しており、当面の心配はありません。


 日本のエネルギー価格は世界でも最も低いレベルの上昇率で抑えられています。世界で需要不足、供給過剰の状態にある国はほぼ日本だけなのです。だから、いまでもGDPデフレーターは低いまま(実質的なデフレ、最近は若干の軽度インフレ)なのです。


 財務省や銀行は金利を上げたいわけですが、価格上昇に対する市場圧力が強すぎて上げようがないから、日銀に金利振れ幅の増大を宣言させるにとどまっています。銀行は金利が上がらないと、とくに努力もしない地銀なんてもうからないままですから。インターネットでクラウドファンディングなんてやられたら堪らないわけです。「中抜き」でやられたら、中間搾取していた連中はたまったものじゃないのです。


 日本人はみんな、節約ばかりしておカネつかわないでしょ。スーパーだって安売り合戦です。だから企業は価格転嫁ができません。バブルの頃みたいに高級品がバンバン売れる時代ではないわけです。それは、財務省が将来への不安をあおってそれを真に受けた池上さんみたいな人が宣伝するからですよ。池上彰さんは、有識者や著名人にインタビューして、それをしゃべってるだけなんですよ(#いけがmetoo)。


 米国は、ドイツへのLNG供給枠を日本に分けてくれるように懇願しています。日本は現時点でエネルギー自給率が低いにも関わらず、エネルギー問題で欧州ほど困ってはいません。日本はUAEやイランとの歴史的な交流のおかげで彼らの信頼を得ており、優先的な供給を受けており供給不安が低いからです。


 この小説では、ウクライナ戦争を軸にエネルギー問題のいくえについて書くつもりで、それなりの結末を考えていましたが、もはや考えるまでもなくなりました。

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東京湾海底原発計画 いわのふ @IVANOV

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