第4話 計画の詳細

 イワノフは話はじめた。


「ご存じのとおり、原潜用には通常、加圧水型原子炉が使われます。コンパクトで出力があり、水という便利な冷却材と動力伝達物質がある。ソ連はアルファ級原潜で溶融金属原子炉を使ったが、あれは挑戦的ではあったが失敗した。


 理由は明白で、高速増殖炉と同じです。液体金属を冷却材に使うのは非常にむずかしい。ナトリウムは反応性が極めて高く、鉛ビスマスは放射化して毒性を持つポロニウムになるうえ、常温では固体です、やっかいきわまりない。


 だから、そういった先進技術は使わず、従来型軽水炉を使う。軽水炉の一つ、加圧水型原子炉なら日本に技術がある。ボトルネックは蒸気発生器です。ここは非常にトラブルを起こしやすい。慎重に設計せねばならないが、日本人ならできるでしょう。


 出力密度は通常の原潜より、低く設定します。なぜなら、おおくの不良原因は加圧水型では蒸気発生器付近の圧力設定が高すぎるからだ。高圧でパイプが破断すれば、それまでです。冷却水損失という重大な事故だ。だが軍事用なら高圧まで使う必要があるが、民生用なら安全範囲で低く設定しても構わない。


 さきほど言った通り、出力密度は適度に抑え、加圧水型原子炉も潜水艦ほどコンパクトにする必要はない、元々コンパクトだし、ギアードタービンやら、魚雷発射室も必要ない。勿論、戦略ミサイル原潜のように巨大なミサイル室も必要ない。


 だから、空いたスペースに百万キロワット級原子炉を積んでコストをさげたほうがよいです。最悪の事態を避け、監視・整備するために人員の常駐は必要でしょう。そのための、制御室や食糧庫、居住室、非常用脱出カプセルも設ける必要がある。


 最初のモデルは東京湾中央部に沈めます。なぜならそれで様子を見たほうがよいから。すべての工事を外殻チタン内部に地上の工場で施工します。沖合までは港から、予備浮力で半水中下で曳航します。曳航にとくに特別必要なことはない、タグボートで十分です。


 それから沈埋函工法とタンクをネガティブブローして注水し、慎重に沈めていきます。その上からさらに砂をかけておくとよいでしょう。


 ケーブルについては定期点検で十分対応できます。


 以上ですが」


 高野首相は技術屋らしいまなざしでイワノフを見つめた。


「まあ、学会ならメイ・アスク・ヨー・クェスチョン?といったところだが、詳細は考えてあるんだろう。技官たちに説明してくれ。それから、関連企業はすでにわたしが説得してある。ドクター・イワノフ、日本人に協力する気はあるか?」


「もちろんです。わたしはこの国に帰化してもよい。もう、プーチンとその傘下のKGB出身者はすべて処分した。ロシアに未練はない」



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