公爵令嬢の最強傭兵

水間ノボル🐳@書籍化決定!

第1話 ギルドから出て行く

「俺の分け前を寄越せ」


 ここはギルドの応接間だ。大抵の冒険者は通されることのない部屋だ。

 破れた革張りのソファーに座った俺は、ギルドマスターの親父と交渉をしていた。


「無理だ。今回の探索で、パーティーは君以外、全滅した。損害が大きすぎる。その上、君に報酬を払えばこのギルドは破産してしまう」


 昨日、このギルドの冒険者たちとパーティーを組んで、迷宮へ潜った。

 案件は、5階層でゴブリンを20匹倒し、魔法石を10個回収することだった。

 報酬はバスター銀貨15枚だ。

 だが、レベルの低い素人冒険者ばかりだったから、他の奴はゴブリンにあっさり殺されてしまった。


「あいつらが死んだのは俺のせいじゃない。魔王石はちゃんと取ってきたんだ。払ってくれないか?」

「おい、ハンス。わかってるのか。冒険者一人が死ぬと、補充のために銀貨5枚必要だ。つまり、君を含めて5人パーティーのうち4人死んだのだから、銀貨20枚がギルドの損害になる。報酬より損害が上回る場合、報酬は出せない。むしろ、君が私に銀貨5枚を払ってくれ。それが規則だ」

「その規則を曲げてくれないか。俺も生活ってものがあるんだ」


 俺はギルドマスターににじり寄った。気の小さい奴だ。睨む俺の顔を見て、少しビビっているように見える。


「やめてくれ……私には権限がない」


 この親父はギルドマスターと言われているが、実際はただの雇われギルマスにすぎない。

 王国の端っこにある小さな街の場末のギルドだ。当然、どこかのお偉いさんの後ろ盾がなければ、こんな貧相な街でギルドなど開けない。


「そうだな。お前はただの雇われだったな。じゃあ、俺はやめるぜ」

「待ってくれ!今、君に辞められたら困る」

「冒険者は自由だ。じゃあな!」


 俺は魔法石を親父に投げつけて、応接間から出て行った。

 さて、カッコつけたはいいが、冒険者は自由ではない。さっき、啖呵を切ったことによって、俺は冒険者業界でまたひとつ生きにくくなった。


 冒険者はギルドに雇われ、ギルマスは貴族に雇われている。真の飼い主との中間にいるギルマスに嫌われれば、すぐに悪評が立って案件を受注できなくなる。

 中間管理職のギルマスは、俺たち冒険者たちを管理し、上の貴族には媚びる。それがあいつらの仕事だ。

 ギルマスに嫌われてはいけません。ギルマスに気に入られましょう——それは素人冒険者への助言だ。俺みたいなベテラン勢は、やり方が気に入らないなら、さっさと別のところへ行った方がいい。むしろギルド内で余計なストレスを溜めるほうが、嫌われるよりも辛い。

 どうせどこへ行っても、世界が良くなることはないのだから。


 俺は場末の街を出て、別の街を目指した。

 俺は街から街へ、ギルドを渡り歩く、Bランク冒険者のハンス・グラントだ。

 いろいろ器用にこなせて、迷宮へ行ってもなかなか死なず、案件を淡々と処理していける。だからどこでも大抵は雇ってもらえる。

 俺は何度も迷宮へ潜っているが、とりあえずまだ生きている。実力の証明にはそれで十分だ。


 街の城門を出ると、荒野が広がり、その先には深い森がある。

 魔物は迷宮にしか出ない。だから安全……というわけでない。魔物より冷酷で狡猾な連中が森に潜んでいる。お察しの通り、その連中とは人間だ。


 最近は、格差社会のせいか、穀物の価格が高騰したせいか、はたまた麻薬の蔓延のせいか、考えられる原因は山ほどあるが、迷宮探索に挫折した冒険者たちが盗賊になっていると言う。

 迷宮探索で稼げる奴はごく少数だ。最初からそんなことはわかりきっているはずたが、自分だけは稼げると勘違いして、迷宮探索に挑み、すべてを失う者が多い。

 賢い人間なら簡単にわかる。だが、大抵の人間は賢くない。だから凡庸な失敗者が世に溢れる。


 ……一人で歩いていると、世の中について糞の役にも立たないことをブツブツ考えてしまう。おっさんの悪い癖だ。

 他人のことは、どうでもいい。俺が今、考えるべきことは、次の街へ着くまでに確実に誰かに襲われる、ということだ。

 噂によれば、森には盗賊のグループが少なくとも5つはあると言う。それぞれが縄張りを主張し、哀れな旅人だけでなく、盗賊同士でも殺し合っていると聞く。ありがちなことだ。


 俺は森へ入った。

 とても静かな森で、鳥の鳴き声ひとつ聞こえない。

 太古からある森らしく、樹木の背丈は5階建ての塔ぐらいはある。太陽の光を葉が遮って、昼間なのに薄暗い。

 俺は剣の柄を握りながら、ゆっくり音を立てないように進んだ。本当は少しでも見つかりにくくするために、匍匐前進で森を抜けたかったが、そんなことしていたら日が暮れてしまう。


「おらぁ!服を脱げ!」


 男の声が聞こえた。

 品のない下品な声色で、しかも内容から考えても盗賊に誰かが襲われている。

 俺にとっては好都合だ。盗賊の目をかわすことができるのだから。 


「誰か!誰か助けて!」


 少女の声だ。キンキンする高い声。

 ここで叫んでも誰も来ないだろう。奴らの要求に従えば命までは奪われない……いや、奪われるか。もし街の衛兵にチクられたら面倒なことになる。ボンクラの衛兵共でも、訴えがあっとなれば、上司の手前、対応せざるを得ないからな。


 さて、俺はどうしたものか。



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【★あとがき】


モチベになりますので、


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