絶対に離さない

監禁された兵枝令仁は、黒嶺蝶子を見つめる。

ゆっくりと、黒嶺蝶子は兵枝令仁の方に近づいていく。

ベッドの上に乗り、スカートが捲れて、黒のタイツが強調された。

じっと見つめてくる潤んだ紫水晶の様な瞳が、兵枝令仁を映し出す。


「…解いてくれ」


手錠を引っ張って、鎖が擦れる音が響く。

黒嶺蝶子の髪が垂れて、兵枝令仁の顔に掛かりそうになる。

黒髪を耳にかけて、彼女は恍惚とした表情をしながら、兵枝令仁の言葉を返した。


「だーめ、令仁くん」


そう言って、兵枝令仁の耳元に息を吹きかけた。

そして、彼の耳元で、彼女は細々と呟きだす。


「私、令仁くんの事、理解してるから、進路希望、第一志望に、狩人教育機関に名前を書いたの、知ってるんだからね?その後、消しゴムでごしごしって、消して書き換えたんでしょう?」


何故そんな事を知っているのか。

兵枝令仁と、黒嶺蝶子は別の教室だ。

確かに、教室で進路希望を書いたが、それは決してバレない筈だと思っていたのだが、彼女は見抜いていたらしい。


「お父様が用意した学校に通おうなんて、本当は思って無いんでしょう?高校に入らず、家を出て、一人で狩人教育機関に行こうとしたんじゃないの?」


「…なんでそこまで」


兵枝令仁は恐怖を覚えていた。

彼女の言葉は、全てが兵枝令仁の計画していた事だ。

それを見抜かれた事に、兵枝令仁は恐ろしいと、感じつつあった。


「あはっ…分かるよ、令仁くんの事だもの。私が、私以上に、令仁くんの事、理解している人なんて、居ないんだから…だからね、令仁くん、これ以上、令仁くんを外に出したくないんだぁ」


何れ、兵枝令仁は、黒嶺蝶子の元から去るだろう。

それが嫌だから、その前に、兵枝令仁を監禁しよう、とそう思っていたのだ。


「…蝶子、これ、離してくれ」


兵枝令仁の消え入る声に、黒嶺蝶子は首を左右に振る。


「可愛く言っても、離してあげない。令仁くんには、死に魅了され過ぎてるから、私が救ってあげないと、何れ死んじゃうだろうからね」


と、黒嶺蝶子は、兵枝令仁を捕らえる理由を告げた。

それに対して、兵枝令仁は黙った。

彼女の言う事は正しい、兵枝令仁は死の刹那を垣間見る事でしか、生の実感を得られない。

逆に言えば、傷が順調に回復しつつある最中、兵枝令仁は段々と生きていながら死に近づいている状態なのだ。

傷が全快すれば、兵枝令仁は再び死んだ様な人生を歩み続けなければなくなる。

そんな状態、兵枝令仁にとっては、生きている意味など無いのだ。


「どうすれば、外してくれる?」


兵枝令仁の言葉に、黒嶺蝶子は考える。


「…少なくとも、依存先が変わるまで、かなあ?」


兵枝令仁は思わず目を細めてしまった。

黒嶺蝶子の言う依存先、それを変えるとは一体どういう事なのか、分かってないらしい。


「もちろん、依存先は死に近づく事だよね?それで、依存先を変えるって言うのは…私。黒嶺蝶子に依存して、愛して欲しいって事」


つまり、兵枝令仁の枷を外す為には、狩人としての道を諦め、死へ近づき、生の実感を得る事を諦め、死ぬまで、黒嶺蝶子の元に居なければならない、と言う事。


「だからそれまで、外してあげない…嘘を吐いても、私は、令仁くんの事が分かるからね?」


嘘を吐いても無駄だと、黒嶺蝶子は言っていた。

ひとまず、それだけを伝えると、黒嶺蝶子はベッドから離れていく。


「じゃあね、令仁くん。辛いと思うけど、我慢してね?これは、令仁くんの為なんだから」


その言葉を最後に、黒嶺蝶子は部屋から離れていった。

兵枝令仁の監禁生活が始まり出した。


食事は一日二回。

黒嶺蝶子が学校に行く時に朝食を、帰って来た時に夕食を。

排泄したものは、黒嶺蝶子が甲斐甲斐しく処理をしてくれた。

性欲処理は週に一度のみ、黒嶺蝶子は、より一層自分を求めてくれる様に、ランジェリー姿であったり、ナースやバニーガールと言った姿で、兵枝令仁を誘惑していた。


が、兵枝令仁はどれも反応を示さなかった。

傷が全快した事で、兵枝令仁は死んだ様な人生を送ってしまっているのだ。

だから、視界に移る全てはどうでもいいものとして見えていたのだろう。

段々と、世界から隔絶されていく兵枝令仁に、黒嶺蝶子は段々と焦り始めていた。


「なんで、令仁くんは私に依存してくれないのかな…私に死以上に魅力が無いって事なのかな?」


少し、弱音を口にして、黒嶺蝶子は兵枝令仁の胸を抱いていた。

冬が過ぎ、もうじき春になる季節の頃合い。

兵枝令仁はいつまでも、黒嶺蝶子に意識を向けていない。


「…それでも、何時か、令仁くんが、私を見てくれると、信じてるから、まだ、鍵は外してあげないからね?」


そう言って、黒嶺蝶子は油断していた。

兵枝令仁の近くの棚の上に、鍵を置いて、離れてしまったのだ。

死んだように生きている兵枝令仁には、その鍵にも興味を示さなかったから、大丈夫だと思ったのだろう。


黒嶺蝶子が部屋から出ていった時。

しばらくして、再び扉が開かれる。

中に入って来たのは、黒嶺神太郎だった。

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狩人が化物を狩る現代ファンタジー、異常性を秘めた主人公に集うは、異常性を秘めたヒロインだった 三流木青二斎無一門 @itisyou

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