第2話「Wデート?」


「お待たせケイト~!」


「おう、千裕ちひろ


麓山はやまか」


「アマエイもやっほ~! 二人でな~に話してんの?」


 朗らかな笑顔を振り撒いてやって来たフレッシュ系の茶髪ポニテ女子は、麓山はやま 千裕ちひろ

 同じクラスの女子で、陸上部に所属するフレンドリーで明るい女の子だ。

 他人をあだ名で呼ぶ癖があり、俺のことは氏名の頭をくっつけた「アマエイ」という妙な呼び方をする。


 そして慧斗の彼女である。


「議題は衛士に彼女が出来ない理由について」


「あ~。アマエイ、彼女欲しいって最近よく言ってるよね。で、結論は?」


「慧斗いわく『良い人過ぎる』だってさ」


「あはは、納得だね~。アマエイって放課後の掃除とか、いつも誰かのこと手伝ってるしね~。あ、そうだアマエイ! よかったら他校の友達紹介しよっか?」


「……いや! ありがたい申し出だが遠慮しておく」


「え~? なんで~?」


「ほら、やっぱり出会いはもっと身近で運命的な感じがいいというか。実は近くにいるけど気付いていないだけで、何かのきっかけで惹かれ合う青春的なシチュエーションが理想的で」


「あ~、これは出来ないわ~」


「だろ?」


「なんでだよ!? 別にいいだろ! 少しくらい夢見たってさぁ!?」


 食堂にいることも憚らず悲痛な想いを叫びに変えて訴えると、慧斗と麓山は呆れた様に首を横に振った。


 やめろ。

 そんな手の施しようがない患者を診た様な反応をするな。

「あ、もうこいつ手遅れだ」みたいな目で俺を見るんじゃあない。


「ま、そんなに焦る必要はねーんじゃねーか? 夏休みに彼女がいないからって、別にこの世の終わりってわけじゃねーんだしさ。いつかそう遠くないうちに出会いがあるって、きっと」


「そうそう。だから元気出しなよアマエイ~。きっとあるよ! 出会い! いつか!」


「お、お前ら好き勝手言いやがってぇ……!」


 いよいよ揃って哀れみの言葉を言い始めたが、何の根拠もない。

 ここまで無責任なフォローをされると、逆にムカついて来る。


「見てろよ! 絶対近いうちに彼女作って、嫌ってくらい自慢してやるからなッ!」


「へぇ~。あ、じゃあさ、夏休みにWデートしようぜ」


「Wデート?」


 Wデート。


 その単語を耳にした瞬間、不思議と心が躍り始めた。

 聞き慣れない言葉だが、なんとなく特大の青春を感じる。リア充の極致みたいな。


 しかし、それと同時になぜだか嫌な予感がし始めた。


 まるで自分で自分の首を絞めてしまったかの如く、内心の汗が止まらないのである。


「そ。俺と千裕、そして衛士と、衛士の未来の彼女。この四人でどっか出掛けようぜ。プールとかどう?」


「なにそれめっちゃ楽しそ~! 新しい水着買わなきゃ~!」


「日程はとりあえず、八月の中頃にしとこうぜ。それまでに衛士は彼女を作るってことで。いいよな?」


「ぐ、う……」


「お? なんだ衛士ぃ。大口叩いた割には自信ないのかぁ~?」


 そう言って慧斗はニヤリと笑う。


 決して「お前には無理だろうが、やれるものならやってみろ」と嘲られているわけではない。

 信頼されているからこそ「これぐらい追い詰めれば、お前なら絶対出来るだろ」と発破をかけられているのだ。

 それは慧斗の目を見ればわかる。

 ここで無理と言えば、慧斗はあっさり撤回してくれるのだろう。そういう男だ。


 だからこそ、俺は引き下がるわけにはいかない。


 その優しさに甘えていれば、それこそ慧斗が言う通り彼女など永遠に出来ないだろうから。

 俺は拳を握り締め、不退転の覚悟を口にする。


「上等じゃねえかッ! その日までに絶対! ぐうの音も出ないほど可愛い彼女を作ってやるからなッ!」







 * * *







「なぁぁぁぁんであんなこと言っちゃうかなぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 放課後。

 教室の掃除を終えた俺は自分の机に突っ伏し、一人頭を抱えていた。


 昼に慧斗達と交わした約束を思い返し、取り返しのつかないことをした後悔と焦燥感に苛まれているのだ。

 マジでなぜあんな約束をしたのか。


 いや、理由は至って単純だ。

 友人の期待に応えたいという気持ちと反骨精神が相まった結果、冷静な思考を放棄したからだ。つまり自業自得。


 これ以上うだうだ言っても仕方ない。

 腹の底から深い溜息と共に後悔を吐き出し、目下の問題を解決するためにどうすればいいか思考に耽る。


「ねえ」


 まずは彼女を作る方法、真っ先に思いつくのはクラスメイトから探すことだ。


 だが、俺の連日の「彼女が欲しい」発言によって女子たちから距離を置かれていることが分かっている。

 すなわち望み薄である。


 クラス内で相手を探すことが出来ないとなると、学校外でどうにか出会いの場を作る必要があるということだ。


 次に思い付くのはバイトなど他人と接する機会がある時だが、俺のバイトは飲食系のデリバリーサービスなのでそもそも同僚と話すことが無い。

 お客さんとも受け渡しの時しか話さない。

 よってこちらも望み薄。再考。


「ねえ」


 となると、一週間後に始まる夏休みに望みをかけるしかない。

 どこか都心に出かけて出会いを求めるか?

 だが俺みたいな高校生がナンパなどしても、正直成功する気がしない。


 昼に読んだ記事のように合コンを開くか?

 いや、そもそも俺にそんな伝手はない。


 やはり麓山に他校の友達を紹介してもらうか?

 否、あれだけ豪語しておいて助けを借りるのはダサすぎる。


 この問題はただ彼女を作れば解決するわけではない。

 いかにしてメンツを保ちつつ、慧斗達が認める可愛い彼女を作るかが大事なのだ。


 ならばどうするか? 試しにSNSを使ってみるという手も――。


「ねえってば!」


「おわぁぁぁぁぁっ!?」


 びっくりした!


 突然、横から声を掛けられて思わず声を上げてしまった。

 隣を見れば、こちらを覗き込みながらコロコロと笑う一人の女子がいた。


 星のように輝く長い銀髪。

 深い藍色のぱっちりとした大きな瞳。

 爽やかな小麦色の肌をした小顔の美少女。

 上着には薄手のカーディガンを羽織り、スカート丈は非常に短い。

 この特徴的な外見は、よく知っている。


 というか俺の隣の席の子だ。


綺羅星きらぼし、さん?」

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