8. 奇妙な騒動、その真相は?

 私達の周りで起きた一連の出来事は、世間を大いに騒がせた。


 いきなり「名字ランキング」の順位に応じた数字が額に浮かび上がったり、それに応じた身体能力を授かったり、謎の老人が涼太君と一緒に写真に写ろうとして高校を襲撃したり……といった事態が立て続けに起こったんだ。


 どうやら、生前の「吉上さん」はとある趣味……いや、ある種の「ライフワーク」というものを持っていたらしい。


 それは、「名字ランキングの1位~10000位の人全てと出会い、自分と一緒に写真を撮る(一つの名字につき一枚)」というもの。自宅には、そういった写真を数多く収めたアルバムを何十冊も保存しており、事あるごとに眺めていたとか。


 また、彼はどうやら「名字が珍しいほど凄い」という感覚を持っていて、奥さんに「『吉上』という名字はこの近辺では最強だ」みたいなことをよく言っていたらしい。涼太君が私に言っていたのはこのことだったんだ。


 少なくとも、私には理解できない趣味だ。いくら「名字」という事柄に興味があろうとも、そこまで行ってしまう人は多分彼以外に存在しないと思う。


 吉上さんはそれを繰り返していった結果、ある一つの名字を残して9999枚まで辿たどり着いたらしい。その「ある一つの名字」というのが、9916位の「永濱」だったというわけ。


 あの出来事の前日、吉上さんは自分と同じマンションに「永濱」という人物が住んでいることを知った。ところが、その数時間後に、自宅内での事故によってコレクションを完成させることなく亡くなってしまったらしい。


 ここまでは、「とある変わり者の男が、その人生を終えた」というニュースにならないような話。ところが、彼の「ライフワーク」にかける思いは並大抵のものではなかったようで、それが、あの日に起きた超常的な出来事につながっていく。


 吉上さんは、死後に警察の車両で運ばれていたようだけれど、何と、そこでよみがえってしまい、警察署に着いてドアが開いたタイミングで脱走してしまったらしい。生前の彼からは想像できないくらいの足の速さで、すぐに姿を消してしまったとのこと。


 また、そのタイミングで吉上さんや近くにいた警察関係者、町内にいた付近の人々(私もそのうちの一人)の額に突如として数字が浮かび上がることになる。その「数字」は「名字ランキングの順位を表しており、大きいほど身体能力が高くなる」という法則を持っていた。


 脱走した吉上さんは、「永濱家」の一人息子である涼太君が近くの高校に通っていることを知っていたようで、「永濱」の名字を持つ彼の写真をどうしても入手したくて校内に侵入し、例の騒ぎを起こしてしまった。


 そして、目的を果たした吉上さんは、コレクションを完成させたことでこの世に残した未練が無くなり、安らかに永遠の眠りについたらしい。同時に、「額の数字」や「身体能力の変化」といった現象は収まり、服部先生のスマホに記録された写真は現像され、今は彼の自宅のアルバムに収められているとか。


 ちなみに、ここまで説明してきたことは、例の出来事を取材したとある写真週刊誌の記事の受け売りだ(当事者である私達にも取材が来た)。その記事の中では、「額に数字が浮かび上がった理由」について、次のような仮説が立てられていた。


 彼は「何としてもコレクションを完成させたい」という強い思いで生き返ってしまった。その思いと「自身の名字が珍しいものである」という自負が絡み合ってしまい、「名字ランキングの順位を表す額に刻まれた数字」と「それに応じた高い身体能力」という具体的な形で体現されてしまった。また、その現象は彼自身を中心として波紋のように広がっていき、周囲の人間にも影響を及ぼしてしまった……と。


 この記事は大きな反響を呼び、その週刊誌はここ数年で一番の売り上げを記録したらしい。ネット上では「いつからオカルト雑誌になったんだ?」などと揶揄やゆする声もあったけれど、実際にあの出来事の目の当たりにした私達からしたら、納得してしまいそうな内容だった。


 いや、より正確に言えば「納得したい」のかもしれない。謎のままで終わるのは嫌だから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る