第22話

 ──都内にある高級マンションの一室。


「……逸材ね」


 柔らかい高級ソファに身を預けた黒髪の女性が満足そうに微笑んだ。

 その手元にあるのはタブレット端末だ。

 彼女は画面に映し出された映像を真剣な眼差しで眺めていた。


「戦術は荒削りだけどコントロールは抜群。剣技だって、とても我流とは思えないほど繊細で、大胆だわ」


 彼女が視聴していたのは、圭太──ケイのの試合だった。

 映像に映し出された彼の動作を舐め回すように見てから女性はその評価を呟いた。


「それにソウルギアも優秀ね。遠距離スキルに設置型の砲塔タレットまで……ややAGI寄りのステータスみたいだけど全体的にバランスが良いわ」


 それまでの試合でも何度か使用された斬撃を飛ばすスキル。

 そして、11戦目にして初めて披露した設置型スキル。

 目まぐるしく変化する戦況の中でケイが披露する能力に女性はすっかり魅せられていた。


「……けど、流石に80位台相手は厳しいかしら」


 しばらく戦闘の様子を眺めていた女性は、少しだけ残念そうな表情をした。

 目にかけていた彼が不利な状況に追い込まれていたからだ。


「ま、そこは経験の差だから仕方ないわね。むしろ、初めてPVPコンテンツに参加したにしては十分過ぎる結果だわ」


 試合結果を悟った女性だったが、それでもケイに対する評価が下がることはない。

 彼の対戦相手は世界ランクに君臨する猛者である。たとえ80位台だとしても、その他有象無象のプレイヤーとは一線を画すほどの技量コントロールの持ち主なのだ。


 故に、彼が敗北するのは当然の結果だ。


「……ちょっと待って」


 ──そう、思いこんでいた。


「彼はいったい何をしてるの……?」


 映像の中で彼が見せる、奇妙で不可解な行動。

 それを目の当たりにして、彼女は疑問を口に出さずにはいられなかった。


「待って、嘘でしょ……? こんなことって……?」


 その数秒後、視界に飛び込んできた映像に彼女は、ただただ驚愕を吐露した。


「……」


 黒髪の女性はおもむろにスマートフォンを手に取る。

 それから慣れた手つきで端末を操作して、とある連絡先に電話をかけた。


「もしもし……私よ」


 電話が繋がるや否や、相手の返事も待たずに彼女は告げた。


「今から送るプレイヤーの情報を早急に調べなさい。探偵でも何でも使っていいから、絶対に連絡先を手に入れるのよ」


 女性は簡潔に用件を伝えると、またしても返事を待たずに通話を切った。

 それからタブレットに視線を戻すと、それまでとは異なる表情を見せた。

 まるで愛する異性に向けるような、情熱的かつ扇状敵な表情だ。


「うふふ、これから忙しくなりそうね」

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