第17話

『アイテムを獲得しました:蒼鰐竜の牙✕72』

『アイテムを獲得しました:蒼鰐竜の雷鱗✕208』

『アイテムを獲得しました:蒼鰐竜の皮✕83』

『アイテムを獲得しました:蒼鰐竜の甲殻✕126』

『アイテムを獲得しました:上級強化石✕16』


 首を切断された蒼鰐竜ラギラトスは、光の粒子となって消えていった。

 それからドロップアイテムのログが大量に流れた。

 全体的に獲得個数が多いのは、これが元々レイドクエストだからだろう。


 それはさておき、肝心なのはレアドロップだ。

 ドロップ率アップに100万も費やしたんだ。

 良いヤツが落ちてくれなきゃ困る。


『アイテムを獲得しました:雷閃の腕輪』

『アイテムを獲得しました:瞬光の耳飾り✕2』


 よし、素材以外のアイテムもちゃんとドロップしてるな。

 さて、レイドボスが落とす装飾アイテムが、どれほどの性能か。

 気になった俺はすぐに詳細画面を開いた。


 名称:雷閃の腕輪

 レア度:英雄級エピック

 種類:腕用アクセサリー

 効果:STR+10%、DEX+5%、攻撃時、雷属性付与


 名称:瞬光の耳飾り

 レア度:英雄級エピック

 種類:耳用アクセサリー

 効果:AGI+10%、VIT+5%、攻撃時、5秒間AGIをさらに10%増加


 いや、めちゃくちゃ強いなオイ!

 ボスドロだから当然と言えば当然だが、まさか割合上昇系とは。

 これなら当分アクセサリーを更新する必要がなさそうだ。

 それに属性付与や条件付きのステータス上昇効果も素晴らしい。

 きっと対人戦でも重宝されるだろう。


『ほぅ、こりゃ高く売れそうだな?』

「あぁ、性能を考えりゃ数百万で売れるかもしれねぇな」

『じゃあ早速売っぱらって俺様の──』

「──けどよ。たかが数百万で、ウルちんを養えると思うか?」


 確かにコイツの価値は数百万、いやそれ以上かもしれねぇ。

 売ればすぐさま大金が懐に入る。だが、言い換えればそれでおしまいだ。


『お、おう……? どうした急に……』

「……答えはいなだッ‼」

『いや、話聞けよっ⁉ 怖すぎんだろお前⁉』


 マモンがガチャガチャと騒いでいるが、無視する事にした。

 今から人が大事なことを話すって時にうるさい奴だぜ、全く。


「いいか、ストリーマーの世界は弱肉強食だ。生涯食っていけるほど稼げるのはほんの一握りのライバーだけ。気を抜けばすぐに電子の海に消えちまう……そんな場所でウルちんは戦ってんだ……ッ‼」


 金銭、モチベーション、環境……何か一つでも欠けちまうと泡となって消えちまう。俺の愛する彼女は、そんな脆く儚い存在なのだ。


 彼女が『赤檮ウル』として活動し続ける為に必要なのは一時の大金ではない。

 彼女が本当に必要とするのは継続的かつ安定的な支援者の存在に他ならない。


「……だからよ。コイツは俺自身の強化に使う。生涯、彼女を養えるほどの金を稼ぐ──その目的を果たすためには、まず俺がこのゲームで強くならなきゃなんねぇんだよ」


 ───そこまで言ってから、俺は自分の手を見つめて握りこぶしを作った。


 そう、これは投資的な判断だ。これからPVPに手を出す俺自身に対するな。

 そして、俺は稼ぎ出すのだ。

 生涯、ウルちんがウルちんで在り続けるための金を、この手で。


『いったい何の話をしてるんだ……。脈絡なさ過ぎてガチでヤバいぞ、お前……』


 はぁ、人が熱い想いを語ったというのにコイツと来たら。

 しかし、許そうじゃないか。

 所詮コイツは無機物。憐れみはするけど、期待はしてないさ。


『何だか腹の立つ思念を感じたが……まぁいい。それより下の方に埋まってるログを見ろ。が今回で一番の報酬だ』

「ん? まだ何かあるのか?」


 大量に重なったアイテム詳細画面や通知ログ。

 マモンに促された俺は、それらを順番に閉じていった。


「え……?」


 やがて現れたメッセージを見て、思わず声が出た。


『──【貪欲なる者アヴァリス】を発動しますか?』

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