第8話 0点

 私は、国語が得意だった。


 他の教科のようにがんばって勉強しなくても、国語だけはいい点がとれた。


 中学生の私は、その日、体育でケガをした友達に保健室まで付き添った。


 さらに、痛みで心細くなっているその友達を、励ます、という善行もしてから、教室に戻ろうとしていた。


 次の現代国語の授業にギリギリで、体操服を着替える時間はなかったが、先生に事情を話せばいいや、と思っていた。


 キーンコーンカーンコーンという鐘の音と共に、教室に入った私は、青ざめた。


 いつもと違い、もうみんな席に座って、小さい紙を前から後ろに順送りにしている。


 しまった! 今日は新出漢字の小テストがあるんだった!!


 国語をなめていた私は、家で国語の勉強などしなかった。


 漢字のテストも、単元末たんげんまつの新出漢字のページを、休み時間に集中して覚えればいい点がとれたからだ。


 だが、休み時間は、付き添いと善行でつぶれた。


 いくら国語が得意でも、文章中にちらと見ただけの新出漢字を、正確に書けるはずがない。 


 先生は、私が体操服のままなのを少しもとがめなかった。


「そのままでいいから、早く座りなさい」


 そのテストで、私は生まれて初めて、0点、というものをとった。


 いや、後にも先にも、0点、をとったのはこれ一度きりだ。


 しかも一番得意の国語で……


 いつも国語でいい点をとっていた私が、いきなり、0点、をとったので、国語の先生は心配して、職員室に私を呼んだ。


「何か悩み事があるなら、聞いてあげるよ。言ってごらん」


 先生は私に、青春の悩み事がある、と思ったようだ。


 天狗だった鼻をへし折られただけです、と答えられなかった私は、クセモノ! である。

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