ほんもののさんた

 笑い声に隼人も善人も一瞬固まって、驚きの表情で顔を見合わせた。

「さっきのって、幻聴?」

「いや……分からん。でもな、今日の昼さ――」

 と言って、謎の手紙、窓を叩く音、そして窓を開く音の話を善人に聞かせた。

「マジで……ちょっとさ、窓開けてみて。サンタが飛び回ってるのか見てみてよ」

 フォーッフォッフォという大声で善人の声もかき消されている。

「ごめん、もう一回」

 なるべく大きな声で善人に身振りを交えて伝える。

「窓開けて!!」

 善人は大声で叫んだ。

「は? お前やれよ!! 俺は無理だ」

「ウソ、六年生でしょ! それぐらいできるって」

「怖いものは怖いんだよ!!」

 逆にあの気味の悪い声をかき消すほどで兄弟は言い合う。

 と――。


 コンコンコンコン


 まさに今、俺の耳元で音が聞こえた。確かに、すぐそこの窓を叩いている。

 向こうには、黒い影が見える。何かが生えているような気もするが、詳しくは分からない。

「——まさか、そんなわけ、ねぇ、よな……?」

「これ、夢、なのかな……ホントにサンタさんが届けに来たってことじゃ……」

「バカいえ、んなわけ……」

 と反論しかけたが、もはや恐怖で涙を浮かべている弟を見て、止めた。


「開けるぞ」


「え……開けるの……兄ちゃん、いいの……知らないよぉ……」

「は? 俺そんなこと言ってねぇけど」


「いいな」


「もう……何なんだよ……兄ちゃん、も……い……よ」

 もはや、善人は嗚咽で言葉が途切れ途切れになってしまっていた。

「だから、俺は言ってないって」

 と、隼人は考えた。

 ――じゃあ、誰が。


 カラカラカラカラ……ヒュオォォォー!


 と、窓が開いた。寒風と共に粉雪が室内に降り注いでくる。

「ダイジョーブじゃ。わしはアヤシイ者ではない」

「え……?」

 さっきの音で完全にノックダウンしていた善人がようやく顔を上げたようだった。吹雪が治まってきたから、隼人も顔を上げてみる。


 と――目の前には、白のトリミングがある赤いもこもこの服を着たおじいさんがいる。

 赤いナイトキャップに上と同じようなデザインのズボン、ブーツ、そしてモノクルを付けていて、大きな白いあごひげと口ひげ。やや肥満体の体はまさに絵本で見たような風貌だ。

「わしはアードルフ。いわゆるサンタクロースじゃ。君たちは隼人君と善人君で“間違ってる”か? 大丈夫じゃ、善人君。アヤシイ者じゃない」

 片言の日本語でしゃべるおじいさんはどう考えても不審者だが、サンタクロースなのだからまあ許されるのだろう。アードルフというのは名前だろうか。まあ、分かりにくいのでサンタさんと呼ぶことにしようか。

 だが、そもそもこれは本物なのか?


「あの、あなた本当のサンタクロースですか」

「見てみるか?」

 と、サンタさんは空中へ身を乗り出した。

「ウソ?!」

 いきなりの凶行に隼人は助けるどころか固まってしまった。

「おっさん、落ちる……は?」

 だが、サンタさんは落ちなかった。

「空中浮遊、ってやつか……?」

「ほれ、コメット、来てやれ」

 とサンタさんが言うと、一匹のトナカイが“宙を駆けて”きた。

「そんな……ウソでしょ……いるんだ……」

 善人は現実を受け止められないのか、目を見開いたまま泣いていた。


「あの……プレゼント、持ってきてくれたんすか?」

 十分ほど話をして、ようやく現実を大体受け止めた隼人は訊ねた。

「いや、まだじゃ。君らに頼みがあっての」

 発音はカタコトだが、結構ちゃんと喋れてる。さっき合っているかというのを間違っているかと言っていたが、指摘しないことにした。

「え、なんの」

「実はな……国際サンタクロースキョーカイが調べるとサンタクロースを信じていない子供が増えておってな……特に、ショーガク一年生より上の学年がサンタクロースは親だとミヤブッテおる」

「え? いや、ガチで親なんすか。ショック」

「あ、いや、さっきの言葉は忘れてクレ。まあ、信じていない子供が増えておるから、国際サンタクロースキョーカイはタイサクを取ることにした。ズバリ、実際のサンタクロースが訪問してサンタクロースがいるということをショーメイさせるということじゃ。どうじゃ、“ガッキ的”じゃろう」

「……デンキュウとガッキ的っていうなら画期的なんじゃな、いんですか」

 ようやく今の状況に馴染めてきた善人は泣き止んだ後の赤い顔でツッコミを入れた。


「そうか。そこで頼みがある。ズバリ、サンタを親だと言わないでくれ。そうすれば、クリスマスの夜プレゼントを渡すからの。信じなかったら、また違うメイウンが待っておるが」

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