第三十六話・彼の心を蝕むもの

『先生、おめでとうございます!』

『皆さんのご支援の賜物ですよ』

『いやあ本当にめでたいことです。ご子息も優秀で、将来も安泰ですなあ!』

『いやいや、■■■さんのお子さんも賢そうな顔立ちをしてるじゃないですか』

『先生のご子息に比べたらウチの愚息なんか足元にも及びませんとも。爪の垢を煎じて飲ませたいくらいでして』

『そこまで謙遜しなくても。……■■■君、うちの息子と仲良くしてやってくれよ』

『ホラ、ぼーっとしてないでご挨拶なさい』




 ──うるさい。




『こら■■■。なんだこの点数は。こんな成績で満足してたら駄目だろう。もっと努力しなさい』

『■■先生の息子さんは進学校で常に上位だそうだ。やはり出来が違うのかもしれんな』

『せめて同じ学校に行けるくらいの学力を身に付けなさい。塾の時間を増やすか、それとも家庭教師に頼もうか』

『遊んでる暇があるなら勉強しなさい!』

『あんな程度の低い子達とつるんでも何のメリットもない。一緒に行動する相手はよく選びなさい』

『■■■のためを思って言ってるんだぞ!』




 ──うるさい。




『■■■君、はじめまして。よろしく』

『君だけは僕の味方になってよ』

『お互い親に振り回されて良い迷惑だよね。ホント、馬鹿には付き合いきれないや』

『君んとこのご両親、なんかスゴいよね。将来は是非僕の補佐に〜とか言ってるらしいよ。あはは! ……そんな口を挟めるほど、僕は御しやすく見られているのかなあ?』

『その程度で僕の隣に立てると本気で思ってたの? 厚かましいにもほどがあるよ』

『親の言い成りにはならないって大見得切って選んだ道がソレ? ……■■■には失望した』




 ──うるさい、黙れ!




『もう閉める時間? えーと、迎えがくるまで待たせてもらってもいいですか。父さん残業みたいで』

『先生の教え方、分かりやすい!』

『……父さんから疎まれてる気がする』

『こんな話したの、先生が初めてだよ』

『家にいると息が詰まるんだ。学校とここがいちばん楽。■■■先生もいるしね』

『僕、生まれてこない方がよかったかなあ』

『あーあ、先生が父さんだったら良かったのに』




 ──ああ、君と私は少しだけ似ている。

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