【短編集】霊異怪奇談~ソンナニコワクナイヨ~
誰よりも海水を飲む人
第一夜 『 セキュリティ 』
私は……。
あの日に視た、アレが……。
単なる見間違えか、ナニかである、と……信じたい。
それは、私がようやく、念願のバイクを買った時のこと。
連日徹夜のバイトし、遂に憧れていた新車のバイクを手に入れたのだ。
しかし、ここで1つ問題がある。
それはそのバイクの保管場所である。
今、住んでいる場所は治安が悪く、盗まれはしないか――とても心配だ。
そこで
その駐輪場は、自宅から少し歩いた距離にあった。
入り口は錆びついた大きなスライド式の鉄格子扉。
外側から固く南京錠が巻かれ、両隣にはオートロック付きの真新しいマンションの壁、後ろは線路の分厚い壁に覆われている。
そこは外界とは遮断された雰囲気で、侵入者が入れない構造となっていた。
納車当日、夕暮れ時。
バイク駐輪場の入口前で、改めて入場方法を確認する。
ここのバイク駐輪場は少し特殊で、まず、南京錠を開け、外側のセキュリティカードを通してから入場しなければならない。
そう、防犯システムを解除が必要なのだ。
もしも、セキュリティカードを通し忘れて、中に入ると……大きな警報音が鳴る。
そして、出るときも内側のセキュリティカードを通してから出ないといけない。
それも「ピッピッ」という警戒音が鳴っている、5秒間以内に行わなければならないのだ。
その後、スライド式の鉄格子扉を手動で閉め、南京錠を掛ける――という決め事。
何とも、めんどくさい……。
と、思う反面。
……まあ、セキュリティ上、仕方ないか……。
と、納得した上で契約したのだった。
バイクを停める位置は入り口から50mくらい進んだ、向かって左の一番奥。
手でバイクを押しながら進み、ようやく――定位置に停める。
初めての事であったため、少し手間取ってしまい、辺りは薄暗くなっていた。
四方には、隙間なく建物の壁と頑丈な鉄格子扉に囲まれていて、かなり閉塞感がある。
防犯上のこともあるのだろう……そう、思った時――。
――「バチッバチッ」と音を立てて、辺りが暗転。
「おいおい、蛍光灯くらいは替えてくれよな……」
管理会社の怠慢に少し腹を立てつつ、ふいに周りを見渡すと……。
しかも、両隣のマンション共、同じような造りだった。
「……もうー、大丈夫なのか?この駐輪場は……」
私は少し不安になった。
なぜなら、その非常階段は子供でも簡単に乗り越えて、駐輪場に侵入できるのだ。
しかし、そこはオートロック付きのマンション。
その住人が侵入し、バイクを盗むというのは考えられない。
たぶん、消防法等のなんちゃら~で、わざと脱出しやすくなっているのだろう……。
と、あまり深く考えずに場内を出た。
数か月後の深夜。
その日は夜勤終わりにバイクで帰宅した時のことだった。
ヘトヘトに疲れながらも、バイクを駐輪場に停め、普段通りに中側からセキュリティカード入れる。
いつもの「ピッピッ」という『警戒音』。
5秒間以内に、外に出た。
そして……。
「ピーー――ッ」と、最終警戒音が聞こえてきて……。
止まる。
この音が鳴り止んだら、もう一度外側からのセキュリティカードを通さないと『警報音』が鳴る。
もしも、中に入ってしまうと……セキュリティ会社の人が飛んできてしまうという仕様である。
過去に一度、そのことをすっかり忘れていて、セキュリティ会社に連絡して謝ったことがあるので、同じことが起こさぬよう――細心の注意を払った。
「ガラッガラッ」、と大きな音を立て、スライド式の鉄格子扉を閉めていた――その時。
――私は視てしまった。
「バチッバチッ」と暗転する蛍光灯。
その薄暗い闇の中……。
駐輪場の奥で……。
右から左へと水平に移動する……。
――
――その瞬間。
「ガシャァーーン」と。
鉄格子扉は閉まったのだった。
……えっ、……。
……今のなに……?
恐る恐る――もう一度、鉄格子扉を開ける。
錆びついた嫌な音が場内に響く。
目視で確認する……が、そこには何もない。
……おかしい……。
誰かいたはずなら、
念の為、外側のセキュリティカードをもう一度入れ、今度は中に入って確認する。
その瞬間――。
――また、再び……バチバチと周囲が暗転。
視界は一瞬、暗くなる……。
驚き――肩を震わせ、周囲を見渡す……。
――が、誰もいない。
恐ろしくなった半面。
深夜の夜勤帰り、ということもある。
きっと疲れているのだろう……。
だから、あんな……妄想を視たんだ。
と、その日は自分に言い聞かせるように自宅へと帰ったのだった。
その後、何回か、バイクを出入りするが……特に問題はなかった。
やはり、何かの見間違えであろうと。
納得し、忘れかけていた一ヶ月後。
久しぶりバイクで走ろうとバイクの駐輪場に行ってみると。
その周辺に数台のパトカーと大勢の警察官が立っていた。
「あのー、バイク出したいですけどー」
「あー、申し訳ないけど、ここで事件があって捜査のため、関係者以外立ち入り禁止なんだ」
と、黄色いテープでその一帯を封鎖する。
その警官の言葉を聞き、自分のバイクが出せないという苛立ちと共に、「何があっただろう?」と妙な胸騒ぎに覚えた。
その翌日、何気なくお昼のニュースを見ていると……。
「
という言葉が目に入ってきた。
しかも、住所はこの近所。
そこから流れてきたのは
内容は一人暮らしの女子大生が自宅で、心臓を一突きに刺され、殺害されていたというもの。
物騒で嫌なニュースだなぁ。
オートロック付きのマンションに住んでいて、そんな事件に巻き込まれなんて。
たぶん、犯人は顔見知りの犯行だろう。
と、お昼ご飯を食べながらそんな風に考えていた。
その次の日。
突然の
私は驚いた。
なぜなら……。
犯人は殺された女子大生の知人の男で、住んでいたマンションの隣の隣に住んでいたという。
つまり、バイク駐輪場の左側のオートロック付きマンションのことだ。
さらにニュース映像では犯人の侵入経路が図解付きで解説されていた。
その時、気がついたのだが……。
約一ヶ月前、バイク駐輪場で視た、あれは……。
殺された……彼女の姿ではないだろうか?……と。
――そう。
あの薄暗い闇の中。
駐輪場の奥で……。
――
それは、――つまり。
殺された場所、
バイク駐輪場を抜け……。
彼が住む、
――
――
――だったんじゃないかと――。
数日後。
「続いては次のニュースです。……○○県〇〇市で女性を刃物で殺害したとして……逮捕、起訴した男が今月 ○○拘置所で……死亡していたことが分かりました……捜査関係者によりますと、拘置所内の部屋で体調が急変し、その後……死亡。……死因や当時の詳しい状況は不明とのことです。」
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