第11話 別に久しぶりだからって楽しみなわけじゃ……(ひかり視点)

<ひかり視点>


 今日は賢人と裏商店街に出掛ける日。


 時計を見ると、朝の六時を指している。

 あいつとの集合は、九時に街の時計台の下。


「早く起きすぎたかな」


 でも、目覚めてしまったし今から寝たら確実にアウト。

 しょうがない、支度するか。


「……ってか」


 これ、まるでわたしが楽しみにしてるみたいじゃない!?


 そりゃあわたしから誘ったんだし、裏商店街に行けるのは楽しみだけど!

 別に賢人と出掛けることが楽しみなわけじゃ……。


 って、何を自問自答してんのわたし。

 さっさとシャワーでも浴びよっか。





「ふんふ~ん」


 朝のシャワーは気持ちが良い。

 すっきり目覚めるし、朝から元気出る。


「……」


 いつもの場所にあるシャンプーに手を伸ばして、ぴたっと止める。


 そうして、ちらり。

 棚の左の方に視線を落とす。


 そっちにあるのは、ママからもらった高い方のシャンプー。

 それを毎日使うのは気が引けるので使ってなかった。


「別に他意はないけど……」


 今日は特別にそっちを使ってみる。

 休日ぐらい良いじゃない。


「うん!」


 いつもよりちょっと甘いけど、良い香りかも。

 これならあいつもちょっとは……ってまた考えてるし!


 シャワーを浴びて、大きな浴場で思いっきり体を伸ばす。

 やっぱりお風呂が大きいって良いねぇ。


「……うーん」


 そういえば、賢人と二人で出かけるのなんて超久しぶり?

 昨日は任務として数えるとして……やっぱ小学生以来か。


 あの時は、よく遊んでたんだけどなあ。

 中学入ったぐらいからかな、遊ばなくなっちゃった。


 今でも覚えてる、小学生の時の言葉。

 わたしに嫌がらせにしてくる子達を前にして「ひかりを泣かす奴はおれがゆるさないぞ!」って。


「ふふっ」


 ……あれ、今わたし笑ってた? 

 いやー、ないない。


 けどまあ、わたしもその言葉を聞いてエージェントになろうと思ったんだ。


 エージェント一家だけど、特に強制されたわけではない。

 なんなら、本当になりたかったのか、何度も優しく聞いてくれたぐらいだ。


 それでもわたしはなりたかった。

 あんな、賢人みたいな頼れる背中になりたくて。


 この日常を危険にさらさないために。

 だから、わたしが今の道を選んだのは……


「って……!」


 何考えちゃってんの、わたし!

 はあ~、長風呂でどうかしてたんだわ。


 もうダメ、上がろ上がろ。





 集合場所の近く。

 アパレル店の鏡に映った自分を、最後にちらっと確認する。


「これは」


 めーっちゃくちゃ気合入ってんじゃん、わたし。

 張り切って横の髪まで三つ編みにしちゃって、さっきのわたし何考えてんのよ。


「はあ……」


 意識しすぎって思われないかな。

 思われないか、ファッションとか鈍そうだし。


「よし、いこう」


 そうして集合場所へ駆け出す。

 待ち合わせ場所、街の時計台の下にはしっかり賢人がいた。


「ごめん! 待った?」


「いや、大丈夫……」


「そう、良かった。じゃあ行きましょ」


 少し遅刻した事には怒ってはないみたいだし、早速案内すべく先を歩こうとする。

 するのだけど、なんというか……


「な、なによ。人の事じろじろ見ちゃって」


 賢人の視線が妙に気になる。

 わたし、別に変じゃないよね?


「い、いや、その」


「!」


 賢人は顔を少し赤らめて、わたしから目線を逸らした。


 はは~ん、こいつめ。


 反応が初心うぶでかわいいねえ。

 ちょっとからかってやろうか。


「あら~? もしかして見惚みとれてたりする?」


「……うん」


「へ?」


 ほんのからかいのつもりが、まさかの答えに動揺する。

 うんって、

 

「……あ、そう」


 そんな素直に返事されると思ってないじゃん。

 なんなのよ、もう……。


「ひかり?」


「……何よ。もう、さっさと行こ!」


 そんなわたしに、追い打ちをかけるように顔を覗いて来る賢人。


 わざとやってる!?

 今、顔を見られるのは恥ずかしいってのに……!


 だからわたしの方から駆け出して、賢人より前に出る。

 真っ赤っかになってしまってる顔がバレないように。

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