第12話 甘酸っぱい一日になりそうだ!

<賢人視点> 


 ひかりと約束した日の午前。

 日曜日ともあって、それなりに歩いている人も見かける。


 俺はひかりとの待ち合わせ場所でしばらく待っていた。


 けど、時間は少し過ぎている。

 時間、間違えてないよな……?


 そんな心配をしたのもつかの間、


「ごめん! 待った?」


「──! い、いや、大丈夫……」


「そう、良かった。じゃあ行きましょ」


 やばい、休日のひかり、めちゃくちゃ可愛い。


 全体的にカジュアルだけど、肩が少し見えていたり、膝上のスカートを着こなしたすごく似合った私服。

 学校では見たことが無い、その明るい金色の横髪を三つ編みにした髪型。


 加えて、ひかりの高そうなテンションもあって、俺の心臓は人生史上一番ドクンドクンと鳴り響いていた。


 しかも学校で話した時とは若干違う、良い匂いがしたような。

 シャンプー変えた? なんて言ったら「セクハラかよ」って殴られそうだから言わないけど。


「な、なによ。人の事じろじろ見ちゃって」


「い、いや、その……」


 しまった、見過ぎていたか。


「あら~? もしかして見惚みとれてたりする?」


「……うん」


「へ? ……あ、そう」


 ハッ! 何を口走ってんだ俺!

 可愛すぎてつい「うん」とか言ってしまった!


「……」


 ほら、案の定気まずい雰囲気になってるしー!

 ってあれ、


「ひかり?」


「……何よ。もう、さっさと行こ!」


 俺が尋ねた瞬間、ひかりはぷいっと顔を背けて早足で歩いて行ってしまう。

 気のせいじゃなければ、顔が赤かったような。


「何してんのよ! 置いてくわよ!」


「お、おう!」


 いや、気のせいだろうな。

 ひかりがこんなカースト最下位の陰キャに……うん、ないない。


 早足で歩くひかりに急いで追いつき、並んで歩いた。







 歩いている間は、俺もテンションが上がって会話もそれなりに弾んだ。

 そうして世間話をしながら歩いていたひかりが、足を止めたのは狭めの路地裏。


「この辺よ」


「ん? この辺って?」


「何も見えないけど、この辺からが人除けが行われているエリアよ。人除けを弾く準備しておいて」


「お、おう」


 どうやら裏商店街へ通ずる道のようだ。


 それに人除けを弾くって言っても、正直意識してやったことはない。

 まあ、ノリでなんとかなるか。


「じゃあ行くわよ」


 一瞬こちらを振り返った後に足を踏み出すと、ひかりは姿を消す。


 へえ、本当に消えて見えるんだな。

 じゃあ、俺も。


「ん」


 特に意識することなく、ひかりと同じ場所に踏み込んだ瞬間、何か一瞬、体に当たった気がした。

 良かった、自動で弾いてくれたみたい。


 感覚的には……なんだろう、軽くうちわであおがれた感じ?

 ちょっと何か触れた感覚があるだけで、特に違和感は無い。


「来たわね」


 そして、目の前にパッとひかりが現れた。

 改めて不思議だなあ、人除け。


「じゃあ、行きましょう」


 目の前には、先ほどまではなかった一つの扉。

 人除けがされているエリアに設置されているのか。


 ひかりが、おばあちゃんから授かった鍵で扉を開く。

 この先は、裏商店街なのだろう。


 俺もワクワクしながら、ひかりの後を追う。


 そうして入った扉の向こうには……


「──なぁっ!?」


 その先の光景に思わず目を奪われる。


「どう? すごいでしょ」


「うっそだろ、おい……」


 目の前に広がるのは、表の商店街とはまるで比べものにならない、豪華で派手な商店街。

 住んでる場所はそれほど田舎ではないが、そういうレベルじゃない。

 

「ありえないだろ……」


 沖縄の首里城を思わせる様な、全体的に赤が基軸となっている趣のある建物の数々。

 東京のビル群にも全く引けを取らない、並んでそびえ立つビル。

 京都の景色を一目で堪能できるような、「和」を感じさせる風景など。


 日本のあらゆる美を集め、それでいて綺麗にまとまった素晴らしき光景。

 っていうかこれ、商店街……でいいの?


「わたしの家にも門下生はいるけど、多くのエージェントは皆、ここへ学びに来たり道具を揃えに来るわ」


「俺の知らない場所に、こんな世界が広がっていたなんて」


 一つ一つを見れば日本なのだが、全体を見るとまるで異世界。

 同じ日本とは思えないほどの、信じられない風景だ。


「うーん。知らない場所というか、違う空間と考えた方が良いわね」


「というと?」


「わたしがもらったこの鍵。これはね、この場所に通じる物なの」


 ふむふむ。


「ここ、裏商店街は、わたしたちが住む日本とは全く違った場所に合って、鍵を使ってここに移動してくるの」


「鍵を持っていれば日本中どこからでも、ここに繋がるってことか」


「そういうことっ!」


 そうか、ここには日本中のエージェントが。

 どうりで、見かけるのが個性が豊かだと思った。


 ってか……ええ!?

 あの、男と一緒に歩いているの最近流行りの有名モデルじゃ!?


「あ、芸能人じゃん」


「だよな!?」


「まあ、こんなこともあるわ。なんたってここは、一般人には目の付かない場所なんですもの」


「あ、あー」


 なるほど、ここへは鍵を持った者しか入れない。

 だから、芸能人でも堂々とデート出来てしまうってか?


「だから芸能人とか、財界の大御所とかも普通に歩いてるわよ」


 特別な鍵を持つ者しか入れないから、必然的に目に触れないで済むと。

 ふむ、さすが裏社会。考えることが頭良いな……。


「ちなみに、ここの情報をリークしようものなら、国から死ぬよりひどい罰を受けることになるから、マスコミは入らないわ」


「な、なるほど……」


 そこもしっかり裏社会してますってか……。


「大丈夫? 気圧けおされてない?」


「なんとか」


「そっか。じゃあわたし達も行きましょ! 時間は有限なんだから!」


「……! おう!」


 そうだな、なんたって今日はデート(ということにした)に来ているのだから。


 こうして学園のアイドル、ひかりとの秘密のデートが始まった。

 今日は甘酸っぱい一日になりそうだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る