第9話 エージェントは大変

 工場に上の方から聞こえた声に反応すると、そこにいたのは、ひかりのおばあちゃんだった。


「ほっ!」


 ダンッ!


 工場の天井部の骨組み、かなり高い所から飛び降りたと思うと、ひかりのおばあちゃんは俺たちの目の前に着地した。


 え、おばあちゃんすごすぎ……。

 

 しかし、そんなことには目もくれず、ひかりは反抗する。


「ちょっと、どういうつもりよ、おばあちゃん!」


「ひかり。あんたには悪いけどね、今回の依頼は元から存在しなかったのよ」


「どういうこと!?」


 おばあちゃんはひかりに言い放った後、こちらに杖を向けてくる。


「今回の件は、全てこやつを試すためのものじゃ」


「えっ!」

「なっ!」


 なんだって!?


 昔見た時よりは少し老いてしまっているが、この人は間違いなくひかりのおばあちゃんだ。

 それが……どうして俺を!?


「出てこい」


 そうしておばあちゃんが言葉を発した瞬間、さらに後方から二人の影が現れる。

 って、おいおい……。


「何してんの! パパに、バカ兄貴!」


 ひかりのお兄さんとお父さんだ。

 エージェント一家が、揃いも揃ってどうしてここに?


「賢人くん。君は先ほど、炎ではない何かを使った。そうだね?」


「え、えーと、どうでしょう……」

 

 ひかりのお兄さんが、少々高圧的に尋ねてくる。

 小学生の頃に話した時は、あんなに優しかったのに。


「普通、異能は一人につき一つ。ごく稀に二つ以上持つ者もいるが、昨日発現したばかりで、すでに二つ目の異能を使っているのは怪しい」


「あー……」


 やっべ、見られてたのか。


「そうだ。賢人くん、ひかりの幼馴染なのは分かっているが、我々はエージェント。もし君が人に仇なす者なら、排除しなければならない」


「そんな……」


 つまりこれは、最初から俺をおびき出して力量を試していたということ。

 ひかりへの依頼というのも、多分この人たちが作り出したものだ。


 そして俺は、おばあちゃんの式神だという人魂を、公言している炎の力とは違う魔法で鎮めてしまった。


 エージェント側にとっては、良くも悪くも強大な俺の力。

 それを隠していたのだとしたら、危険人物の対象になりうるってことか。


「悪いが、話は拘束した後で聞く」


「──!」


 ひかりのお父さんがそう言うと、ひかりのおばあちゃん、お兄さん、と共に同時に向かってきた。


「くうっ──!」


 それを俺は、咄嗟とっさに弾いてしまう。

 即座に発動させた『身体強化』の賜物たまものだ。

 

「なんだ今のは」

「ますます怪しいですね、お父さん」


 だがそれは、逆に怪しまれる結果を招いたようで。

 三人の勢いはさらに強まる。


「やめてよ! 三人とも!」


「ひかりは黙ってなさい!」


 ひかりの声に対しても、三人とも俺への姿勢は変えない。

 それどころか、勢いは増すばかり。


「ずっと受け手ではやられてしまいますよ!」

「先程の異能を見せてみなさい!」

「私の式神を一瞬で消すとは、只者じゃないよ!」


 俺が何度も攻撃を弾くも、向かい続けてくる三人。

 これが、エージェントの意地か!


「ぐっ!」


 お兄さん、お父さんは肉弾戦。

 おばあちゃんは式神を召喚して、先ほどのような人魂を発生させている。


 これは非常にまずい状況だ。


 一体何がまずいって、


「お父さん! この者明らかに異次元です!」

「ああ、心してかかれ!」


 この人たち大して強くない……!

 少しでも強く反撃すれば致命傷を与えかねない、それが大問題だ!


 いやまあ、俺がチートなのかもしれないけど……それを言い訳には出来ない。


 俺は、ひかりのご家族を傷つけたくないんだ。

 それに、致命傷を与えてしまうことで、今度こそ取り返しがつかないほど危険だと思われてしまうかもしれない。


 だからこそ厄介なこの場面!


 ……しょうがない、力を誇示する方向でいくか。


 俺は無言で魔法を発動させる。

 『アース』!


「!?」

「なんだ!?」

「抜けない!」


 三人の足を固定する、土のかたまりを発生させる。

 足首まで固められた三人は、身動きを取ることが出来ない。


 三人は、俺のもう一つの異能(と思ってるもの)を見抜けていないみたいだ。

 ならばこうして、ある程度は好きに出来る。


「これはお前の仕業しわざか!」


「はい。すみませんが、少し話を聞いてくれると助かります」


 三人は「後で話を聞く」と言っていたが、どこかへ連れて行かれた時点でかなり不利だ。

 冤罪などはくつがえるることは少ない、そう聞いたことがあるしな!


 ならばより一層、ここで説得しなければ。


 三人が身動きが取れない中で、俺は異能(ということになっている)炎を出す。

 

 ぼおおおお!!


 それも、今まで見せた事ないほど大きな炎の球。


 太陽の様な色をした特大な火球となった炎は、俺が掲げる右手の上で燃え盛る。

 ひかりが出せる火よりも何倍、何十倍の威力を持つだろう。


「なんだ、それは……」


「えっとー、なんか異能が覚醒したみたいで……。これよりもっと大きなものも出せますよ」


「なっ!?」


 なんたって、ぐらいの火球だしなあ。


 だが、放ちはしない。

 これを放ってしまえば、本当に全身を焼いてしまうだろう。


 俺が求めるのはそうじゃない。

 少し静まってくれたところで話を──


「三人とも! これを見てまだ分からないの!?」


「!」


 俺が話そうとしたところで、ひかりが俺たちの間に割り込んで入ってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る