第8話 最初からそんなものはなかった?

 「人魂ひとだま!?」


 ゴブリンみたいな魔物ばかりじゃない。

 ひかりの言った通り、ガチでなんでもありじゃねえかよ!


「まずいわね……」


「何がだ?」


「人魂は火をえさとして成長するの」


「え! てことは……」


「そう、わたしたちには有効手段がないわ!」


 まじかよ、めっちゃピンチじゃん!

 人魂は全然怖くないけど、他の魔法を使わないといけなくなった!


 問題はどう誤魔化すか……だな。


「ぼーっとしてないで! 来るわよ!」


「ん?」


 一瞬考え事をしていた瞬間に、人魂を見失ってしまった。

 一体どこに!


「ぼおっ!」


 と思ったのもつかの間、背後で炎が灯る音がする。


「ぼおおお!」


「うわああぁぁ!!」

「賢人!!」


 人魂が俺の背後で激しく発火。

 俺の体が青白く燃える。


「あぁぁ……あれ?」


 でも、あら不思議。

 なんだこれ、痛くもかゆくもない。


 それもそのはず、俺は意識しない内に『水魔法』で体に膜を張っていた。

 見た目の現象と反して何も感じない。

 

 そうしている内に、人魂は俺の傍から離れる。


「くっ、中々やるじゃねえか!」


「え!? ちょ、大丈夫なの!?」


「ああ、ギリギリなんともない」


 ひかりにはダメージをくらったをした。

 さすがにノーダメージは怪しまれる、そう考えての事だ。


「と、とにかく良かったわ! でも、どうやって倒すのよ!」


「そうだな……」


 火が効かなくても、正直やりようはいくらでもある。

 問題は、いかにしてひかりに見つからないように魔法を使うかだ。

 

 それならば!


「ひかり、俺が囮になる! 火を放つ準備を!」


「え? だから火は効かないって!」


「大丈夫だ、それより早く!」


「もう……! 分かったわ!」


 俺が使える魔法は、前世の異世界に存在していた魔法。

 属性は、火・水・土・風の“四大属性”に加え、光と闇の計六属性だ。


 ここへ来るときに使った『身体強化』みたいな“特殊系”も存在するが、使魔法はこの六属性が基本となる。


 この中から有効そうなもの……今回は、水と光だな。


 水で弱らせながら、光で浄化する。

 よし、これでいこう!


「あれ~? 人魂さん、どこいったんだろ~?」


 そうして算段をつけた俺は、分かりやすく囮になる。

 こんな標的がいれば……。


「ぼおっ!」


 お、来た来た。

 また俺の背後で炎が灯る音がする。


「今だひかり! 本気で火を放て!」


「知らないわよ!? はあああっ!」


 文句を言いながらも俺を信じてくれたひかりは、火を放った。

 おお、中々大きい炎出せるじゃないか。


 そして、人魂に点くと同時に、


「ぼわあああ!!」


 さっきまでとは比べものにならないほど、青白く大きく燃える人魂。

 ひかりの火を喰らい、成長しているみたいだ。


 その成長の代わりに、ひかりの視界から俺の姿が隠れた!

 よーし、これなら!


「『ウォーター』、『ホーリーライト』」


 じゅっ!


「え?」


 ひかりが少し間抜けな声を漏らす。

 

 無理もないだろう。

 目の前で突然、人魂がひかりの火と共に一瞬にして消え去ったのだから。 


 俺は今の一瞬の内に、『ウォーター』で魔力を帯びた水を発生させて弱らせ、『ホーリーライト』で浄化したのだ。


 ひかりには、魔法を使ったのすら悟られなかったと思う。

 あまりにあっけなかったが、まあこんなもんでしょ。


「思った通りだ、人魂が炎を食べ過ぎて消滅したんだな」


 本当は裏でこっそり倒したが、今はこんなことを口走っておく。


「そう、なんだ。不思議な事もあるものね……」


「らしいな。ははは……」


 けどやっぱりちょっと心が痛い。


 ごめんひかり。

 いつかちゃんと打ち明けるから!


「ま、まあ、とりあえず任務は完了ね。回収するわよ」


「ん、回収って?」


「ああ、言ってなかったわね。エージェントは儲かるって言っても、倒した証拠がないとお金はもらえないわ。だからほら、こうして……」


 ひかりは懐から、箱を取り出した。

 この箱に“残滓ざんし”、モンスターの残りかすみたいなものを回収して、それを然るべき場所に報告・納品するのだと。


 残滓とは、人間でいう遺伝子みたいなもの。


 それを、国の裏組織は様々なものに役立てるべく研究する。

 その代わりに俺たち「エージェント」は報酬金をもらえる、という仕組みらしい。


 ちなみに、風邪薬やワクチン、その他あらゆる人類の発明には、モンスターから採取したものが混じっていると言う。


 モンスター由来の物は、今までも人類を大きく発展させてきたそうだ。

 ますます俺は何も知らなかったんだな。


 などと考えていた矢先、問題が発生。


「あれ? 残滓が採集出来ない」


「ん? それってどういう……」


 ひかりの不可思議な発言に俺も首を傾げていると、上の方から声がした。


「それはそうだろう。なにしろそれは、私が作り出しただからねえ」


「「!」」


 俺はひかりと同時に上を向いた。

 この、聞いたことのある声にあの風貌ふうぼう


 たしか……


「おばあちゃん!」


 そうだ、あの人はひかりのおばあちゃんだ。

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