1:23 Epilogue

司令官日誌コマンダーズログ アルフレッド・フォレスト

西暦  Aug.14.20xx

新界暦 000.631.05.15


 ゾンビ恐竜の駆除から二週間が経過した。これまでのところ、新たなゾンビの発生は確認されていない。

 ただ、ゾンビ菌については未だに謎が多い。

 最初に捕獲した草食恐竜の一頭が最も早くに感染していたと思われるが、どこで感染したのかは不明なままだ。この一頭は捕獲から八日後、棺桶コフィン内のケージにてゾンビとしての活動を停止した。老廃物をリサイクルする際の損失が大きくなりすぎて、最終的には活動を維持できなくなるようだ。

 大量感染を引き起こしたとみられるラプトル風の肉食恐竜についても、なぜあの一頭だけがあれだけの身体能力を発揮できたのか、依然として謎だった。炭化した死骸からでも読み取れる情報はあったが、燃やされる前の段階で確保できなかったのは残念なところではあった。

 体液や屍肉などを食べた小動物や昆虫類がいないかどうか、そして環境に露出した菌がどうなるかなどは調査中である。


 今後も散発的に発生する可能性は否定できず、治療方法などを早めに確立しておきたいところだ。

 もっとも、この世界特有の魔法が関わっていたとはいえ、このゾンビ化などという現象が自然科学の範疇で、我々で対処可能だと判明したのは朗報だった。



 意識不明者に関しては、修復の済んだタナカについては特に不具合はみつかっていない。隔離期間を終えれば、速やかに技術部の仕事に復帰してもらうことになるだろう。

 しかし、他二名については修復作業が進められてはいるものの、記憶障害や人格の変容の恐れもあるという。もしそうなった場合、果たして、我々の目的のために彼らを起こすことは、正しい行為と言えるのだろうか。

 本人の意思を確認できればいいのだが、変容させてしまった後の意見では正当性に疑問が残る。

 似たような問題は、以前から医療の現場では普通にあっただろう。しかし、簡単に答えの出せる問題ではなかった。

 迷いはある。

 間違っているとしても、必要であれば私はやるだろう。そして、その責任は全て私が負うべきものだ。



 地球側とは連絡を取ってみたものの、反応レスポンスがあったのは軍の一部と、中西部の片田舎にある研究機関のみだった。米政府機能が移されたはずのNORADは沈黙している。マサチューセッツのプロジェクト本拠地ではまだサーバーが稼働しているものの、返信を返す者はいない。

 こちらのゾンビ対策があちらで通用すれば良かったのだが、あいにく別物だった。残念ながら、今のところ我々が地球側に対してできることはなかった。

 我々は我々で、ニューホーツの開拓に専念することを第一に考えねばならない。



 開拓に関しては、来週、技術部の主導で試験的に畑を造ってみることになった。1アールほどの小さなもので、基地の敷地の片隅に造られる。

 元々は、植物生産工場のテスト項目を調べるためのテストというのがあって、それに使う合成苗を一部流用して、育ててみようというところから始まったようだ。苗にはマメ科の植物を用いる予定だ。

 こちら側の世界では初の試みばかりである。失敗は付き物だろうが、それも経験として糧になることを願う。

 農業は文明の基礎でもある。初期のうちは隔離された植物生産工場で賄えるとしても、いずれは外の農場が必要となる。

 広大な農地に実る作物と、それを刈り入れる新人類の姿を、早く見てみたいものだ。





Day 41


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