ロケットを飛ばして、

小富 百(コトミ モモ)

ロケットを飛ばして

「皮膚の下の牙」



 暗がりで蜘蛛に噛まれた。恐らく毒を持っているもの。薬指に痛みが走って思わず掻いてしまったら指の間を蹴ってなにかが走り去る。皮膚の下に鋭いものが入り込む。それからというものそこが痛痒くて堪らない。水で流して消毒をしてピンセットで毒牙を抜こうとするが上手くゆかない。その日の夜は諦めて眠りについたが酷く凍えて酷く疼いた。翌日明るいうちにもう何度か挑戦したけれど牙はどんどんどんどん奥へゆく。周囲が赤く腫れている、水疱がいくつか出来て何個か潰れている。病院を思い起こす、白い壁、青い長椅子の待合室。軟膏を塗ってガーゼで包み痛みが消えるよう蓋をする。あれから数日経つ。腫れは引いた、水疱も消えた、けれどいつまで経っても熱が冷えない。探しても探しても私の部屋に蜘蛛は見当たらない。片牙の蜘蛛が見つからない。見つけられない。

 黒い牙がこの薬指に入り込んでしまったまま、ずっとそこに、遺ったまま。










「ムスタング」




 マスカレードパーティに赴く途中酒に酔うように迷子になった。何かに沿っていればと思い、蔦を下り雫を飲みヤスデの橋を渡った。自切した蜥蜴の尾っぽを土産に右手に持って歩いたがとうとう何も見つからない。何も見つからないので仮面をつけて線路に沿った。早いも遅いも無く右も左も分からない、きっと廃線となったものだから。仮面をつけているので星も見えない、落としたパンプスの位置も覚えられない、ドレスの汚れも気にならない。鮮血滴る蜥蜴の尾があるので乾きも飢えも気にならない。

 あるく、あるく、スキップをしたら朝陽が昇る。ひらめく、ひらめく、異なる色の旗が空に幟る。うしなう、うしなう、わたしはわたしを見捨ててあげる。午後のお仕事、もうぐっばい。バーバヤガのお相手、さらばかな。

 わたしのうちには辿り着かない。








「すうぱあなちゅらる」




 かごめ、かごめ。なんだったかしらん、その続き。後ろの正面、能面、念動力。そんなあたしはサイキッカー!

 過ぎ去る、杉の木、好き好きよ、そんなあなたが大好きよ。車窓、火葬、あたしが好きなのは土星の輪っか。そんなあなたは水葬にしてって言った、酷いあたしは忘れたふり。

 こんにちも、月と追いかけっこよ。クレーター、静かの海まで泳いでいくのよ。こんばんは、太陽と隠れんぼよ。プロミネンスよ、何処の黒点に居るでしょう?捕まっちゃったら、見つかっちゃったら、あたしの負け、あなたの勝ち。かごめ、かごめ。囲め、囲め。

 迫る怪獣、脳天ビームでやっつけろ。大きな手のひら、心臓テレパス!良かったらそのチョコレート、渡しといてあげようか?だってヒーローという名の想い人、怪獣からは随分小さい。恋する君を応援する青い惑星、あたしの星よ。幻惑、自慢のおっきな涙なの。

 その代わり、あたしにこの窓ぜんぶ頂戴!

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ロケットを飛ばして、 小富 百(コトミ モモ) @cotomi_momo

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