6

「成すぞ、紋章クラウンNo.11正義」


 シンパンの両手の甲のように、背中が輝く。


「クッ、熱い!」


 チリチリと焼けるような痛みに襲われる。が、次第に痛みは引き、優しい光に包まれているような感覚へと変わる。


 変わったことはそれだけ。


「どうだ、慎二? なんか身体の奥から力が湧いて来たみたいな感じなのか?」


 目を輝かせながら、自身が期待している通りの答えを待つ京介。


 京介には悪いが、正直に答えよう。


「いや、特に」


 あっそう、と目に見て分かるように落ち込むが無視しよう。


 それよりも、


「シンパン、この背中」


「ああ、それが正義の紋章クラウン。背中だから見えてないだろうけど、剣と天秤が描かれて「聞きたいのはそれじゃない」ん? じゃあ何さ?」


 剣と天秤が描かれていること自体は知っている。世界から正義を授かったときに、1度見ている。


 俺が聞きたいのは、


「この紋章、刺青みたいに残ったりしないだろうな?  今学期中に水泳の授業がまだ1回残っててだな」


「今それ………確かにまだ1回残ってたな。バレたら退学とかになんのか?」


「即退学にはならないと思う。まずは生活指導室とかかしら?」


 この紋章が消えるにかどうかなのだが。


 流石に、背中に刺青のような物がある高校生は、問題がある。消えるのか、消えないのかだけを知りたい。


「気のするところそこなんだね、君達。………残らないよ、力が発動中しか浮き上がらないから」


 なら、安心だ。水泳の授業も安心して受けられる。


 じゃあ、今度は目の前のことに集中しよう。


 シンパンの言葉から考えるに、紋章が浮かび上がっている今、正義が発動中ということ。


 しかし、相手にも俺にも何も起きていない。


 シンパンが隠者を発動した際も、見た目だけで判断は難しかった。


 じゃあ、俺もそうなのか?


 それとも、何かしなければ発動していても意味がないのか?


 シンパンが隠者を発動した時のこと、その時の言葉を思い出せ。


 確か「対象に向けて発動すると」って言っていなかったか?


 俺の正義もシンパンのと同様に、対象を決めなければならないんだとしたら?


 ………やってみるか。


「正義の対象は怪物アイツ


 怪物を目で捉える。


「京介、俺に何か変化はあるか?」


「変化はない。


 それを変化と言うんだが?


 頭上の天秤を見ると、受け皿の1つに火が灯っている。


 片方だけとなると、1


 なら、もう1人は、


「正義の対象を自身に」


 自分から何かが抜けていくのを感じ、やっと力を理解した。


 紋章クラウンNo.11正義は、対象を2名選ぶことにより力を発揮する。


 対象2名の罪を秤にかけ、重い方——つまり罪が重い方に罰を与える力。


 天秤の両受け皿に火が灯り、傾く。


「シンパン、力を解いてくれ」


「いいのかい? まだどういう力か見ていないのに」


「大丈夫、理解したから」


 シンパンが力を解いたのだろう。


 怪物とやっと目が合う。


「なあ、お前の正義暴力と俺の正義、どちらが本当の正義なのか、試そうか」


「げけいjxっ。ふぉjdrbf、kskぢjdんd!(ふざけやがって。処刑だ、全員処刑だ!)」


 シンパンの隠者で隠れていたことに対して、怒り狂っている怪物。


 別にふざけていた訳じゃ無いんだが、怪物に説明する義理はない。


 最短距離で突進してくる怪物は、まるで重機の暴走かのように、触れるモノ、進行方向にあるモノ全てを壊す勢いだった。


 あんなモノに突っ込まれたら、生きていられないんだろうな。


 と、考えられるくらい冷静でいて余裕がある。


 というのも、


「これで終わりだ、大罪人——東京駅の怪物よ」


 頭上の天秤は測りを終え、片方は言い逃れ出来ぬほどの罪深く、もう片方は罪を知らない赤子のように軽かった。


「剣よ、大罪人に罰を」


 目の前に現れる巨大な剣。


 剣先はこれから断罪する者に向けられている。


 怪物の目にも剣が写っているのにも関わらず、止まることはなかった。


 どっちの正義が正しいのか。


 それを証明するかのように交差する。


「行け」


「hdけhldbsk!(処刑処刑処刑処刑処刑!)」




 —————————ザシュ。




「………hdけい、hxkskwkj?(………俺の正義が、暴力正義が負けた?)」


 剣は的確に怪物の首を捉え、胴体と切り離した。


 落ちた首は最後にそう呟き、体と共に灰と消える。


「………ふぅ、これで終わりだよな?」


「そう、これで終わり」


 怪物は死に、この東京駅も消える。


 捕まっていた人達も助かり、辛い記憶もここにいた記憶さえ消えてなくなる。


 感謝はされないけど、父さんや母さんのように正義は成せた。


「………………疲れた」


 そう俺は呟き、意識を手放した。


 だから、この後どうなったのかは知らない。


 後日京介に聞くまでは。


 京介に聞いたのが悪かったのだろう、ちょっと意味が分からない点がある。


 美妃先輩かシンパンに聞けば良かった。


 だって、京介、


「俺も何か帰りに《世界から力貰った》!」


 って言うんだから。



 


 


 

 

 

 


 


 





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C×C 〜クラウン×クラウン〜 九月 生 @syuhey

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