第6話 僕の原点

 今日出会ったばかりの少女に叩きつけられる痛くて目をそらしたくなるような台詞


 そもそもに君の作品面白くないんだよ。


 多分自分でも分かってた。何回も何回も書き直してコンテストやサイトに投稿しても「普通」「ベタな展開」「捻りがない」そんな感想ばかり貰ってた。

 でも目の前にいるのは僕とは雲泥の差があるれっきとしたプロ。現役で書籍化を実現してる人から言われるその一言は今までのどんな酷評より僕の胸に突き刺さった。


 「でもさ…こんなこと言われても君はきっと書き続ける。だって君は小説を書くことに魅入られた人間だから。そうでしょ?」


 うつむいてしまって動かない僕に転校生は慰めるとか励まそうとはしなかった。でもその問い掛けを聞いて僕はとある昔の大事な思い出をフラッシュバックさせた。


 10年前、

「ねぇねぇねぇ、お父さんの本って面白いのぉー?」

 一冊の本を抱え持ち、小さい頃の僕が特にその時は特に意図があったわけでもない何気ない質問をすると父は柔らかい笑みを向けて、

「んー そりゃ面白いと思ってくれてる人もいるだろうし、何より俺が面白いと思って書いてるから父さんの本は面白い。うんきっとそうだ」

 体は華奢な方だったけど小説について誰よりも強気で自信に満ち溢れた今は亡き父の姿を思い出す。そんな父が格好良くて僕も小説家になりたいと自然と思うようになっていた。


「確かに、ちょっと僕切り詰めすぎてたかもありがとう」

 いつの間にか忘れていた僕の原点を思い出させてくれた彼女に深々と感謝を述べる。


「ど、どういたしまして。ま、まぁ?面白くないものを書いてるのは変わらないから励み給えよハハハ」

 僕から感謝をされると思っていなかったのか少し頬を赤らめながら体を扉の方に急旋回させて、捨て台詞みたいなものを吐き捨てて図書室を後にした。






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夢に没れ、君に溺れる りゅうのしっぽ @4268

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