第2話 無職の少年、親切な美女

 鎧を着た女性に手を引かれ、暗がりから明るい場所へ。


 押し寄せる光と音とニオイ。


 横に長く続く広い道は、沢山の人が行き交っていた。


 さっきの石壁は家だったのか、道を挟んだ向こう側にズラリと並んでいる。


 って、こっち側も同じだよね。


 これ全部が家……なの?


 人族の町は想像以上の規模らしい。


 見つけ出せるのかな。


 去来する不安。


 まだこの町に居ると決まったわけでもない。


 この町に人は何人いて、あと町は幾つあるのだろうか。


 想像は楽観に過ぎず、後戻りもできない。



「大丈夫? もしかして、あんまり来たこと無かったかな?」



 間近から聞こえてきたのは、優しい声音。


 つられて見上げる。


 途端、思考が上書きされた。


 うわっ、凄くキレイな人!


 顔の造形もだし、髪だってそう。


 空と同じ色をした腰まで届く髪が、後ろに編まれている。



「ん? どうかした?」



 さっきは暗くてよく分からなかったけど、姉さんとはまた違った美人。


 姉さんはカッコイイ感じで、この人はキレイな感じ。


 男の人を従えているし、強くて偉い人なのかな。



「お姉さん、凄くキレイですね」


「あら、ありがとう。でも急にどうしたの?」


「あんまり人と会ったことなかったので。びっくりしました」


「そうなの? 何かお家の事情があるのかしら」


「人の少ない場所だったので」



 見下ろす視線が変化する。



「キミ、この町の子じゃないの?」


「あ」



 さっき捕まった人のことを思い出す。


 僕も捕まっちゃう⁉


 まだ見つけてもいないのに。


 どうしよう、どうすれば。



「ご両親は?」


「――――」



 あ。


 あああ。


 ああああああああああああああああああああああああああああああ。


 ■い記憶。


 蘇る。


 蘇る。


 アイツだ。


 アイツが全部。


 全部全部全部全部全部!



「ッ⁉」



 痛みで我に返る。


 身体を包み込む硬い感触。



「御免なさい。きっと聞いてはいけないことだったのね。でも大丈夫よ。誰にもキミを傷つけさせやしないわ」



 声はすぐ耳元から。


 気が付けば、お姉さんに抱きしめられていた。


 鎧越しだから、割と痛い。



「あ、あの、もう大丈夫です」


「本当に? さっきは凄く顔色が……いえ、そうね。楽しいことを考えましょう」


「楽しいこと、ですか?」


「ええそうよ。きっと元気になれるわ」



 金属の拘束から解放される。


 楽しいこと、か。


 何だろ。


 友達と遊ぶこと、とかかな。


 でも、ここに友達が居るはずもない。


 居るとすれば姉さんだ。



「あの」


「何か楽しいことを思いついた?」


「姉さんが、どこかに居るかも」


「キミのお姉さん? 聖都に来ているの?」


「多分」



 このまま連れて行かれるのも困る。


 もしかしたら捕まってしまうかもしれない。


 ならいっそのこと、姉さんと合流するべきだ。


 きっと凄く怒られるんだろうけど。



「なら見つけられるかもしれないわね。銀髪なんて珍しいもの」


「あ、姉さんは黒髪です」


「あーもぅ、ワタシったらまた……。御免なさい、そうなのね。なら他に特徴とか分からないかしら?」


「カッコイイです」


「えぇっと……そ、そういうのじゃなくて、見た目で分かったりしないかな?」


「見たらすぐ分かります」


「そ、そう。ならこのまま巡回して一緒に探してみましょうか」


「あの、一人でも大丈夫です」


「それは聞けないわね。キミを信用してないわけじゃなく、ワタシが責任を果たしていないもの」



 手を握られる。


 どうやら完全に解放してくれるつもりはない様子。


 どうしよう。


 余計なことを言ってしまったのかも。


 僕と同じように、ローブ姿のはずだとは思うけど。


 姉さんが見つかると、きっと騒ぎになる。


 何せここは、人族の町なのだから。





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