催眠《ヒプノシスアプリ》をインストールしますか?

白鷺雨月

第1話ヒプノシスアプリをインストールしますか?

「ほらとってきなさいよ!!」

四宮あおいがボールペンを地面に投げる。

僕はそれを犬の真似をして取りに行く。

四つん這いになり、地面を走り、そのボールペンを咥えて、四宮あおいの手に戻す。

それを見て彼女はキャハハッと笑う。

「そらご褒美だ、靴をなめろ」

さらに四宮あおいはローファーを僕の目の前に出す。

僕はその靴を震えながら舌を伸ばしてなめる。

彼女はその姿を見て、アハハッと蔑む笑いを浮かべる。


君塚みどりが僕の耳を引っ張る。

ちぎれるかと思うほど痛く。

「なあ、君は生きていて楽しいのか。女子にここまでされてプライドはないのか。君は暗いマナを持っている。無能な君はそれを使えないからこのような目にあうのだ。本当に失望だよ」

君塚みどりは訳のわからないことを僕の耳元でささやく。


「なあ、こんなのほっといてゲーセン行こうよ。ジョセフィーヌの奇妙な冒険やりたいんだよな」

濃い顔の少女がいう。

僕の頬をパチンと叩く。

「ほらどっか行きなよ。アーシはゲームしたいんだよね」

彼女の名は高橋光希。ペルシャ民族の血をひくクォーターらしい。


僕はこの三人にいじめられている。毎日腹いせに暴力をふるわれ、屈辱的なことをやらされている。

女子三人に僕は支配されている。

始まりは僕が四宮あおいの着替えをみたからというものだ。

あれは本当に致命的なミスだった。

僕はある資料を飯沼先生に頼まれて取りに行っていた。間違えて演劇部の部室に入ってしまったのだ。そこで学校一の美少女四宮あおいが練習用の衣装に着替えていた。

そこで僕は痴漢の容疑をかけられ、それを広められたくなければ言うことをきけという始末になった。


彼女たち三人は僕のことを馬鹿にして苛めている。僕は毎日このような屈辱的な嫌がらせを受けている。彼女らのいいストレス発散の道具になりさがっている。

かといって僕は学校をやめたり、転校する勇気や気力もない。いじめという非人道的な行為が僕の生きる気力を奪っている。


僕は傷ついた心身を引きずりながら自宅のマンションにかえる。古いマンションだが病死した両親が残してくれた大事な家だ。僕が引っ越せない理由もそれだ。


僕が一人帰宅するとリビングのソファーに一人の人物が腰かけていた。

それはなんと自分自身であった。

「やあ若き日の義宗君。僕は君の未来の姿だ」

彼は言う。

どことなく老けて感じるのは年をいっているからか。それ以外はたしかに僕そっくりだ。

「君の人生を劇的に変えてあげよう。未来の僕は惨めなものさ。どうにか入った会社はブラック企業で過労死寸前。だが、そこに悪魔があらわれて過去を変えてやろうといったのさ。さあ、スマホを渡してくれないか」

彼は言う。

僕は言われるままにスマホを渡す。

なにかカチャカチャとスマホをいじっている。

「さあ催眠ヒプノシスアプリを入れてやったぞ。こいつを使えば一定期間任意の相手に何でも言うことをきかせられる。だが自殺や自傷はできないから気をつけろよ」

そう言い、未来の自分は霧のようになり、ふわっと消えてしまった。


僕はスマホの画面を見るとヒプノシスアプリをインストールしますか?の文字。

僕ははいを選ぶ。

すぐに正常にインストールされましたという表示がでる。

かわいい女の子が眠っているイラストがアプリのデザインだ。

アプリを起動させると説明分が流れる。


「このアプリを正常に作動させるには対象者の画像と氏名、携帯番号などの連絡先を登録してください。次にスタートをタップするとアプリは作動します。効果は七日間です。その間、対象者はユーザーの命令には逆らえません。ただし対象者の命にかかわる命令は拒否しますのでお気をつけください。また一度アプリを使用した相手には耐性がつき、二度は使えません。ご使用は慎重におこなって下さい。それではこのアプリをお楽しみください」


試しに僕は学校一の美少女四宮あおいの氏名を登録する。モデルをしている彼女の画像はネットにあふれている。さらに四宮あおいは僕を呼び出すために連絡先は登録されている。この番号は恐怖の対象だった。



翌日、四宮あおいに誰もいない中庭に呼び出されてた。今日も僕に屈辱的な目に合わせてうさをはらすつもりなのだろう。

僕はダメ元でヒプノシスアプリを作動させる。

するとどうだろうか、四宮あおいの顔つきが変わる。無表情に近い顔だ。

「もう僕をいじめないでくれ」

僕は言う。

「わかったわ」

四宮あおいは静かに答えた。

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