第28話 妖魔

「……コン……コン……ごめんください」


……さて、鬼が出るか蛇が出るかですね。


「カーラ!心配したんだぞ!……あのスケベ親父は?」


「斃して来ましたので。もう心配ありませんよ……ところで貴女は?」


「……う……ひぐっ……お久しぶりで御座いまス。みこと様。いや姿も違いますし、何しろ遠い昔の事なので覚えておられないと思いますガ。貴女に救われました、しがないあやかしの一匹で御座いましタ。元猫魈ねこしょう緋色ひいろと申しまス」


「猫魈?……もしかして……あの、元の姿に変化へんげは出来ますでしょうか?」


「出来はしますガ……でも……元よりもかなり迫力が無くテ……いえ、命様の命令とあらバ……ちちんぷいぷい!……ポンッ!……」


……か……可愛過ぎます!出たのは鬼か蛇じゃなくて、ちっちゃな黒猫ちゃんでしたか。可愛い尻尾も三本もありますよ。

 でも思い出しました。大きな猫でしたけれど、もじもじと困ったような顔に見覚えがあります。あの時だって貴女は可愛らしかったですよ。







『お願いがあります女神様。どうか私をお救い下さい。私が私であるうちに死にたいのです。そうじゃないと天に居るお父さんとお母さんに顔向け出来ないのです』


『女神だと?私の姿がこいつには見えるのか?……相当に強い妖魔なのだろうな』


『いえ、そんな大層なものでは。私は長く生き過ぎただけの化け猫です』


『なんと、私の声まで聞こえるのか!これは随分と久しぶりに話が出来るぞ!よし。私の出来る限りお前の望みを叶えてやるから、少し語り合わないか?』


『滅相も無い。最期に大層お美しい女神様と語り合えるなんて。何よりも無い冥土への土産になりましょうぞ!』






『色々とありがとうございました〇〇〇〇様。それでは貴女のつるぎをお借り致しまして旅立つ事に致します』


『待て!……お前の心は悪しきものなんかじゃない!私が天界の〇〇〇〇〇に文をしたためるから、神同士ならば私の神気で書いた紙も……』


『お気持ちだけで幸せです……ぐっ!……私は……多くの……殺戮をした妖魔です……』


『何で両目を!……よりによって何で妖魔が一番苦しむ場所を…』


『……黒く……濁ってしまった……この目が……嫌いだったんですよ……元の……緋色には……………………』





……まだあの頃の私は自分の本当の名を覚えていた?いつ忘れたのでしょうか?

 その後天界と何かやり取りした様な?それも思い出せません。この子の眼が赤と金なのは私の神気で作り直したのでしょうが?

 おそらく、知り合いだったという神の名や姿すら今は思い出せないのですから、天界のおきてに関わる事なんでしょうね。

 まあ、この子にまた会えたのはとても嬉しいですし、この異空間部屋の謎に関しては後でゆっくりと訊けばいいでしょうからね。








「可愛いんだぞ!……「はなセ!」……うちの子にするんだぞ!……撫で撫で撫で撫で……「や、やめロ。力が抜けル」……撫で撫で撫で撫で……ボンッ!……」


「やりやがったナ!……待テ!……外に逃げるナ!……撫で撫でを倍返ししてやル!」


「元に戻してやったんだから怒るんじゃないぞ!それに私は魔王から一週間も逃げ回ったんだぞ!……そう簡単には捕まらないぞ!……ここまでおいで!」


……ポコちゃん。追い廻して本当にごめんなさい。

 さて、追いかけっこが終わる前にお茶の用意をして置きましょうか。

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